戻らない人
「さて、どうしたもんかねぇ」
呪莉さんがそう呟く。
私、星月夜翡翠は日生蓮を連れて魔法屋から逃げてきた。今は店主の間にいる。ここはまだ無事だ。
一旦戦闘は止まって落ち着いたとはいえ、魔法屋が死神であるユェンユェンに占拠されてしまったという重い事実があることを忘れてはいけない。
「何もできることはあらへんよ」
栄華さんがそう言って肩を竦める。ユェンユェンと戦っても勝てない、そう言ってるように聞こえた。
「攻めてきた魔法学校の生徒の方はどうなってるんですか?」
私は呪莉さんに尋ねた。そっちも心配だったから。
「流石に、魔法屋店主が負けたりはしないんだぁよ」
それならよかった、のかな?レンレンさんとツェンツェン倒しちゃうとユェンユェンが怒って襲い掛かってくる気がするけど。まあ、魔法屋店主のみんなだし、何かうまくやったのだろう。
「世界への反逆者も近くにいるだろうから、休めるうちに休むのも手だぁよ」
呪莉さんがそう言って寝転がった。ガチで休む体勢だ。
「うちが見張っとくから、ええよ」
栄華さんがそう言って身構える。流石にこんな状況で、見張りなしで、呪莉さんも寝たりしないよな……
「ちょっと待ってくれ、ユェンユェンは……」
日生蓮が慌てた様子で口を開いた。
「今はどうしようもないんだぁよ。放っておくしかないねぇ」
呪莉さんが優しい声でそう言った。日生蓮を説得するつもりらしい。
「君、一番行かせるわけにはいかないねん。引きずり込まれるん」
そうだよね。日生蓮まで死神になると大分話は変わってくる。呪莉さんが一人足止めできたとしても、2人同時となると……希望学校は容易く滅ぼされてしまう気がする。
「……分かった」
日生蓮はしぶしぶといった様子で頷く。
これからどうしよう。なんか急に平和になると、逆に落ち着かないというか……いや、全く平和になってないけどさ。
「暇なら頼みがあるわ」
そう言いながら店主の間に入ってきたのは望初さんだった。
「珠夜が戻らないの」
珠夜さんがエリカさんに連れられ、魔法学校へ行ったきり戻って来ないらしい。1人で来いとか言われていたから、罠があって、それに珠夜さんが嵌ってしまった可能性が高いそうだ。
「魔法学校ねぇ。生きてるかどうか、分かると助かるんだぁよ」
呪莉さんがそう言って私の方を見る。呪莉さんが言いたいことは分かった。
私は霊魂制御で珠夜さんの気配を探る。よく会ってる人だから行けるはず。
遠いから自信はないけれど、僅かに反応がある気がする。
「多分、生きてます」
私はそう報告した。
「だとすると、みゆの可能性が高いねぇ」
珠夜さんは生捕になってるってことだよね?そうすると、犯人は珠夜さんに利用価値を見出してる人ってことになる。
だからみゆさんってことか。柘榴神の体に使おうとしてるから。
「行きま……」
「それはダメだぁよ」
私は助けに行きたいと思ったが即座に呪莉さんに止められた。
「相手がみゆだから、ダメなんだぁよ」
そっか。翡翠神の体になる私も、みゆさんは狙っているはずだ。
「望初と蓮で行ったらどや?」
栄華さんの提案に、望初さんも日生蓮も頷いた。
「もちろん、行くつもりだったもの」
望初さんは今にも走り出しそうな勢いだ。
「役に立てるなら」
日生蓮もやる気はあるようだ。
私、結局暇じゃ……何でもないです。
「私たちが生きているのは、私たちの中のもう1人が犠牲になったからです」
「……」
「私たちは大切な人を犠牲にしたことによって意識を保っているのです」
「……」
舞羽珠夜の顔から、既に感情は消えていた。その心を破壊するのに、エリカの言葉は十分過ぎたから。




