暴走
「柘榴神に体を開け渡す気はありませんか?」
エリカさんの問いに、マヨタンは黙って頷いた。
はい、とは言ってない。いいえ、とも言ってない。この複雑な言語が今はありがたい。
れみが死んだから、れみが消えたから、マヨタンが生きているんだ。れみが助けてくれたこの命、絶対に無駄にしちゃいけない。
だから、はい、とは言えない。
でも、れみを見捨てて、本当にいいの?
助けてもらったという事実にマヨタンは甘えてるんじゃないか?
れみのこと考えちゃうと……いいえ、なんて絶対に言えないよ。
「これ以上珠夜を困らせないで頂戴」
マヨタンとエリカさんの間に割り込んだ声。ゾメッチだ。
「困らせているつもりはありません。ただ最適解に珠夜さんを導いているだけです」
エリカさんはそう言った。その言葉に、ゾメッチの目が冷たくなるのを感じた。
「あなた、本気でそう言っているの?」
ゾメッチは今にも殴りかかりそうな勢いだ。
「私としては、あなたの行動原理の方が不思議です。虹蝶望初さん、確かあなたは記憶喪失でしたよね。そんなあなたにとって珠夜さんは他人でしょう?」
エリカさんはひるむことなく言葉を返す。意外としたたかな人だ……
「だから何よ?他人を助けたいと思っちゃダメなのかしら?」
ゾメッチを止めないと……マヨタンとしては戦いにはなってほしくない。
あれ、ゾメッチの後ろにいるのは……日生蓮?ゾメッチなら一人でも何とかなるだろうに、過剰戦力だよ!
「ダメとは言っていません。ただ、不思議なだけです。名前狩りにも身体狩りにもやられている上に記憶まで失ってしまっているあなたに心のそこから同情します」
エリカさんはそう言ったけど、その視線は殺気を帯びていた。
「分かっているとは思うけど、私はあなたを知らない。記憶を失う前の私とあなたが友達だったとしても」
ゾメッチがなんか不思議なことを言った。多分挑発だとは思うけど。ヤバい、戦いになっちゃう。
ゾメッチ一人で普通に行くならちゃんと脱出できるけど、あんまり派手にやると虹蝶みゆが出てくる。そしたらどうあがいても太刀打ちできないよ……
だから日生蓮がいるのか。でも、虹蝶みゆに対抗できるか……
「私は戦う意思はなかったのですが。望初さんはどうなのでしょうか?」
そう言ったエリカさんが軽くほほえんだ。これ、笑顔の裏になんかすごいもの隠してるパターンな気がする。
エリカさんってこんな人だったっけ……?ただただ優しい人っていうイメージだったけど。
「相手の意思を問うなんて、随分と余裕があるようね!」
ゾメッチがそう言って、エリカさんに向かって駆け出した。
争いは避けないと……止めなきゃ。
でも、その必要はなかった。
「 ……っ」
ゾメッチの口から、声にならない悲鳴が漏れた。
駆け出したゾメッチの胸を、何かが貫いたのだ。
これには見覚えがある。忘れるはずがない。
かつて希望学校に絶大な被害をもたらしたもの。そして、れみを奪ったもの。
そう、柘榴の枝だ。
どこからそんなものが?この場に答えは一つしかない。認めたくないけど、答えは明白だ。
マヨタンが、ゾメッチを刺したんだ。
日生蓮が鎌を取り出し、ゾメッチを攻撃した枝を斬り落とす。
「あぁっ……!」
そのタイミングで、マヨタンにも痛みが走った。
痛みは大したことがない。でも、その痛みで自覚した。
ゾメッチを刺したのは確かにマヨタンだ。
「あああっ!」
マヨタンは自分が何をしているのか分からなかった。
多分、頭を抱えてかきむしってた。
それなのに、外の声だけははっきりと聞こえる。
「ふふ、敵が分からなくて困っているようですね」
エリカさんがそう言った。
「敵は、魔法学校のはずだった。だが、望初を攻撃したのはこっちだ。我は……」
日生蓮の困った声。
「一旦様子を見てみるのはいかがでしょうか」
エリカさんがそう提案している。
「嫌、どっちも倒そう」
が、その提案を無視して日生蓮は暴れだした。日生蓮は鎌を二つに折った。まず、マヨタンに向かって折れた鎌の刃のついている方が飛んできた。マヨタンは避けなかった。でも、柘榴の枝が勝手に絡みついて鎌を止めてくれた。
その隙にエリカさんに一気に接近し、刃のないただの棒をエリカさんの体に突き刺した。
その棒を抜いて、マヨタンに向かって走ってきた。マヨタンもやられちゃうのかな?
だけど、柘榴の枝が絡みついて、日生蓮を妨害している。
「これは……」
苦戦している様子だ。一つ一つは大したことない様子だが、数が多すぎるのだろう。その上、倒れたゾメッチの方へ枝が行かないようにして、ゾメッチを守ってくれてるから……
「印象操作……危険すぎる、離脱するよ」
その声を聞いたと思ったら、枝が四方八方を襲い始めた。どうしたんだろう、暴走かな?
もう、よく分からないや。
誰もいなくなったのかな、気が付けば何も聞こえないし。
でも、枝はまだ動いている。誰も、傷つけたくはないんだけど、どうしようもないじゃん。
れみもこんな気持ちだったのかな……れみ……




