プロローグ
私たちには小さいころから何かしら【力】があった。
でもそれが何なのか分からなかった。
しおれていた花に触ったとたん、下を向いていた花がむくっと太陽の方を向いて元気になったことや、窓に当たって死にかけていた小鳥に縋り付いて泣いたとたん、くたっとなっていた小鳥の体がみるみる元気になっていったりと、普通では考えられないことが起きたことがあった。
それを母親に言ったところ母親は眉をひそめて、
「このことは誰にも秘密ですよ」
と言われたこともあった。
そう言われた時、これは普通ではないんだと幼いながらに理解した。
そうして誰にも何も言わないまま私たちは高校生になった。
香坂アキ。十六歳。
香坂サキ。十六歳。
双子の私たちは激しい受験戦争をなんとか勝ち抜き、同じ高校に通うことになった。
まあ私たちは特別有名な高校に通うということはなく、ごく普通の高校に受かり、なんと教室も同じという恵まれた高校生活を送っていた。
その日も高校での授業を終え、帰宅するために自宅へと向かっていた。
「今日も一日何とか終わったねえ」
私が軽く伸びをしながら言うとサキがクスクスと笑いながら言う。
「アキったらなんだか大げさだなあ。まるでどこかで働いたかのような言い方するんだもん」
「う、それを言われるとちょっと痛いなあ。でもでも、もうすぐテストがあるからって結構勉強大変だったじゃない」
「まあそれはそうだけど、今のはちょっと大げさだよお」
「そうかなあ」
二人で歩いていると道端に小さな花壇があった。
その花壇に咲いていた花々は見ごろを終えてしおれており、もうすぐ別の花に植え替えられるんだと見ただけで分かった。
「この花壇の花、全部しおれちゃってるね」
私は思わず立ち止まって花壇の前で座り込む。
「本当だね。小さな花壇だからあんまり目につかなかったけど、こうしてみるとちょっとかわいそうだね」
「そうだよね……」
私はしおれて枯れかけた花々に触る。
「あ! アキだめだよ!」
サキの制止の言葉もむなしく私が触れた花々は生気を取り戻し、下を向ていた花が上を向き生き生きと咲き始めた。
「んもう! だめって言ったのに。誰かが見てたらどうするの?」
あきれるサキの言葉に私は苦笑しながら言った。
「ちゃんと周りを確認しながらやったんだよ。こんなに小さな花壇、目にとめる人なんかほとんどいないって」
「それはそうかもしれないけど、もし万が一にも見られたら大ごとだよ? お母さんに怒られても知らないんだからね」
「まあまあ、そう怒らないでよね。久しぶりに試してみただけじゃない。まだ私たちに【力】があるのかどうかさ」
そう言うとサキはため息をつく。
「まあ確かに久しぶりだけどさ、これ近所の人が見たらまた大騒ぎになるよ?」
「あはは、そうだね。じゃあばれないうちに帰ろうか」
そうやってまた歩き出す私たち。
夕焼けを迎えた空はなんだかいつも見る夕焼けと違って、燃えるように赤かった。
「なんだか空が燃えるように赤いね」
空を見ながら言うとサキも一緒に空を見る。
「本当だねえ。赤すぎてまるで血の色みたい」
その日の夕焼けはサキの言う通り血の色のようにやけに赤い空だった。
私が言った燃えるようななんていう言葉じゃ足りないくらい赤くて、なんかとっても不気味な感じがした。
なんだか何かが起きてしまうような、そんな嫌な予感がしたのはきっと私だけじゃないと思う。
いつものように朝起きて、朝食を食べて学校に登校する。
授業を受けてお昼を食べてまた授業を受けて帰宅する。
変わらないはずの日常が何だか変わってしまいそうなそんな気がした。
そんな時だった――
突然足元からまぶしい光が現れたのは。
あまりにもまぶしすぎて何が何だか分からない。
「なにこの光」
「まぶしいよ!」
二人で口にできたのはそんな言葉だけだった。