正面衝突?
世界への反逆者の拠点では、壮絶な戦いが繰り広げられていた。
「それっ!」
「次元斬!」
虹蝶呪莉と虹蝶栄華の攻撃が同時に紡琴羽を襲う。
「あなたたち、倒すのは絶対無理だけど~逃げるだけなら意外と何とかなっちゃうね~」
そんな言葉を吐きながら、紡琴羽は軽やかに攻撃を回避していく。片足に片腕がないというのが嘘のような動きだ。うまいこと杖をついて、片足で飛んで、くるくると回っているのだ。
「2人で襲い続けても無駄だぁね。栄華、足止めは頼んだ」
虹蝶呪莉はそう言って、虹蝶望初、舞羽珠夜の方へ加勢する。
「足止め……了解や!」
虹蝶栄華は紡琴羽の周囲の空間を隔離する。
「……」
紡琴羽は何かを言ったが、その声が隔離された空間の外へ漏れることはない。
それを横目に、虹蝶呪莉は燈陰桃乃?に笛で殴りかかった。
「呪莉さん!」
一瞬にして燈陰桃乃?の魔法を消し飛ばし、さらには本人にダメージまで与えた虹蝶呪莉を舞羽珠夜が輝いた目で見つめる。
「固有魔法、無属性、衝魂」
虹蝶望初がすかさず追撃し、燈陰桃乃?を気絶させた。
「ゾメッチ?大丈夫?」
舞羽珠夜がすぐさま駆け寄っていく。
「ええ、何も問題ないわ。この魔法、以前の私はどう使ってたのかしら……?」
虹蝶望初は手を開いたり閉じたりしている。他人の手を見る目で、自身の手を見つめていた。
「無理はしないことだぁね。さて、敵はまだまだいるみたいだぁよ」
虹蝶呪莉の視線の先にあるのは瓦礫だった。そこから滴る鮮血は生々しく、潰れたばかりの人間がそこに埋まっているのは明らかだった。
「……、リ……バー、シ」
瓦礫の中から絞りだされた詠唱。
その魔法が発動されると同時に、虹蝶呪莉はその場にへたり込んだ。
「はぁ、これは厄介な」
しかし、呼吸一つで立ち上がった。とはいえ、戦場でのそれは致命的な隙となる。
「覚悟です!」
その言葉と共に、虹蝶呪莉の背中に迫るのは短剣。
「そうか……そう来るんだぁね。連携とは成長したねぇ、理恵?」
虹蝶呪莉は振り向き、その短剣を左腕で受ける。
「ありがとうございます」
虹蝶呪莉に致命傷を与えられなかったことを認識するや否や、短剣を構えた少女、虹蝶理恵はそう言いながら素早く距離を取った。
「こっちも……」
「超級魔法、風属性、爆風神刀」
さらにその背後から虹蝶呪莉を襲おうとするさっきまでがれきに埋もれていた少女、ティアラは舞羽珠夜によって止められた。
「辺りにはもう、気配がないけれど……」
虹蝶望初が警戒したように周囲の様子を探る。
「まだメンバーいたはずだよね」
舞羽珠夜も視線をさまよわせる。腕の中の千葉は絶対離さないようにしながら。
「一旦大丈夫そうだぁね。栄華の方へ行こうか」
虹蝶呪莉がそっちへ視線を向けると、虹蝶栄華はちゃんと紡琴羽を隔離していた。
「どうしたらいいのかしら……?」
虹蝶望初が考え込む。倒すだけでもとても難しい相手だというのに、生け捕りにして情報を得なくてはいけない。その難易度は計り知れない。
「どうしたもんかねぇ、あの子を呼ぶのが手っ取り早いと思うんだぁよ」
虹蝶呪莉はそう提案する。
「あの子って?」
その提案に舞羽珠夜は首を傾げている。
「この人の姉がいたんだったかしら?その人のことだったりは……?」
虹蝶望初が推測を述べる。その言葉に虹蝶呪莉は満足げにうなずいた。
「繭羽が来てくれるかどうかは賭けだけどねぇ。呼ぶ価値はあるんだぁよ」
そう言った虹蝶呪莉は虚空を見つめていた。
「聞いてみます」
その虚空から返事が返ってくる。虹蝶結空からだ。
「行ってくれるそうです。すぐに送ります」
虹蝶結空がそう言った直後、虹蝶繭羽が虚空から現れた。空間結合による転移だ。
「解放していいよ~、任せてね~」
虹蝶繭羽の言葉に、虹蝶栄華は魔法を解く。
「繭糸万本だよ~」
隔離空間から解き放たれた紡琴羽を虹蝶繭羽がすぐさま縛る。
「あなたの境遇は分かっていたからね~。同情なんてものじゃ救われないくらいに辛いことだったと思うの~。だから、あなたが何をしようと、ある程度は邪魔をしないつもりだった」
虹蝶繭羽の言葉に、一同は黙って耳を傾けた。
「でも~、ちょっとまずいことしちゃったね~」
そう言いながら紡琴羽の拘束を強めていく。
「ぐぅ……ふぅ……」
紡琴羽の苦しげな表情など意にも介さず、虹蝶繭羽はさらに締め付ける。
「教えて、何をしたのか正直に。そして償えば、ちゃんと生きられるから。琴羽は優秀なんだよ~」
虹蝶繭羽は厳しい言葉も吐いたが、表情はどこまでも優し気だった。
「……ぁ……ぇ」
紡琴羽はほとんど息もできない状態になりながらも、声を絞り出していた。
「黙れ……黙れ!うるさい幸福者が!恵まれた存在が!」
そう叫ぶなり、紡琴羽の全身から力が抜けた。抵抗を諦めたようだ。
「とりあえず、生け捕りなの~」
そう言った虹蝶繭羽の口調も表情も明るかった。違和感なくはめられた義眼と合わせて、完璧な笑顔を作っていた。
しかし、生来の瞳の奥底にある隠しきれない苦しみ。それはわずかに見えていた。




