プロローグ
ここには2つの世界があります。
一つはこの世界、生きる者が住む世界。人間界と呼ばれています。翡翠の神様が全ての生命のために創ったそうです。
もう一つ、世界があります。霊界と呼ばれています。この世界は、未練を持って死んでしまった少女の魂が集まる世界です。柘榴の神様が1人の友達のために創ったそうです。
はるか昔、翡翠の神様と柘榴の神様は1人の友達と共に世界を創るために旅をしていました。その旅の末、翡翠の神様と柘榴の神様はそれぞれ世界を創ることができました。
しかし、その後翡翠の神様は人間界に、柘榴の神様は霊界に封印されてしまいました。
その封印の期間は100年。今は、封印が始まってから、100年とちょっと。つまり、封印はもう、解けているのです。
私は星月夜翡翠。そこらによくいる中学生であるが、不思議なことに生まれた時から親がいない。
児童養護施設に拾ってもらい、今日を生きている。
「翡翠ちゃん!」
今声をかけてくれた、青い髪をショートカットにした。赤の瞳を持つ子は、花苗るる。中学に入ったタイミングで施設に来た子。でも、昔からよく一緒に遊んでた。
施設の中で唯一私と同い年の子で、何かと関わりが多い。
「学校遅れるよ」
学校もいつも一緒に行っている。
たしかに、時間がやばいな。
「ごめんよ、すぐ行くね」
私はそう言って、急いで荷物を持った。
「「行ってきます、先生」」
施設の先生にも挨拶をする。
テッテーテッテテレン!
返ってきたのは挨拶ではなく効果音。
テレビの音が聞こえる。
『最高にかわいい、天花様のお出ましです!』
先生は小さな子たちと一緒にアイドルのDVDを見ていた。
「先生それ何回見てるの?」
るるが冗談めかして問いかける。事実、そのDVDは凄まじい回数再生されている。先生曰く、超大人気アイドルの天花だったはずだ。でもその天花って子は何年も前に殺されちゃったとか……
「仕方ないじゃないか、これしかDVDがないんだから」
先生も苦笑いで応じる。まあ、このDVDはもはや、私たちにとって特別なものだ。みんなで見たっていう思い出が詰まっている。
「ほら、遅刻するぞ。行ってらっしゃい」
とにかく私たちは学校に向けて出発した。
淡々とこなす授業。私はあまり勉強が好きではない。
休み時間に感謝しつつ伸びをしていると、誰かの会話が聞こえた。
「魔法屋?」
「うん、そう。それなんだけどさ」
「何かあったの?」
「実在するらしいわ」
「って、ちょっとちょっと、冗談きついっ」て」
「いや、冗談じゃないし」
「寝不足じゃね、大丈夫?」
よくあるただの噂話。だけど、妙に引っかかる。
「あったんだよ」
「見つけたの!?」
「うん、ひたすら北行っててたらさ」
あとはもう、聞こえなかった。「魔法屋」と「北」と言う言葉だけが、私の中を埋め尽くした。
放課後、速攻で学校を出て、ひたすら北に向かった。頭の中で、何度も繰り返されるあの言葉たち。
北にある住宅街をただ進んだ。
で、迷った。
そりゃそうだ。知らない場所に何も考えず突っ込んじゃったんだもん。まったくもって見覚えのない景色に不安が募る。
これじゃ、魔法屋を探すどころじゃない。とりあえずふらふら彷徨ってみる。
そんな中見つけた、不思議な建物。普通でありながら、どこか異質だ。
ただの建物かもしれないが、妙に惹きつけられる。
普通に、見た目はただの一軒家だ。
扉を開けた。とても重い。
不法侵入とか知らない。そう思ってしまうほどに惹きつけられていた。
扉が軋む音がする。長い間開けられていないようだ。
扉の先にはシャボンのような薄い膜がある。
「失礼します」
私はそう言いながら膜の中に飛び込んだ。なんだかふわふわした夢見心地だった。
どこかにたどり着いた。10メートル四方くらいの殺風景な部屋だった。中には人がいた。そしてその人に思いっきり睨まれた。
白銀色の髪に、綺麗な、綺麗な紫紺の瞳をした人だった。虹色の蝶の髪飾りをつけている。そして、髪がとても長い。膝あたりまであるのではないか。しかし、右前の部分の一部だけ、不自然に短い。
なんか見覚えがあるようなないような……
場違いながら、綺麗な瞳に見惚れてしまう……おい私!しっかり!!
その容姿に何か既視感というか胸騒ぎを覚えたが、気にしない。
その人は言う。
「死神!?正面からなんて……相当の強者ね!この私、魔法屋店主の虹蝶望初が相手よ!絶対負けないわ!」
ふぇ?ナンノコトデスカネ?私は思ったことを素直に叫んでみた。
「いや、ちょっと待ってくださいってぇ!死神ってなんですか!?魔法屋店主ってことは、あなた店長ですかぁ!?あの、ここってなんの店ですか!!?」
自称虹蝶望初さんは何だか呆れているような……?
「そんなこと言ったって、私は油断しないわよ!」
うーん、先入観つよー。
「いや、ほんとなんですってぇええ!!!」
私の悲痛な叫びだけがこだまする。
「中級魔法、火属性、火炎弾!」
望初さんがなんか言うと、私に向かって火炎の弾が猛スピードで飛んできた。
「うわぁぁ!」
そんなの来たら死ぬぅ!もう嫌だぁ!
しかし、あまり痛くなかった。結構拍子抜け。
狙いは完璧だった。でも、少し切り傷ができただけ。致命傷には程遠い。
私は怪訝な顔をしていると思う。ただ、それ以上に望初さんは怪訝な顔をした。そして、
「中級魔法、雷属性、落雷!」
今度は、雷撃が飛んでくる。
また、狙いは完璧だった。それでも、少し切り傷ができただけ。本当に致命傷には程遠い。
もう、怖いって。
望初さんはさらに怪訝な顔をする。
「あなた、何者?」
良かった!なんか対話できそう。
「私は星月夜 翡翠と言います」
とりあえず名前言っとくか。
「そう、私は虹蝶 望初。で、あなた何者?」
うん、求められているのは名前じゃないっぽい、どうしよ。
「私は……ただの人間です」
私にこれといった特徴はないんだよな、悲し。
「嘘はよして」
望初さんは疑いの目で私を見る。
「いや、嘘じゃないんです」
はいはい、私は凡人です。でもさ、ただの人間って実はいいものだよ。
「でも、あなたは自力で扉を開けたでしょう。人間にできることじゃないわ」
なおも疑いを解かない望初さん。
「…………それでも、人間です……」
望初さんの視線が逸れる。諦めてくれたようだ。
「そう、まぁ、それは置いておいて、どうしてここにきたの?死神に追われたりでもしているの?」
さっきから、死神ってなんだろう、やっぱ怪物なのかな……
「あの、道に迷ってそれで、気がついたら……」
とりあえず、正直に訳を話した。
「分かったわ。じゃあ帰りなさい」
「なんでそうなるねん!?」
思いっきり突っ込んでしまった。道が分からないからここにいる=帰れない、なのだ。
「ここは一般人がいるには危険すぎるからよ」
まあ、私が入った瞬間に、この人殺気立ってたからな、危険なんだろう。
「えっでも、道がわからなくて、帰れないんです」
私だって帰りたい。
「…………」
「…………」
沈黙。
「ここで匿ってほしいと?」
望初さんが口を開く。紡がれたのは素敵な提案だった
「はい!」
もう少し、望初さんの瞳を見ていたいという気持ちもあった。
「まぁいいわ。ただ、死んでも自己責任よ」
放たれる、冷たい言葉。
「はい」
それでも、私は心の底から笑顔を向けた。
「ありがとうございます!望初さん!」
嬉しかったから。
何か、会いたかった人に会えたような気持ち。
「ここですることはほとんどないから、適当にその辺にいて」
確かに、何もないね。
「わかりました」
この瞬間、私の運命は大きく変わったっぽい。
読んでいただけたらそれだけでうれしいです。ありがとうございます。
本当に初心者で、小説の書き方等で至らないところは指摘していただけると助かります。
気楽に感想等いただけるとありがたいです。