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2つの世界を繋ぐ者  作者: きっこー
属性奥義
133/177

開戦

「揃いました……はぁぁ~」

「揃ったんだゾ☆」

 藤原玲菜(ふじわられいな)炒菜椿(いりなつばき)はそう言った。死神山の何もない空間に向かって。

「揃ったって言ってるんだゾ☆」

 炒菜椿が苛立たし気に声を荒げる。

「……はぁぁ~」

 藤原玲菜は諦めたように背を向けて歩き出そうとする。

「聞こえてるっての、うるさ」

 虚空から現れたのは禍々しい気配を放つ存在だった。それは死神の総大将だ。

 鬱陶し気に藤原玲菜と炒菜椿を一瞥したが、すぐに目をそらす。

「もう魔法屋にはいろいろ向かわせてるし、お前らも早くいけ。どこ行くべきかは分かるでしょ?」

 高圧的にそう言ってすぐに消えてしまった。

「うざ……」

 藤原玲菜がそう吐き捨てつつも、すぐに指示通りに動き出す。


「……」


 ごきっ。

 

 黙ったまま立ちつくしている炒菜椿の体から歪な音がした。

 命令の混信による不具合だ。

 だが数秒後には何事もなかったかのように歩き出していた。身体狩りの指示に従って、人形として己の戦場へ向かっていった。


「ユェンユェン、日生(ひなせ)……待ってるからね、ふふっ」

 死神の総大将は、そんな藤原玲菜と炒菜椿の様子を、遥か遠くから見つめながらそう呟いた。

 







 世界は歪んでいる。

 少なくとも、私の目にはそう映っていた。

 みんなはそうは思っていないとしても、私は私の考えを決して変えることはない。

 だから、この世界の歪みを正す。

 どんな手を使ったとしても。

琴羽(ことは)ちゃん、琴羽ちゃん……」

 私はそう言いながら、愛用の算盤で(つむぎ)琴羽ちゃんの頭をコンコンと叩く。

 考え方が似てる子は齟齬なく操れるから楽でいいよね。

「操りすぎは逆効果なんですけどぉ」

 隣で何か言っているうるさい奴は無視しようね。

「いやいや、開戦直後ほど大事な時期はないでしょ」

 こいつも無視で。いや、やっぱり、私に都合のいい意見だから無視しないでおこう。

「開戦直後ってやっぱ大事だよね、スタートダッシュだよ」

 そんな風に適当なことを言いつつ琴羽ちゃんをしっかり操るよ。

 楽しみだね、戦争ってものは!








 私は、誰?

 私の名前は虹蝶望初(にちょうのぞめ)らしい。

 だから何?名前が虹蝶望初だからって……

 私は、誰なの?

「ゾメッチ……?」

 この子も誰なの?いきなり舞羽珠夜(まいはねたまよ)だなんて名乗ったところで、結局何者なのよ?

「……はぁぁ~」

 私は思わずため息をついていた。

 名前ってその人物を象徴する大切なものだと思っていた。でも、結局は個人を識別するための記号でしかないじゃないの。

「大丈夫?」

 心配そうな珠夜に顔を覗かれる。

 さっきまで世界への反逆者の拠点に行っていたのだから、あなたも疲れてるでしょうに。

「ええ、問題ないわ」

 大丈夫なわけがない。でも、私の口は……記憶を失う前の私が、そう言ってしまうことを許してはくれない。

 呪莉(じゅり)さんが言っていたわね。私の名前は呪莉さんが考えたんだ、と。

 名前狩りとかいうよく分からない死神のせいで、私が霊界へ来た時に本来持ってくるはずの名前はなかったらしい。名前と魔法はセットだから、名前がなければ魔法も使えないのが普通だというのに、私は魔法を使えた。

 だから、初めて見るような素晴らしい可能性を秘めた存在ということで、私は露希望初と名づけられたらしい。センスないわね……今のはなしで。

 それから魔法屋店主になって虹蝶望初に変わったんだと。

 まあ、つまり……私の名前は人間界からちゃんと持ち込まれたものじゃなくて、後からつけられたものだということ。それゆえに、名前と魂の結びつきが他の人よりもかなり薄いということ。

 霊界だと、名前を呼ばれるだけで記憶喪失が治ったりするらしい。名前と魂が人間界から持ち込まれたたった二つのものであり、その結びつきは非常に強固だからだ。

 でも、私はそれに当てはまらない。

 だから、記憶が戻る可能性は低い。

 私は別にいいと思っている。記憶がない虹蝶望初として生きていくだけだもの。

 でも、それを許してくれないのが周りの存在。

 みんな、記憶が戻ることが私のためだと思い込んでいる。

 確かに、記憶を失う前の私は喜ぶかもしれない。

 でも、記憶が戻れば、記憶喪失の虹蝶望初である私は消える。だから私が喜ぶわけがない。

 そう思えば誰かと会うのが面倒になってきた。それなのに珠夜はずっと傍にくっついてくるし……

 頼まれた戦いには全部行った。戦死しちゃうのもそれはそれで有りだと思ったから。でも、虹蝶望初はそこそこ強いようで、問題なく敵を倒せてしまっていた。

「……はぁぁ~」

 もう一度ため息が出てしまった。

 なんだか外が騒がしいわね。あら、戦ってるじゃない?

 あれは世界への反逆者の制服……

 そう思った瞬間、私は戦場へ躍り出ていた。

 敵は大量、味方は混乱中。

 これは本当に、戦死しちゃうかもしれないわね。

 そんな期待を胸に。

 死を期待するなんて……私って終わってるわね。

 ごめんなさい、虹蝶望初さん。



 




「よっと」

 そんな軽い声と共に虹蝶(にちょう)みゆは自らを閉じ込める牢屋の鉄格子をへし折った。

「こんにちは」

 そのまま歩いていき、捕えられている千葉(せんは)に声をかける。

「えっと……」

 突然の来客に千葉は戸惑いの声を上げた。

 その言葉を聞く前に、虹蝶みゆは鉄格子をたたき割り、千葉を解放する。

「あの……」

 千葉が不思議そうに声をかけようとしたが、虹蝶みゆはそれを無視した。

 その流れで虹蝶みゆは、世界への反逆者のメンバーたちの牢屋を壊していく。

「どうして……」

 去り際、千葉が何とか虹蝶みゆを引き留めて尋ねた。

「戦争が長引かないと、私の目的が達成されないから」

 そう言って虹蝶みゆは去っていった。

 戦争が終わってしまえば、翡翠神は力を求めない。逆に、戦争さえ続けば翡翠神は強くなろうとし続ける。そうすれば、全ての魔法が揃って体が明け渡されるのも時間の問題。

 それを虹蝶みゆが口に出すことはなかった。


四章完結です。


ここまで読んでいただけていたら、本当に感謝です。


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