力と代償
望初さんの記憶は無事じゃないけれど、なんとか店主の間へ戻ってくることができた。倒れたみゆさんは結空さんが牢屋に入れてくれたそうだ。
でも、呪莉さん曰くあんまり意味ないらしい。確かに、みゆさんって遠隔で攻撃してくるもんね。
「一件落着、でいいんでしょうか?」
私、星月夜翡翠は恐る恐る尋ねてみる。
「……一応」
ユェンユェンが答えてくれる。
さて、いろいろありすぎて忘れたけど、私は何をしていたんだっけ。
そうそう、属性奥義が使えるようになって、他の魔法との組み合わせを研究していたんだ。
「いや、まだやることがあるんだぁよ」
ほっと息をついたのも束の間、呪莉さんが私の肩を掴みながらそう言った。威圧感半端ない……
「みゆが眠っているうちに、みゆが持つ翡翠神の魔法も回収してほしいんだぁね」
え?
そんなことできるの?
「ど、どうやって……?」
明らかに私の声は震えていた。みゆさんに近づくだけでも怖いのに。
「君なら行けるはずだねぇ!」
根拠のない言葉で呪莉さんに背中を押される。そのままなすがままに連れていかれたのは牢屋。
その一つではみゆさんが眠っていた。
できるものなのかな……
思い出すんだ、他の魔法を手に入れた時。
干渉制御は、なんかチートに目覚めないとって本気で思った時に使えるようになった。
重力制御は、呪莉さんがくれた。
結界奥義は、るるがくれた。
属性奥義は、なんか勝手に使えるようになった。
うん、はっきりとした共通点が無い……どうしたらいいんだ?
いや、一応すべてに共通するのは、持ち主の合意があること。干渉制御は私自身だから置いておいても、重力制御と結界奥義は貰ったし、属性奥義も望初さんは使っていいと言ってくれた。
だったら、みゆさんと話す。正面から。
「みゆさん、起きてください!」
私は声をかける。
呪莉さんが私の行動を不思議そうに眺めながらも、止めることはない。任せてくれているようだ。
「……翡翠?」
みゆさんの目が少し開く。口にしたのは私の名前……じゃないんだろうな。みゆさんの友達の翡翠神のことだと思う。
「すみません、星月夜翡翠です」
嘘をついても良かったんだろうけど、すぐばれるだろうし、なによりそれはみゆさんと正面から向き合っているとは言えない。
「そう、だよね……」
みゆさんは残念そうにそう言った。
「みゆさんは何がしたいんですか?」
私は聞いてみる。
「翡翠と、柘榴。友達に会いたい」
うすうす察してたけど、やっぱりそうだったか。
「どうやったら会えるんですか?」
私はさらに尋ねる。
「あなたの体を使って、全ての魔法を集めて、封印を解く」
なるほど……?ん、それ、なら魔法をくれても……
「集めるだけじゃ、ダメ。本人に体を明け渡す意思がないと」
そういうことなのか。
私の目的は何だったっけ?
忘れちゃったよ。
そもそも目的なんてあったんだっけ?
分からないよ。
私は本当に何も分からないってことに気が付いたよ。
霊界に来て、ずっとなすがままに戦って。小さな目標のために強さを求めて。
でも、最終的な目標が私にはあったか?
ない。
なかった。
そんなものは……
だったら、こんな体、いらないよね?
「約束します。全ての魔法を集めたら体を明け渡すこと」
私はみゆさんの目を真っすぐに見つめてそう言った。
体を明け渡すって言ってもどういうことかいまいち分からない。でも、それは死に近いことではあるんだと思う。
どうしてそんなことをしてまで力を求めているのか、分からない。
でも、やりたいことのためには力が必要なんだ。
るるのお兄さんについての調べ物もほったらかしになっちゃってるし、死神は絶対倒さないとだし、世界への反逆者とも戦わないと。
これらのやりたいことを全てやる。それが目標でもいいんじゃないか。
だったら、その後に何も残らなくてもいい。体を明け渡したってかまわない。
それに、みゆさんの力があれば望初さんの記憶だって戻せるかもしれない。そう考えると私の体だけで力がもらえるというのは安すぎる。
「冷静になるんだぁよ」
呪莉さんの言葉に、ふと我に返った。あれ、私は何を考えていた?
「また邪魔をするのね……いい感じに奮い立たせていたのに」
みゆさんが呪莉さんを睨みつける。
「翡翠は正面から交渉をしようとしていたのに、思考誘導の魔法を裏で使うとは、卑怯にもほどがあるんだぁよ」
私、完全に鴨だったのか。呪莉さんがいなかったら気分のままに体を明け渡す約束を成立させて詰んでた。
死ぬことを約束するようなものだったじゃん……危なすぎる。
だとしても、だ。
私は力を手に入れなくてはならないのは事実。そして、力に代償が伴うのも当たり前。
「呪莉さん、ありがとうございます。でも、ごめんなさい。私は力がほしいんです。自分を犠牲にしたとしても」
炎帝さんの犠牲で私は生きている。他にも、目に見えないだけで私を守って犠牲になった人がいるかもしれない。もう、そんな人を作りたくない。
「翡翠すら犠牲にならない道を、見つけようとは思わないんだぁね」
呪莉さんは呆れたようにそう言った。私を見放したようだった。
「好きにするんだぁよ」
呪莉さんはそう言って立ち去って行った。振り返ることもなく。
「で、結局どうするつもり?」
みゆさんが私に尋ねてきた。
もう、答えは決まっていた。というか、引き返せなくなっていた。
「力をください」
みゆさんが手をかざす。私の中に何かが流れ込んできた。
霊魂制御。




