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聖女代理に任命されたら、なぜか妖精になりました。

作者: 透乃もか

「え!?わたしが聖女ですか!?」


 最近で、いちばん大きな声がでた。

 そもそも目が覚めてからまだ数十分しかたっていないんだけど。


「正しくは聖女代理ね。この前の大きな封印で力を使いすぎちゃって。今は力を蓄えるために、眠っているの。そろそろ目覚めてもいい頃なんだけど、少しの間よろしくね?」


 真っ白な部屋の中。

 わたしの周りをふよふよ漂う光がそう話す。わたしには声しか聞こえないが、どうやらこの世界の偉い方らしい。名乗ってくれないから神様ってことにした。


「でも、わたし今自分がどうしてこうなってるのかもわかんないんだけど」


 ここで目覚める前のわたしは、父と2人田舎の小さな孤児院で働いていた。いつも通りの日常を過ごして、眠って、目覚めたらここにいたのだ。

 もしかして寝ている間になにかがあって、死んでしまったんだろうか。


「あなた、神力が他の人より強いのよ。それで選ばれたというわけ。」

「選ばれたって、そんな楽しそうに言われても…。そもそも聖女さまって何すれば…?そんな簡単になれるの?」


「だから聖女代理なのよ!大きな厄はつい最近通り過ぎていて、今は特にすることはないのよね。んー、そうだ!ふふふ、あなたの代理人生が楽しくなるような魔法!かけておくわね」


 わたしには神様の表情はわからないけど、今絶対ニヤッてした!!嫌な予感しかしない!


「ん!とりあえず、いってらっしゃいー!なんとなるわー!」

「えっ!えーーー!!」


 強い浮遊感のあと、わたしは意識を失った。




○○○○○○○○



「ふう、今日はこんなもんか」


 今日の分のおしごとを終えて、湖の近くまで帰ってきた。水面に映るわたしの背中には蝶のような形の透明な羽がついている。


「飛ぶのもだいぶ慣れてきた、かな」


 こちらの世界についたわたしは、どうやら妖精の姿をしているらしい。きっとあの人の仕業だ。

 見慣れぬ羽に人とはちがう小さなからだ。はじめは驚いたけど、何日か過ごすうちに慣れてきた。

 というよりもうどうにもならないので、慣れるしかないと腹を括った。

 ただ淡藤色の髪だけは元のわたしと変わらない。

母そっくりの髪色だけでも残っていてよかった。


 ぐーたらしているのが苦手なわたしは、早速近隣の村を回って、できることを探した。

 聖女の力の説明もされていなかったので、枯れてしまった井戸を復活させたり、野菜やお花がすくすく育つようにおまじないをかけたりそのくらいしかできてないけど。


 わたしはわたしができることをやる。

 それで少しでも周りの人たちが豊かになるならいい。



「リン!」

 森の奥から声が聞こえたかと思うと、突然ブロンドの女の子が飛び出してきた。


「メアリー、その勢いでくると湖に落ちるわよ!」

 元の体なら抱き止めることはできるが、なにしろ今のわたしは体が小さい。

 いくら女の子とはいえ、抱き止めるのは難しい。


「大丈夫大丈夫!わたしリンが思ってるより運動神経いいんだから!」


 そう言ってわたしの目の前で止まったこの子はメアリー・クラーク。この世界にきて困っていたところを助けてくれた女の子だ。今はこの子の家族のところに寝泊まりさせてもらっている。


「ただいま!リン」

「おかえりなさい」

「今日は何をしていたの?」

「いつも通りよ。あ、…でも、ずっと寝込んでいたハリスのおじさまが亡くなったわ。」

「あら…そうだったのね。やっぱりわたしの力は怪我や病気を治すことはできないみたい。」

「リンはいつも頑張っているわ。」

「ありがとう。メアリー。」


 メアリーは学園から帰ると、こうしてわたしの話を聞きにきてくれるのだ。日常の話を聞いてくれる人がいるというのはとても心強い。


「ねえ、今日も姿を見せてくれる?」

「もちろんよ!」


 実はメアリーは、わたしのことが見えていない。

 正しくはただの光の玉に見えていて、姿が見えない。でも、この湖でメアリーと過ごすうちに、湖に映ると姿が見えることがわかったのだ。


「わ!今日は髪をアップにしてるのね!すてきよ!」

「ありがとう!メアリーがリボンを分けてくれたからよ」

「可愛いお友達ができてうれしくて!つけてくれて嬉しいわ。またお洋服もつくるわね!」


 メアリーがかわいいお洋服をたくさん作ってくれるので、水浴びのたびに着替えるようにしている。


(今日はギンガムチェックのワンピース。メアリーは初めて会った時から目をキラキラ輝かせて、わたしにお洋服を作らせて!と言ってくれたんだっけ)


「だいぶ涼しくなってきたしおうちに帰りましょう」

「そうね、メアリーが風邪をひくといけないし」




○○○○○○○○



「「ただいま帰りました!」」


 お家に入るとふわっとあたたかい。

 そしていい香り。おなかがすいてきた。

キッチンのほうから、お料理の音が聞こえる。


「おかえり、メアリー。リン。」


 ジュンのお父様、オズワルドが笑顔で出迎えてくれる。

 はじめは遠慮していたが、今は夕方から朝までメアリーの家で一緒に過ごさせてもらっている。


「お父様、今日も美味しそうな香りがするわ」

「少し冷えてきたからね、具沢山のスープを作ったよ」

「まあ、いつもありがとう。夕食が楽しみだわ。」

「オズワルド様。今晩もお世話になります。」

「リン。いつも言うけど、遠慮はいらないよ。我が家のように過ごしてくれるのが、私たちは1番嬉しいんだ。」


 そう言って優しく微笑むオズワルド様は、実は湖を介さなくてもわたしのことが見えているみたい。

 なぜだかはわからないけど、毎朝着ている服を褒めてくれるんだから、ちゃんと見えているのよ。


「本当にありがとうございます。」

「ふふ、さあ、夕食までわたしのお部屋で過ごしましょ!新しい服の意匠でも考えましょう!」


 タンタンと楽しそうに階段を登っていく。慌てて追いかけると、階段の途中でメアリーが急に足を止めた。


「んぶ!…メアリー急に止まると」

「タイミングが悪かったようね。」

「…?」

「おかえり、メアリー。メアリーがいるということは、リンも来ているんだろ?」


 ぶつかった鼻を押さえながら、メアリーの前を見ると同じ顔がふたつ。


「ヘイゼル。わたしのかわいいリンは渡さないわよ。」

「いつお前の物になったのさ。さ、リン。僕のところにおいで?」

「うわっ、気色悪い!」

「なんだと!」


 メアリーの双子の弟、ヘイゼル。彼にもわたしの姿は光の玉に見えているはずだ。メアリーと湖で話しているところを見かけたあとから毎日こんな風に。

 喧嘩するほど仲がいいというものね。同じ顔で怒っているのはなんだか面白いんだけど。


「ふふ、」

「あ!リン!笑ったでしょ!わたし本気で怒ってるんだから!こんなやつにリンは渡さないわ」

「ここでは姿は見えないんだからいいじゃないか!僕だってリンと話がしたい!」

「いーえっ!今からわたしたちは女の子だけでお話しするんですもの!邪魔しないでちょうだい!」

「わっ!」


 メアリーが手前にある自分の部屋のドアを開けると、わたしを先に部屋に入れようとトンと押した。


「あっ、こら!」


 伸ばした手はなにも掴めず、ヘイゼルは扉の向こうに消えた。


「さすがのヘイゼルも女の子の部屋には勝手に入ってこられないでしょうから!!」


 そのままメアリーの部屋で、服のことやアクセサリーのことを話していると、夕食の時間になった。


「今日のお料理も美味しいわ。本当に毎日ありがとう。」

「はじめてうちに来たときは驚いたわ。わたしたちが食事をはじめると、ぐうううっと大きな音が聞こえたんだもの!」

「ちょっとその話はやめてっていつも言ってるでしょう!」

「姿が見えなくてもあんなに大きな音が聞こえたら、お腹が空いてるのねって誰でもわかるわ。」

「もう!恥ずかしかったのよ!」


 どうやら普通の妖精は食事をしなくても生きていけるらしい。わたしは前の人生を知っているからか、お腹も空くし、美味しいものも食べたい。


「食器もわたしが子どものころに使っていたドールハウスのものが役に立ってよかったわ。」

「それも本当に感謝してます!」

「妖精が食事をするなんて大発見、しばらくは僕たち家族が独り占めしよう。」

「あー、ほんとヘイゼルは黙ってて」


 そんなわたしたちをニコニコ見つめるオズワルド様。この日常がわたしも気に入ってきたところだ。




 ある日、いつものようにメアリーと帰宅するとオズワルドさまの隣に小さな男の子がいた。

 綺麗なアメジスト色の瞳が金色の髪の隙間から見える。


「しばらくうちで預かることになったんだ。」

「わかったわ。えーっと、あなたお名前は?」


 メアリーが小さな彼に目線を合わせて声をかけた。でも、彼が俯いて、綺麗な瞳は見えなくなる。


「彼はノア。事情があって言葉が話せないんだ。不便なことも多いと思うけど、2人ともよろしく頼むよ。」

「そうなのね。わたしはメアリーよ。こちらの光はリン。ここの湖に住む妖精よ。わたしの弟のヘイゼルには会ったかしら?」


 メアリーは話せないという言葉に一瞬驚いた表情をしたものの、すぐ優しく微笑みながらノアに話しかける。

 すると少しだけ間があってから、ノアがこくんと頷いた。どうやら耳は聞こえているみたい。


「はじめまして。リンよ。ここだとあなたには光にしか見えていないと思うのだけど…仲良くしてくれたらうれしいわ!」


 わたしも彼に近づいて挨拶をした。

 光から声が聞こえるのが不思議なのか、アメジストの瞳がしばらくの間じっとこちらを見ていた。



「ノア、どちらがいいと思う?」


 わたしの服を作ってくれたメアリーが、ノアに意見を聞くとじっくりと2着の服を見た後、ちらっとこちらを見たあと、右側の服を指差した。


「やっぱり!わたしも今日はこちらがいいと思ったの!ノアありがとう」

「くっ、姿が見えないことが悔やまれる…。」


 声が出せないノアと、おしゃべり大好きなメアリー、ヘイゼルは思いのほか気が合うようで、いろいろなところで遊んで過ごした。





○○○○○○○



 ある日の午後、メアリーとヘイゼルはオズワルドと街へでかけていった。

 ノアは街に出るのは好きではないらしく、いっしょに留守番をすることになった。


「なにかしたいことはある?」


 そう聞くと、ノアはこちらを見て首を横に振った。


「じゃあお散歩にいきたいんだけどいいかしら?森の中を探検しましょう!」


 こくんと頷いたノアの前をふわふわと飛んで先導した。


 木漏れ日の溢れる森は綺麗で、カラッと晴れた今日は、空気もすっきりしていて心地いい。わたしはついつい、ふふっと笑顔になりながら木陰をジャンプするように進んでいった。

 時折、後ろを振り向けばノアも森の様子を観察しながら着いてきている。


 わたしの姿は見えていないはずだけど、こうしてふたりでもお散歩に付き合ってくれるのはうれしいわね。


 人間から見たらただの光に見えるわたしは、自分から話しかけることが少ない。声が出せないノアとはそこまで仲良く話したことはないのだ。


 目の前の大きな湖は太陽の光を受けて、キラキラと光っていた。


「この景色、わたし大好きなの!」


 ノアの方を見てそう微笑めば、少し驚いた顔でこちらを向いていた。ぱちくりと瞬きを繰り返し、その視線がスッと湖の方へ映る。綺麗なアメジストの瞳も湖と同じようにキラキラ光って見えた。


「ノアの瞳の色、わたしの髪色に似てる」


 小さな声で呟いたつもりなのに、ノアには聞こえたようだ。湖からこちらに視線が移る。


「あ、ねえ。こっちにきて!」


 湖の上に映る姿を見せようとノアに声をかけ、湖のほうへ飛んだ。


「ほら!みて!似ているでしょう?わたし、お母様とそっくりなこの髪色が大好きなの。ノアの瞳もとってもきれいだわ。わたしの好きな色!」


 わたしの姿の映った湖をノアが覗き込んだものの、すぐにわたしの方を向いて見つめてくる。


「どうしたの?…もしかして、わたしのことが見え…!?」

「っ?!」


 突然、森の中から刃物を持った集団が現れ、わたしとノアは呆気なく捕まってしまったのだった。





○○○○○○○




 なんだかよく眠っていたような気がする。

 目が覚めたものの、あたりは真っ暗だ。


「ノア!!」


 どうやらわたしは箱のようなものの中に閉じ込められているらしい。鍵をかけられているのか、わたしの力では出ることは難しそうだ。

 ノアは声が出せないから、姿が見えるまで無事かどうかはわからない。


 箱の内側を何度か叩いて、ノアの名前を呼ぶ。

 外の音に耳を澄ませる。少ししてカツンと小さな音が聞こえた。


「ノア?わたしの声が聞こえる?」


 再びカツンと音がする。


「無事?怪我はしてない?大丈夫なら2回音を鳴らして」


 そう伝えるとすぐにカツンカツンと音が聞こえた。

どうやら無事なようだ。ただノアの方から近づいて来られないということは、何かしらの方法で拘束されているのだろう。


「困ったわね…。」


 わたしの力で脱出できればよかったのだけど、さっきから何度か魔力を使ってみるものの、力不足なようだ。ノアは声が出せないから、助けを呼ぶことも難しいだろう。


 目の前は真っ暗で、少し心細い。でも、小さな手がかりでもあればと手探りで箱の中を進んでいく。

 コツとなにかが手に触れた。


「!…これは、なにかしら。石?いいえ、なにかの種…?」


 種ならば、わたしの魔力でも咲かせることができるかもしれない。

 これが咲いたからといって、ここから出られるかはわからないけど。いつも通り少しずつ、魔力を込めて…。

 このあと、箱から出られたとしてもノアと2人で逃げ出さなければ意味がない。魔力がなくならないように気をつけながら魔法を使う。


 しばらくそうしていると、箱の外からガチャっと扉が開く音がした。


「これはこれは。ノア。無様な姿ですねえ」


 何人かの足音と共に、そんな言葉が聞こえてくる。男の人の声だ。


「せっかく楽に死なせてやろうと思ったのに、私のやさしさだったのですよ?こんな小さな姿になってまで逃げて隠れて。あなたのお得意の魔法はどうしたのです。ええ?使えませんよねえ。わたしがあなたの声といっしょに封印してやったのだから!!」


 わたしたちを捕まえた犯人は気分がいいらしく、自然と大きくなる声はしっかり箱の中まで聞こえてきた。

 ノアが声を出せなくなったのは、この犯人のせいなのね。

 とにかく、早くここから出てノアを助けなくちゃ。

少し魔力を強めると種がさらに成長していく気配がした。


 突然、大きな音とともにわたしの天地がひっくり返った。どうやら箱ごと床に落ちたようだ。種を抱きしめて、咄嗟に飛んだおかげで怪我はしなかった。


「おやおや。無力ですね。私なんかの魔力でもあなたを吹き飛ばせるとは。」

「ッ…!」

「ノア…!!!」


 大きな声で名前を呼ぶが、もちろん返事はない。はやく!急がなくちゃ。ノアを助けるの!

 種に注ぐ魔力をさらに強める。


「ノア!大丈夫よ!わたしが助けるから!」

「ふふふはははは!さあ遊びはこれで終わりです。さようならノア。永遠に」


 わたしの声は犯人たち聞こえていないのか、不穏な言葉だけが続けられた。その言葉のあとに魔法を発動するような音がする。


「ノア!」


 叫びと共に種に注ぐ魔力もぐんとあがる。わたしの声とほぼ同時に種が光りだし金色の花のようなものが広がっていった。


「わっ!」


 慌てて種から手を離すと、ぐんぐんと成長していく花が箱を押し開けた。パキッという音とともに、光が見える。


「ま、まさかこれは!」


 花はどんどん広がっていき、倒れているノアのところまで届くと光が彼を包んだ。

 ここからはノアの表情は見えない。大丈夫なのだろうか。すぐに飛び出して行きたいのに、体がいうことをきかなかった。


 あっという間に光がなくなり、そこにいたはずの小さな男の子の姿はなくなっていた。



 パキッというなにかが壊れる音と共に、凛とした声が響く。


「逃げるなんて、そんなこと許しませんよ。兄上。」


 ノアがいた場所で立ち上がった人物は、金色の髪に紫の瞳の男の子だった。


「もしかして、ノア…?」

「リンありがとう。助かった。感謝はまたあとでしっかり伝えさせてくれ。今はこの悪党共の後始末をする。」


 ノアは早口でそう言うと、悪党と呼ばれる人たちを次々に魔法で拘束していった。


「くそ!!なんでこんなことに!!」

「残念でしたね。大人しくしていれば優雅な生活もできたものを」


 魔法できつく拘束すると、ノアはわたしの元に駆け寄ってくる。


「リン。ごめん。驚かせたよな。」


 そう言って目を伏せる姿は、小さい男の子の姿だったノアと重なる。


「ううん。とにかくノアが無事でよかった。」

「ありがとう。リンのおかげだ。実は、僕はずっと命を狙われていて」


 ノアは今の状況を説明しようと言葉を続ける。でも、わたしはなんだか力が入らない。


「リン?どうした」

「なんか…眠くて」


 大事な話してくれてるのに。

 わたしが意識を手放す寸前眩しいほどの光が目の前に広がる。驚いて一度意識が戻ってきた。

 咄嗟にノアがわたしを包んで守ってくれる。


 目の前に白地に金糸の意匠が施されたドレスと、揃いのローブを着た女性の姿が見える。



『リン。聖女代理をありがとう。無事に聖女様のちからが戻ったよ。あとは真の聖女に任せるといい。君はゆっくりおやすみ』



 ああ、これは神様…?聖女様目覚めたんだ。よかった。安心した途端、また力だ抜けていく。今度は目を開けることもできない。


「わたし消えちゃうみたい。今までありがとう。」


 見えないけれど、あったかい。ノアの手の中にいるのかな。蹲るような形になり、その手に体を委ねる。


「まだリンに感謝を伝えてない」

「そんなの、いらないよ。ノアが生きててよかった。」

「…絶対見つけ出すから。」

「消えたらどうなるんだろう」


 わたしにもわからないのに、ノアにわかるはずないのに。もう消えそうな声でそうこたえた。


ノアは悲しんでる?怒ってる?ああ、オズワルド様たちにも何も伝えられてない。

 意識を失う寸前、力強い声が聞こえた。


「見つけてみせるから。待ってて。」


 その声に返事をする間もなく、キラキラと光の粒に包まれて、わたしは消えた。




○○○○○○○○




 次に目覚めたのは、数ヶ月ぶりにみる天井だった。

あれ、わたし。とても懐かしい部屋とこの香り。

 扉の開いた先、部屋の外からは人の気配がする。


「おとう、さま…?」


 小さな声でそう呼びかければ、部屋の外にいた人が勢いよく振り向く。


「リン?…よかった。目が覚めたのか」

「、ほんとうに、お父様…?」

「ああ、リン。おかえり。」


 懐かしい香りに抱きしめられた。


「お父さま、わたし、生きてた。よかった、また会えて…。」

「なにも伝えていなくてすまなかった。」


 わたしの体調を気遣いながら、父はぽつぽつ話をしてくれた。


 どうやらわたしの母は聖女だったようだ。

 わたしを身籠りながらおこなった封印で大きな傷を負い、母子ともに危険な状態だった。

 娘の命を助ける代わりに、そこに現れた神様と母が約束をしたらしい。


「これから新たな聖女が生まれ、困難が生まれた時、この娘の力を貸して欲しい。」と。


 その約束を果たすべく、今回わたしが聖女代理として妖精になっていたらしい。まあ、妖精にされたのは完全に神様のいたずらだけど。

 あとそういうのは先に言っといてください。

 お父様もまさかほんとうに約束を果たしにくるとは思わず伝え忘れていたそうだ。

 わたしが妖精になって向こうの世界に行ってからすぐに神様からの便りがあったらしい。


「神様との約束だとわかっていても気が気じゃなかった。ただ1人の家族まで失ったららどうして生きていけばいいんだ。」


 いつもの穏やかな表情に少し悲しみを浮かべた顔で、お父様はいう。


「ほんとうに、無事でよかった」

「会いたかったわ。お父様。」


わたしたちはしばらく抱きしめ合いながら泣いた。




○○○○○○○○





「あとどのくらいで到着するのかな?」

「僕たちも会える!?ねえ!」

「どうかなー。遠くから見るくらいなら大丈夫かも。」



どうやらこんな田舎の村に王家の人々が訪ねてくるらしい。街は大賑わいだ。

 孤児院の子たちも、久しぶりのお祭りに浮き足立っているようだ。

 まあ興味はないので、わたしはいつも通り孤児院で仕事をしながらお留守番だ。

 やっと平和な日常が戻ってきた。


「メアリーたち元気かなあ」


あの日々は夢だったのかなあ、なんて最近は思ってしまう。最後は大変だったけど、楽しかったなあ。なんて孤児院に隣接する教会の掃除をしていると、ノックが聞こえた。


「はいはーい。」


ドアに近づいて開けると、大勢の人が。え?騎士団?王宮の?大勢の騎士の中枢にいる人物をみて驚いた。



「な、なんで、ノアが」

「この国の王太子ノア・シモンズだ。」

「え、お、王子?」


 やっと取り戻したわたしの平凡な日常はあっという間に崩れ去っていくのだった。

はじめまして。書いてみようと下書きしてあったものを少しずつ書いて、完成させました。

話の矛盾や誤字脱字も多いと思いますが、温かい目でみてくだされば幸いです。

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