狂い
私、星月夜翡翠は死神三傑の一人であるミレイユと戦っていた。そして、倒したつもりだった。
「これ以上やられるわけには行かないじゃん?」
ミレイユしか今死神はこの場にいないと思っていたけれど、そう言うわけではなかったようだ。
私が攻撃しまくったせいで何も見えないが、声が聞こえた。
この声、聞き覚えがあるようなないような……?
「あら、守られちゃった」
ミレイユの声も聞こえる。倒せてなかったっぽい。
また鎌が飛んできた。いちいち避けたり落としたりしてもキリがない。その上、あれだけの結界奥義からミレイユさんを守れる存在もいるはずだし……
まずいな、やっぱり一人で突っ走っちゃダメだわ。でも、やっちゃったからにはやり切らないといけないね。
ここまで来たんだ。全員まとめて倒してやる。と言いたいところだけど、一旦、目の前の鎌を全部落とさないと。
「あははっ!」
鎌を全部落としたと思えば、死神が突っ込んできた。
何とか結界奥義で軌道を逸らしたけど……これ、後ろから追撃される流れだ……
干渉制御で地面への干渉を外し、潜り込むことで回避する。
でも、今の一瞬で攻撃者の姿が見えたよ。あれ、子栗鼠ちゃんだ。だから聞き覚えのある声だったんだね。
本当に、子栗鼠ちゃんは死神なんだ。みんなに話は聞いていたけれど、改めて見ちゃうと結構ショックだな……友達になれたと思ったのに。
もしかしたら、友達になって油断させてくるような死神なのかもね。
「子栗鼠ちゃん、なんで?なんでそんなことするの?」
私は感情的になって叫んでいた。裏切られた気持ちってこういうことなんだって。なぜか自分の感情は他人事のように感じた。
「へ?」
子栗鼠ちゃんが首を傾げる。死神であることは、子栗鼠ちゃんにとっては何の疑問もないことなんだね。
「白魔結晶!天花様に手間をかけさせた罪は重いわけで……」
「……リズミック・ジムナスティックス」
氷と隕石が降り注ぎ、ミレイユと子栗鼠ちゃんに直撃する。
天花様にメロディー先輩。
「……うぅ」
天花様が怯えた目をしている。しかし、それは死神に対してではない。メロディー先輩を怖がっているのだ。どんな表情でも美しい顔って存在するんだなって思い知らされる。今はこんなこと言ってる場合じゃないね。
メロディー先輩の表情は見えなかった。でも、何か様子がおかしい。
失礼かもしれないけれど、少ししゃがんでメロディー先輩の顔を覗いてみる。
「きゃっ……」
私は思わずその場にへたり込んだ。ものすごい怨恨を感じた。鬼気迫る表情とはまさにこれ。それでいて目には生気がない。
「ふんっ!」
「お姉さんも本気出しちゃおうかしら」
あれだけの攻撃を受けて、流石に多少傷ついているが、まだ動けるらしい。子栗鼠ちゃんにミレイユが突っ込んできた。
「……」
メロディー先輩が黙ったまま魔法で出来た杖を握る。その杖見たことあるはずだけど、もっと暖かい色で、丸い形で、片手で握れるくらいには短かったような。
メロディー先輩は、身長と同じくらいあるその杖を両手で握り、思いっきり振り回した。
がむしゃらに振り回しているだけのようで、杖は全然当たらないが、子栗鼠ちゃんとミレイユの勢いを止めるには十分だった。
今なら攻撃できる。
「天花様!」
完全に闇落ちしてしまっている様子のメロディー先輩を見て茫然としていた天花様に声をかける。
「白魔結晶!絶対零度!」
私の声を聞き、我に返ったような様子で天花様が攻撃をしてくれた。
「属性奥義、結界奥義!」
天花様は氷属性、だからそれを強化する結界を張ればいいね。天花様が放った魔法が明らかに強くなった。ちゃんと効果が出てよかった。
メロディー先輩によって勢いを止められ、一度減速してしまった子栗鼠ちゃんとミレイユさんにこの魔法は避けられない。
天花様の魔法は致命傷を与えず、死神の足元を拘束した。
動きが止まった死神に、メロディー先輩の杖が思いっきりぶつかる。
「……は」
メロディー先輩は狂ったように杖を振り回し続ける。
「……あは」
何か言ってる?
「……あははははっ!」
違う、笑っているんだ。
『せめて戦えよ!』
あの時、炎帝さんが死んだとき。
メロディー先輩は苦しそうにそう言った。
私は……戦わないと。
でも、死神は既に天花様の魔法で拘束されてメロディー先輩のサンドバック状態。
なんで戦わないと思った時に限って、いつもいつもいろいろ終わっちゃってるのかな?
「あはっ!あはははっ!」
痛々しすぎるよ。どこからそんな狂った笑いが出てくるの?
メロディー先輩は強い。死神が負けて、子栗鼠ちゃんとミレイユが消えるのも時間の問題だろう。ちゃんと戦いに勝てて、私は死神山へ進める。
でも、このまま終わらせちゃダメな気がするんだ。
死神を見逃したとしても、メロディー先輩を止めないと。本当にメロディー先輩が今死神を殺してしまったら、取り返しのつかないことになる。完全に壊れてしまう。
いいの?死神を見逃して?
いいよ。それより大事なもの、あるでしょ?




