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2つの世界を繋ぐ者  作者: きっこー
属性奥義
115/177

記憶

「……」

 この場を支配していたのは沈黙だった。

 私、星月夜翡翠(ほしづくよひすい)も口を開く気にはならない。

「えっと……」

 一人、状況を理解できていない望初(のぞめ)さんが気まずそうながらも口を開く。

「すまない……本当に申し訳ないんだぁよ」

 呪莉(じゅり)さんがそんな望初さんの前に座り込み、頭を下げる。土下座すれすれだ。

「ゾメッチの記憶、戻るの?」

 珠夜(たまよ)さんが苦しげな声で呟く。その目は虚空を見つめていた。

「……もどらない」

 ユェンユェンの言葉は容赦なかった。でも、それでよかった。

 希望を抱きたくなんかないもんね。

「本当に、戻らないの……?」

 でも、珠夜さんはそうじゃないみたい。実現の可能性の低い希望だとしても、それが必要だったみたいだ。

 珠夜さんの目からは涙があふれていた。

 もしかしたら、望初さんが死んでしまうより辛い状況なのかもしれない。

「ユェンユェン、記憶が戻らないのはどうして?」

 そこのところが分かれば、可能性はなくもないかも……ということで聞いてみた。

「……ごめんね、分からない。でも、そう感じたから」

 ユェンユェンが俯きがちに答える。

「タッちゃん。(すみ)は、柘榴の子とか、ゾメちゃんみたいにはなれない。でも、ちゃんとタッちゃんの友達だから」

 澄ちゃんが珠夜さんにそう言って寄り添う。澄ちゃんなりに精一杯できることをやっているんだと思う。私にも、何かできないか……

「分かってる、ありがとう。澄ちゃん」

 珠夜さんはそう言って澄ちゃんの手を握っている。でも、表情の暗さと手の震えは隠せていない。

 れみさんに続いて望初さんまでいなくなったら珠夜さんは ……

「あの、もしかして私は記憶喪失ってことですか?」

 望初さんが不思議そうに話す。流石は望初さん、記憶の有無にかかわらず状況把握能力が高い。

「そうなんだぁよ、本当にすまない」

 呪莉さんが答えた。

「珠夜、私は大丈夫だから。心配しないで」

 望初さんが呪莉さんの言葉に頷くと、立ち上がり、珠夜さんの肩に手を添えた。

 それはまるで……

「んっ……」

 珠夜さんの目から涙があふれた。涙が止まる気配はない。

 まるで、記憶をなくす前の望初さんみたいだったから。

 記憶があろうと、なかろうと……望初さんは望初さんなんだ。

 なんでこんなに簡単なことに気が付かなかったんだろう。目の前にちゃんと望初さんはいたというのに。まるで望初さんが遠くへ消えてしまったかのように考えていた。

「全く、泣いてばっかりじゃ何も進まないわよ」

 望初さんがそんな珠夜さんに寄り添っている。その光景はすごく自然だった。記憶のない望初さんにとって、珠夜さんは今知り合ったばかりだろうに。

 不思議だね。記憶喪失程度じゃ断ち切れない絆っていうのがあるんだろうな。

「感動しているところ悪いけど、望初の魔法が失われたことは事実だからねぇ」

 呪莉さんが気まずそうに話す。

 確かに……

「いいよ。マヨタンがゾメッチの分も戦うから」

 珠夜さんが呪莉さんを真っすぐ見つめて言い切った。

「了解、一旦帰るんだぁよ」

 呪莉さんがそう言って、店主の間まで案内してくれた。

「……望初、記憶だけで済んでるの、異常」

 その道中、ユェンユェンが小声で私にだけそう伝えた。

「どういうこと?」

 私も小声で尋ね返す。

「……みゆ、望初を殺すつもりだった。殺す方が簡単だから」

 まあ、確かにみゆさんくらい強大な力があれば、こうやって記憶だけを消し飛ばすよりも、体ごとぶっ飛ばしたほうが楽そうだ。

 それにしても、みゆさんは人殺しまでやろうとしていたなんて。だって、これって普通に殺人未遂だよね?やばいよね?

 え、つまり……

「……望初の中に、生きる意志がないと、こうは絶対にならない。だから、望初の中にはまだ望初が残ってる。戻る可能性、あるよ……低いけど」

 私は口を抑えた。見えた希望に叫びだしそうになってしまったから。

 望初さんはまだ残ってるし、珠夜さんもいる。みんな、無事だったなら勿論うれしいし。それに、望初さんには散々お世話になっている。

 私にできることで、支えていけるといいな。


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