揺さぶり
「よく来たね」
マヨタンはエリカさんから逃げた。
でも、やっぱり待ち構えられてた。
よりにもよって虹蝶みゆに。エリカさんと戦った方がましだったかも……いや、戦ってる間に襲われるだけか。
「どうして、マヨタンに何するつもりなの?」
エリカさんはマヨタンに声をかけた。近くにゾメッチもいたのに。その時点で罠なのは確実じゃん……
「柘榴の体を早めに確保しておきたかっただけ。翡翠神がいつ暴走するか分からない状態になっちゃったからね」
そういうことね。
でも、翡翠ちゃんの暴走って話のところだけがよく分からない。
いや、一旦落ち着こう。マヨタンは殺されはしないはずだ。それなら、捨て身で突っ込めば相手は逆に何もできないなんてことにならないか?
楽観的過ぎるかもしれないけど、仕方がない。ここまで綺麗に罠にはまっちゃった以上、どうあがいても、まずいことには変わりないんだから。
「逃がしはしません」
エリカさんも追いついてきてしまった。勝ち目はない。逃げ道もない。
それなら体力温存か。
マヨタンは両手を上げた。
「分かったよ、大人しくしてればいいんだよね」
マヨタンがそう言うと、虹蝶みゆは満足そうに頷いた。
「物分かりがよくて助かるよ。エリカ、捕まえといてくれ」
虹蝶みゆはそう言ってマヨタンに何か魔法をかけた。なんか体が重く感じる……
「分かりました」
エリカさんがそう言ってマヨタンの隣に立つ。こんな状態でエリカさんと戦ったら秒殺されそう。
「すみません、こちらの事情に巻き込んでしまい」
虹蝶みゆが立ち去ると、エリカさんはそう言った。
「いや、マヨタンが間抜けすぎただけなんで……エリカさん強いのに」
これ、世間話していい感じなのかも……?
「エリカは……強くないですよ」
エリカさんはそう言って俯いた。今の言葉、違和感しかなかったけど何でだろう?
「もしよかったら、私の話、聞いてくれませんか?お互い暇でしょうし」
マヨタンは頷いた。確かに暇だし、ちょっとさっきの言葉とか気になったから。
エリカさんから聞いた話は、不思議なものだった。
まず、人間界で死んでしまった後、霊界に来るまでの間に、動物との魂の結合が起こってしまうことがあるらしい。それによって動物の耳とか尻尾を持って霊界に来たりする人もいるのだとか。実際にそう言う人を見たことがあるし、これに関しては知っていた。
エリカさんもこれらしい。ただ、人間同士で魂が結合してしまったということ。だから、もう一つの結合した魂の自我を犠牲にして自分は生きている、と言っていた。もう一人の自分が完全に死んで消えたから生きているんだと。
それは、人殺しという償いきれない罪を背負って生きているってことなんだって。
それゆえに固有魔法も使える属性も二つ持っているから強く見えるだけなんだと。
エリカさん全体で見れば強いけど、エリカ単体は弱いって。
「柘榴神とあなたの関係と、少し似ていると思われます。参考になれば……」
エリカさんはそう言って話を終えた。
れみを犠牲にしてマヨタンは自我を保ってるってことだよね。分かってはいたけど、改めて突き付けられると……
この話をエリカさんに語らせるところまで含めて虹蝶みゆは仕込んだのかなってくらいには、マヨタンの心は揺れていた。
どうして話を聞いちゃったんだろう……
分かってる、れみのために、マヨタンは生きるべきだって。
でも、れみを殺してまでマヨタンは生きたくなんて……
今まで目を背けていた、でも、もうそれは出来なくなった。
れみ……どうしたらいいの?




