離脱
「エリカ、辛いかもしれないけれどついてきて。日生蓮、あなたなら離脱できるから一人で走りなさい。虹蝶望初は諦めて。あなたは勝手にして。印象操作!」
闇空帆野歌はそう言って離脱していった。
我、日生蓮はどう行動するべきだ?望初を置いていくように言われたようだが、それで本当にいいのだろうか?
確かに、この程度の敵ならば離脱は容易い。しかし、荷物を抱えてしまえばそれが危うくなる。全く持って闇空帆野歌の言う通りだ。
だが、改めて……それで本当にいいのだろうか?
「ちょ、え……あっ、超級魔法、水属性、蒼海乱舞!」
ここにはもう一人、今、魔法を放った希望学校の生徒がいる。見たところ、ここから生きて帰れるほどの強さはないように思える。
この生徒に関して、闇空帆野歌は特に言及しなかった。そして、我には分からない、この場で他人をどうするべきなのか。この生徒をどう扱えばいいのか、思いつきすらしないのだ。
望初を置いていくのはなんだか忍びない。どうしてなのかは分からないが。
ただ、望初を連れて行けばこの生徒を連れていくことはほぼ不可能だ。
しかし、合理的に考えよう。瀕死の望初を連れて行くより、まだ怪我をしていないこの生徒を連れて行く方がよいのではないか?望初は連れて行ったとしても死ぬ可能性があるのだ。
いや、それも違う。我は……
ユェンユェンが言っていたな。どんなに厳しい状況下でも全てを救おうとする無謀者がいるということ。しかし、そいつは無謀者と見せかけて全てを救ってしまうとんでもない力の持ち主だと。
我も、そうありたい。少なくとも今は。
「我に続け、離脱するぞ」
我は希望学校の生徒の肩を叩き、望初を抱えて走った。
「えっと……タッちゃんはどうなっちゃうんだよ?」
おそらく柘榴神のことを尋ねられているのだろうが……
「黙れ、自分の命すら危ういんだぞ」
我はそう強く言い放って迫ってきていた柘榴の枝を全て切り落とす。望初を抱えている分、鎌は片手でしか触れない。いつもより遅いし弱い。これだと次の枝は防げない。
「お前、魔法を撃て」
「え、あ、はいっ!超級魔法、水属性、蒼海乱舞っ!」
数本の枝なら弾き飛ばせる威力……少しはこの生徒も役に立つ。
その間に我は体勢を立て直して次の枝に備えられる。これを少しずつ走りながら繰り返せばいつか離脱できるはずだ。
「もう一回、撃て!」
「はいっ!」
そうこう繰り返しているうちに、飛んでくる枝も減ってきて、片手でも防げる程度になってきた。大分距離が離れたようだ。
だが、何か嫌な予感がする。
下か!?
「飛べ。何とかして」
生徒にそう指示を出し、我も飛び上がる。
「えっと、中級魔法、水属性、水鉄砲」
生徒は魔法による反作用で飛び上がっていた。
次の瞬間、地面から大量の枝が飛び出し、襲い掛かってきた。さっきよりも太いように見える。もしかすると、これは枝ではなく根なのかもしれないな。
鎌を投げつけていくつか斬り落とすが、到底防ぎきれる量ではなかった。これでは着地と同時にやられてしまう。
本来鎌は片手で扱えるような大きさの武器ではない。やはり望初を抱えるのは無謀だったのか……
ここで諦めたら終わりだ。何とかしなくてはならない。
だが、どうやって?
こんな絶体絶命の状況に活路はあるのだろうか?
それこそ、奇跡にでも期待するしか……
我は死を覚悟した。不思議と、後悔はなかった。
だが、奇跡は起きた。
熱線が通り過ぎたかと思えば、足元にある柘榴の枝がすべて消えた。我は無事に着地ができる。
「やっと見つけたねん。みんな蓮を探しとるで」
聞き覚えのある声。世界への反逆者の夜光ミチヨだ。
「蓮、帰ってきとくれや」
拒まなきゃいけないのに、助けてもらった身として、何か義理を果たさなければならないような気がしてしまう。
そう考えている間にも枝は飛んでくる。鎌を拾って斬り落とす。
「どしたん?」
ミチヨはともに戦ってくれた。これなら離脱はできそうだ。
どんな攻撃よりも、ミチヨの無垢な目が一番痛い。だが、ミチヨを利用しなければ我は望初と生徒を連れて離脱できない。とはいえ、やすやすと借りを作っていい相手では……いや、手段を選んでいる場合ではない。
「悪い、助けてくれ」
我はミチヨにそう言った。
「ええよ」
ミチヨはそう言って、枝を熱線で溶かしてくれる。
油断はよくないが、これなら余裕そうだ。
そうして我らは走り続けた。柘榴神からの攻撃が止むまで。




