届かない声
「はぁ、はぁ……すみませんっ!」
マヨタンはゾメッチと一緒に希望学校を歩き回ってる。
世界への反逆者からの攻撃が止んだと見せかけて実はどこかに隠れてるかもってことで、探し回ってる感じ。
パトロールだよ。
その間に、声をかけられた。
すごく息が切れてる。全力で走ってきたみたい。
制服からして魔法学校の生徒か?あれ、マヨタンこの人と会ったことある。たしかエリカさんだったはずだよね。
「魔法学校で、何かあったの?」
ゾメッチがエリカさんを怪しんでいる様子だったので、マヨタンはエリカさんに声をかけた。ゾメッチが殴りかかっちゃう前にね。
「はい……その、言いづらいのですが……」
エリカさんは言い淀んだ。話してくれないと、ゾメッチに弾き飛ばされちゃうよ……
「魔法学校の人が希望学校に攻め込んでくると思われます」
エリカさんの答えは想像の斜め上だった。
ただでさえ世界への反逆者とか死神とか来てるっていうのに、そんなに……というかどうして魔法学校まで攻めてきてるんだろう?
「そこで、2人にお願いがあります。虹蝶みゆと交渉していただきたいのです」
虹蝶みゆってヤバい人だよね。話をしたところで何もないと思うんだけど。
「あなたの目的は?」
ゾメッチが口を開いた。
「死神が希望学校に攻撃をしているのは知っています。希望学校が落ちてしまえば魔法学校も安全ではない。魔法学校としては味方を増やしておきたいはずなのに、虹蝶みゆが指揮権を乗っ取ってしまった」
希望学校に攻め込むのは魔法学校の本意ではないっていうことか。でも、虹蝶みゆって牢屋にいた気もするけど、ヤバい人だし、何があっても驚いちゃだめだよね。
「分かった、魔法学校に行けばいいの?」
マヨタンがそう尋ねると、エリカさんは頷いた。
「はい、お願いします」
そう言ったエリカさんが歩き出した。
マヨタンはゾメッチと一緒についていく。
「一人で来ていただいてもよろしいですか?」
すると、エリカさんが振り返ってそう言った。
「どうして?」
ゾメッチがすかさずそう返した。確かに、一人で来いなんて典型的すぎる罠のフラグ。
「虹蝶みゆが、虹蝶望初さんとは話したがっていないので」
そう言われたら仕方がないかもしれない。マヨタンがここでしっかり交渉して、バッチリ希望学校への攻撃を止めないとだよね。
「分かった、ゾメッチは待ってて。大丈夫だから」
マヨタンはそう言ってエリカさんについていった。ゾメッチは戸惑っていたけれど、ついてくることはなかった。
「絶対に罠だと思っておきなさい。いざとなったらちゃんと逃げるのよ」
一言、そう言ってゾメッチはどこかへと去っていった。
警戒はしてないとダメだよね。マヨタンの身はマヨタンが守るんだ。
「走ります」
エリカさんが走り出した。
「固有魔法、風属性、俊足」
マヨタンの方が速いので、追い抜かないように気をつけなきゃいけない。俊足を発動する必要なんてないけれど、発動しておけばいざという時にすぐに逃げられる。
絶対に罠には引っかからないし、必ず虹蝶みゆを説得するから……ゾメッチ、待っててね。
「ユェンユェン、やめて」
ユェンユェンの姿が見えるなり、私、星月夜翡翠はすぐにそばに行ってそう声をかけた。そばに行くとか自殺行為すぎるけど、仕方ないじゃん……
「……翡翠、出来たら仲間でいたかったけど……レンレンとツェンツェンが……優先」
ユェンユェンを交渉で止められないようにするために魔法学校はあの二人を送り込んできたのかも?
「じゃあみんなで仲良くしようよ、魔法学校も希望学校も、みんなで」
私はそう言ったけど、聞き入れてはもらえなかった。返事の代わりに飛んでくるのは斬撃。
「無茶はだめやんね、次元斬」
栄華さんが間に入って攻撃を相殺してくれたから助かったけど、それがなければ今ので普通に真っ二つだった。
「なるほどねぇ、凱阿が負けた理由が分かったんだぁよ」
次の瞬間、凄まじい殺気を感じた。呪莉さんだ。
なぜかは分からないけれど、凱阿さんを殺したのがユェンユェンであることに気が付いたらしい。
呪莉さんが笛を持ってユェンユェンに殴りかかる。ユェンユェンも鎌で呪莉さんを迎え撃つ。
つけ入る隙などないような激しい攻防が繰り広げられた。
これじゃ会話による交渉は厳しい。完全に戦闘モードになっちゃったよ。
呪莉さんとユェンユェンはどちらもかなりレベルが高い。決着がつくまでにもかなり時間がかかるだろうし、その間に出来ることは何もない。
時間が経過すれば魔法学校から追加で攻撃が来るかもしれないし、世界への反逆者も戻ってくるかもしれない。その時にみんなの指揮を取る呪莉さんが動けないのは致命的。
このまま戦わせ続けちゃいけない。
そうは言っても容易く間に入れるほどのレベルの戦闘じゃない。戦闘の余波による暴風だけもヤバいと思う。私は干渉制御で防げるから大丈夫だけど、他のみんなは大変そうだから。
放っておけば状況は悪化する一方だ。
お互いに相手にのみ集中してくれていて、周りの人を狙わないから被害は少ないけれど……
体が木端微塵になってもよければ間に入れるんだけど……
「それなら任せて」
思考が誰かに読まれた?
誰かがそう言うと、2人の戦闘の間に飛び込んでいった。見えたのはその血しぶきだけ。
「固有魔法、無属性、超治癒回復」
かと思ったら血しぶきから人が現れた。正確に言うなら、血の一滴から完全に回復してきた。
「アカリン、無茶はダメなのです……とはいえ、それしか方法は思いつかないので止めないのです」
幽依先輩が横に立っていた。呆れたように回復してきた人、明里先輩を見ている。2人も騒ぎを聞いて魔法屋に駆けつけてくれたのかな?
「たまには私にも頑張らせてよね」
明里先輩はそう言って再び戦闘に割り込んで行く。
「……ん」
「割り込まないでほしいけどねぇ」
二回目でようやくユェンユェンと呪莉さんが明里先輩に気が付いた。
「止まるまで続けるからね」
そう言って明里先輩は何度も突撃しては回復していく。
これ、どうなっちゃうんだろう?




