刺客
「お腹すいたの~。というか蓮はどこに行ったの~?」
世界への反逆者の拠点では紡琴羽が不満げに地面を転がりまわっていた。
「確かに、蓮おるか!?」
夜光ミチヨがその声を聞いて拠点内で日生蓮を探し回り始めた。
「空腹に関しては耐えるしかないわけだコン。理恵が有能だったら話は違ったコンけど」
小狐丸鈴はそう言って隣で苦心している虹蝶理恵を見る。
虹蝶理恵は模擬化けでなんとか闇空帆野歌に擬態して、印象操作を使えないか試みている段階だった。
「あたし的にはどうでもいいから、早く次の作戦立ててくれない」
ティアラもまた気だるげに虹蝶理恵を見ている。
それらの視線から気まずそうに目を背けながら、虹蝶理恵は魔法を試し続ける。
「みんな落ち着いて!」
その空気を打ち壊すような明るく元気な声が響いた。
「千葉、蓮がいないよ~」
千葉と呼ばれた少女の目は希望に満ち溢れ、爛々と輝いていた。
「ミチヨさん、蓮さんはもう探しました。外出中のようです」
千葉はそう言ってミチヨを止める。
「鈴さん、理恵さんも頑張っているんです。鈴さんも蜃気楼で何かできたりしませんか?」
その言葉に小狐丸鈴は不満げに目をそらす。とにかく、虹蝶理恵への悪態は止まった。
「理恵さん、本当にありがとうございます。無理せず頑張ってくれると嬉しいです」
そう励まされた虹蝶理恵の表情は明るかった。
「ティアラさん、今唐突に空腹感が復活したことで、希望学校も魔法学校も大混乱です。しかし、それゆえに警戒が強まってしまっているのも事実。一旦待機するのが賢明かと思いますが……」
もちろん、これはティアラを諫めるためだけのでっち上げではあるが……
ティアラは不満げだが納得したように目を背けている。
「千葉~」
一瞬にして場を収めた千葉に紡琴羽が抱きつく。
「身に余る光栄です」
そう言う千葉は嬉しそうだった。
「私は魔法が使えないというのに……」
千葉は一言、誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。
「あれ、治ったコン」
唐突に収まった空腹に小狐丸鈴が首を傾げる。
「希望学校、慌てて時間遡行した感じだと思うの~」
紡琴羽は千葉から離れ、杖を用いて立ち上がり、自らの見解を述べる。
「はぁー」
今までの努力も何もかもが完全に無駄になってしまった虹蝶理恵はため息をついてその場にへたり込む。
「理恵さん、頑張ってくれただけでみんな嬉しいんですよ?」
そんな虹蝶理恵に千葉が寄り添っている。
「みんなって誰コン?コンは少なくとも嬉しくないコン」
小狐丸鈴の言葉はしっかりと無視された。
「蓮が心配やけど……」
夜光ミチヨが不安げにそう言う。
「きっと大丈夫ですよ」
千葉がミチヨに優しく声をかける。
「まあ、蓮に限ってやられるとかあり得んし」
ティアラは確信を持った声でそう言っていた。
「せや!」
夜光ミチヨは千葉とティアラの言葉に明るく頷いた。
日生蓮がどこへ何をしに行ったのか知らないままに。
「覚悟!」
力強い声、これぞ鬼の形相。普通に怖いんだけど。私が狙われている訳ではないけどさ。
私、星月夜翡翠は鳥肌が立つのを感じた。
何があったのかって?
店主の間に刺客が来た。ピンクの髪を一本結びにした人。制服を着てるから希望学校の生徒だと思う。
呪莉さんが千花って呼んでたからそれが名前なんだと思う。
千花さんは突然走ってきたと思ったら、日生蓮を探し始めた。不審に思って千花さんを捕まえた魔法屋店主たちが取り押さえたことで分かった話だ。
動機や目的がよく分からなかったので、日生蓮本人を目の前に連れて行った所、恐ろしいくらいの憎しみのこもった目で日生蓮を睨みつけたのだ。
そして魔法屋店主を振り切って、日生蓮に殴りかかっていった。
「覚悟!」
その言葉と共に。
「やめるんだぁね」
まあ、呪莉さんにあっさり止められてたけど。
「ぐぅ……千葉を……」
それでも暴れ回ろうとする千花さんを呪莉さんが気絶させた。
最後に何か言っていた気がする。千葉って……人の名前かな?
「千葉、知ってるぞ。世界への反逆者にいるな」
日生蓮は不思議そうにそう言った。
でも、今ので何となく分かった気がする。
千花さんは千葉さんが世界への反逆者にいることが受け入れられないとかそんな感じだろう。
それで世界への反逆者である日生蓮がここにいるって知って襲いにきた形だ。それにしても情報漏洩がひどすぎる気がするけど。だって日生蓮がここに来たのはついさっきだよ。
千花さんが目覚めてから話を聞くことになるかな……
「呪莉さんは千花さんを知っていたんですか?」
名前を知ってたし、普通に知り合いだと思うけど。
「知ってるねぇ。でも千葉の方はさっぱり分からないんだぁよ」
名前似てるし、姉妹とかなのかもしれないけど。
「千葉は知ってるが、この人は初めて見た」
日生蓮が呪莉さんと真逆のことを言っている。そう考えると千花さんと千葉さんの関わりは薄そうだけど、どういうことだろうね?




