理念
私、星月夜翡翠は世界への反逆者の拠点にいた。そこで、リーダーの紡琴羽が縛られているので、いろいろ質問しようとしたが、なかなか口を割ってくれなくて困っていたところだった。
「ーー」
呪莉さんが紡琴羽の耳元で何かを言った。
「それは本当なの~?」
紡琴羽が食いついてる……どんな恐ろしいことを言ったのだろうか?
「そっちの態度次第だけどねぇ」
呪莉さんは笑っていた。怖いくらいの笑顔。
「何でも聞いていいよ~」
なんか、すごく従順になったな。
「呪莉さん、何を言ったんですか」
それによって聞ける質問は変わってくる。だから私は、まず呪莉さんに質問した。
「簡単なことだぁよ。対死神限定だったら力を貸すって言う話だぁね」
ああ。なるほど。
条件付きとはいえ、呪莉さんレベルの戦力を使えるなら、話す気になるだろうな。呪莉さんをそっちに拘束して、その間に何かするとかも出来るわけだし……
「じゃあ、改めて……世界への反逆者の活動を具体的に教えてくれ」
その問いで、紡琴羽は語りだした。
世界への反逆者の目的は、弱者が救われないこの世界の仕組みを変えること。そんな大それたことをするためには戦力が必要だから、洗脳してでも仲間を集めているらしい。珠夜さんは殺せなかったけれど、拠点を知られたら基本的に知ってしまった人たちを殺していたらしい。翡翠神の魔法は霊界でうまく使えば超チートだから、それを狙って人間界にいる、るるへの接触を試みていたり、私を直接襲いに来ていたりだ。
内容はそんな感じだった。でも、これじゃあ銉ちゃんが殺された理由が説明されていない。
「銉ちゃんは……銉ちゃんは、なんで……なんで殺されたんですか?」
感情のままに尋ねた。自分でも声が震えているのを感じた。
「翡翠神の逃亡を手助けしたからだね~」
あ……
結局、私のせいだった?
「翡翠ちゃんのせいじゃないよ」
珠夜さんが慌てた様子で励ましてくれるけど、始まっちゃった思考は止まらない。
私がちゃんと強くて、逃げる必要なんてなくて、しっかり戦っていたら……銉ちゃんは助かっていたってことなんだから。私次第で銉ちゃんを助けることは可能だった。なのにできなかった。
どうして銉ちゃんは死んでしまったの?
私が、逃げたから……私が……
「落ち着きなさいよ」
望初さんがそっと背中をさすってくれていた。望初さんはそんなことするような人じゃない。私を思いっきり攻めるだけ攻めまくって、そこから解決策を一緒に考えてくれるような厳しいけど優しい人だ。こんなふわふわとした優しさは望初さんらしくないよ……やっぱり記憶、ないんだな。
「……」
珠夜さんも微妙な表情をしているし、やっぱり今の望初さんは、記憶をなくす前の望初さんからは考えられないものなんだと思う。
「一旦止めておくんだぁよ、質問できるのは今しかないからねぇ」
呪莉さんの言葉に我にかえる。時と場合も考えず、自分の思考に浸るなんてまあ間抜けなことをしていたもんだ。反省はしなきゃいけないけれど、今はその時じゃない。
「洗脳してるのは誰なん?」
栄華さんが質問をする。
「蓮とティアラと桃花だよ~」
思っていたよりも少ない。意外と世界への反逆者の理念に賛成する人は多いのかもしれない。
桃花……生きているのは桃乃じゃなくて桃花なのかもね?
「最初はみんな洗脳だけど~、解いても問題ない子は解いてるからね~」
いや、そういうことかよ!?
しばらく世界への反逆者で洗脳状態で過ごしてもらって、いい感じに賛成してくれたら洗脳を解いて、ダメならそのまま……怖
「理恵は?」
呪莉さんが重苦しい声で尋ねる。
「理恵~?確かに特殊だね。自ら拠点まで来て仲間に入れてほしいって頼んできたから~。みんな洗脳って言ったけど違うね~、理恵は洗脳じゃないの~」
呪莉さんの表情が暗い。何かと理恵さんを気にかけているけど、知り合いとかなのかな?
でも、なんとなく見えてきた。
目的のためには殺しも辞さないし、人道なんていう概念もない。
弱者が救われる世界っていうのがどういうものなのかは分からないけれど……聞くか。
「どんな世界を目指してるんですか?」
紡琴羽の目が一瞬光った気がした。あ、これ勧誘が入るやつだ。惑わされないように気を付けよう。
というか、私なんか鋭くなってる気がする。勘が……
霊魂制御で相手の魂を感じられるようになったからかもしれないな。
「世界への反逆者が目指す世界はね、誰も迫害されない世界なの~。どれだけ他人と比べて劣っていたとしても、なにも文句を言われずに生きられる世界。素敵だよね~?」
確かに、それが実現すればみんな仲良く暮らせる。
「だから~、世界への反逆者はこの霊界のバランスを壊していく強者も、迫害されることくらいしか能のない弱者も……消す~」
つまり、平均的な人しか生きていない状態にして、実質みんな同じ程度の能力、平和~!ってことだね、ふざけるな。
向こうは魅力的に話してるつもりなんだろうけど、これっぽっちも魅力なんて感じない。
話は終わりだ。紡琴羽をこれから結局どうするのかは私ひとりで決めることじゃないけど、野放しにできる思想ではないね……




