奥の手
「……間に合わなかった」
虹蝶遡楽が苦々しげに呟いた。
「あ……」
虹蝶栄華は目の前の光景を呆然とした様子で眺めていた。
「はぁぁ〜……加勢とは面倒な……」
死体に混じって眠っていた藤原玲菜が起き上がる。
「時間遡行・繋」
そこで虹蝶遡楽は魔法を発動した。その小さな体が大きくなる。気がつけば、そこに立っていたのは幼女ではなく女性だった。そこから感じる魔力も明らかに強くなっていた。
昔、虹蝶遡楽は己の魔法を暴走させて幼女の体となった。それに伴って、魔法の質も、体力も何もかもが落ちた。そして、虹蝶遡楽が戻せる時間も霊界の時間で1日程度が限界となっていた。だが、虹蝶遡楽は魔法を暴走させる前という遥か昔まで時間を戻した。これは本来ならば無理なことであり、それゆえに永遠に状態を保存することはできない。すなわち、制限時間のある自己強化にあたる。
「奥の手で強引にってとこか……はぁぁ……寝かせてくれよ」
藤原玲菜が気だるげに鎌を持った。
「うちもいるで、次元斬」
虹蝶栄華は躊躇いなく魔法を放った。本来ならば味方を巻き込むため、慎重になるところだが、共に戦っているのが時間遡行で傷を回復できる虹蝶遡楽であるため何も問題はない。
「きつぅ……」
そう言いつつ、藤原玲菜は全ての攻撃を回避する。だが、余裕がないためか攻撃をすることはない。
「超級魔法、属性混合、蒼海雷電」
そこに虹蝶遡楽が追撃する。属性混合という高等技術による高威力の魔法で。
「当たらないから無駄だって……っ!」
藤原玲菜はその魔法を回避したが、その魔法は、余波だけでダメージを与えた。
「栄華っ……」
虹蝶遡楽がそう合図を出すと同時、その体は縮み、元通りの幼女に戻ってしまった。
「次元斬・爆」
藤原玲菜にできた隙は虹蝶栄華にとって十分なものだった。藤原玲菜を空間ごと粉々にする。
そのまま藤原玲菜の体は消滅した。
「遡楽、平気か?」
虹蝶栄華がすぐに虹蝶遡楽に声をかける。
「私は、大丈夫……でも……」
虹蝶遡楽の表情は暗かった。
「こんなに魔法屋店主やられちゃうと、もう結空の魔法は活用できないかも」
虹蝶遡楽の言葉は続く。
「あとさ、属性混合の魔法を撃つ直前に気づいたんだけどさ……こいつはみんなの仇だって怒りが勝っちゃって、取り返しのつかないことになったかも」
「どうゆうことや?」
虹蝶栄華は何が何だか分からない様子で尋ねる。
「この死神、翡翠神の魔法を持ってた」
虹蝶遡楽のその言葉に、事態の重さに気がついた虹蝶栄華が顔色を変えた。
「それって、翡翠に魔法が全部揃っちゃうやん!?翡翠は今……呪莉いるから平気か」
虹蝶栄華は早口で捲し立てた。
「無理だよ。呪莉さんが強いのは知ってる。でも、相手は翡翠神だからね」
虹蝶遡楽は俯いた。




