逃げまわれ
「はぁ、はぁ……」
どうして?
マヨタン、舞羽珠夜は全力で走っているのに。
「すぐ追いつくって言ってるでしょ、体力を浪費しなくていいのよ」
背後から聞こえた声。全身鳥肌だよ。
「みゆ!」
呪莉さんが間に入ってくれる。その隙にまた走る。
追いつかれる。
また呪莉さんに時間を稼いでもらう。
その繰り返し。
翡翠ちゃんがこの間、狙われてないって考えれば気持ちが少し楽だけど……
本当に捕まったらまずいのかな、まだ何をされるのか分かってないけど。
そう、意味も分からずに逃げてるからやる気も出ない、体力の限界もすぐに来る。だけど、そんなこと聞いてる暇もなければ教えてくれる人もいない。
よく分からないけど、逃げないといけない。
この不思議な状況にマヨタンは一番疲れてるんだろうな。
内心、どうせ捕まっちゃうっていう諦めもあるんだと思う。
「諦めるべきじゃないんだぁよ、うまく言えないが、まずいんだ」
それでも呪莉さんの言葉で何とかやる気を保って逃げ続ける。
でも、もう足が動かない……
「珠夜!」
ゾメッチ?背負ってくれてるんだ……
まだ、ゾメッチは諦めてないのかも。
「いくよ」
マヨタンがそう言うと、ゾメッチはしっかり頷いてくれた。マヨタンの考え、ゾメッチにはお見通しなんだよね。
「超級魔法、属性混合、灼熱爆風」
「えいっ!」
マヨタンが後ろに向けて魔法を打って、そのタイミングでゾメッチが飛び上がる。
つまりターボ。
これで少しは距離を取れたはず。
「白魔結晶」
「極彩色世界」
他の魔法屋店主の人も時間を稼いでくれた。
「今のうちに、出来るだけ走るわ。捕まって」
こんなにみんなが助けてくれてるんだ……諦めるわけにはいかないよね。
「ゾメッチ、マヨタン走れるよ」
そう言ってゾメッチから降りる。
「固有魔法、風属性、俊足」
そしてまた、思いっきり走った。
マヨタンが本気で逃げるんだから、ゾメッチだって置いてっちゃうもんね。
一瞬振り向くと、ゾメッチが満足げな笑みを浮かべていた。
そう、これでいいんだ。逃げないといけないんだ。
ゾメッチは何度か体を乗っ取られてる。虹蝶みゆの恐ろしさを知っているんだ。そんなゾメッチのあんな表情見たら、やる気が出てきたよ!
「虹蝶みゆが追いかけてるにしては遅いと思うんだよ。可能性としてはタッちゃんが追い回されている可能性が高いんだよ」
澄ちゃんがそう言って窓から外を見る。
珠夜さんが心配ではあるが、そんなことを言っていられないくらい私、星月夜翡翠もまずい状況であることは忘れてはいけない。
「……やっぱり、魔法学校、行く?レンレンに聞くよ」
ユェンユェンがそう言ってくれるけれど、私は首を横に振った。魔法学校には行きたくなかった。なんとなく、嫌な予感がするから。
「珠夜さんと合流する」
私はそう言った。
その発言に澄ちゃんもユェンユェンも驚いていた。
でも、これが一番合理的だっていう結論に達した。
「どうせ私も珠夜さんも追われるんだったら、同時に手を結んで対抗したほうがいいと思う」
自分でも無茶なことを言っていると思う。でも、これといった逃げ場は思いつかないし、無限に逃げ続けられる気もしない。
だったら立ち向かうしかない。それなら珠夜さんと一緒の方が……
「……分かった、翡翠がそう決めたならきっと戦える…………強くなった」
最後のほうはちょっと聞き取れなかったけど、ユェンユェンは私の判断を認めてくれた。
「澄も一緒に連れて行ってほしいんだよ」
澄ちゃんが即座に手を挙げる。
「……珠夜、向こう。みんなでいこ?」
私たちは部屋を出てユェンユェンの指さす方へ向かった。
でも、珠夜さんと合流するといっても簡単なことじゃなかった。
「タッちゃん走り回ってる感じな気がするんだよ」
澄ちゃんがそんなことを言った。
ユェンユェンの方向感覚はすごく信じてる。でも、そのユェンユェンが指さす方向はすぐに変わる。
確かに、珠夜さんが虹蝶みゆに直接追われているなら、走り回っている可能性が高い。しかも、全速力で。
「……下手に近づきすぎると合流前に捕まる。虹蝶みゆは今向こうで、それで……」
ユェンユェンが頭を抱えている。最適ルートを割りだそうとしてくれているけれど厳しそうだ。猛スピードで動く目的地に強力な追手、条件が多すぎる。
「ありがとう、ユェンユェン」
私はそんなユェンユェンの手を引いて走った。最適ルートが決まらないなら、全部最適みたいなもんでしょっていう暴論だ。
「珠夜さんの方向だけ教えてほしい」
「……多分、こっちで合流できる」
ユェンユェン、すごすぎるよ。未来の珠夜さんの居場所を予測するなんて……
指示通りに走ったら、真横を猛スピードで何かが通り過ぎていった。
だけど、その何かがまた猛スピードで戻ってきた。それは私たちの前で止まった。
「翡翠ちゃん?逃げないと」
珠夜さんだった。私は珠夜さんに説明した。どうせ追われるなら一緒に立ち向かおう、と。
「いいね、マヨタン頑張っちゃうから!」
珠夜さんは笑顔で頷いてくれる。
「全く、また妙なことを……まあ、悪すぎる選択ではないわね」
珠夜さんについてきていたのか、望初さんがやってきてそう言ってくれる。
「え、ゾメッチ速くない?」
珠夜さんはすごくびっくりした顔をしていた。
「珠夜が迂回しまくってるからよ」
望初さんは呆れたような表情をしていた。
この一瞬だけ、いつも通りだったな。




