プロローグ
風が草原を抜けてそよぐ。そのさわやかな香りが、マリアの鼻腔をくすぐった。彼女は目を覚まし、不安げに周りを見回した。眼前に広がるのは、見慣れない広大な草原。空は青く、雲一つない快晴だ。
「あれ? ここはどこ?」
マリアは自問するが、返答はない。ただ、風が草の匂いを運び、遠くからは野鳥のさえずりが聞こえてくる。
*異世界に来たんだろうか?*
心の中でそう考えると同時に、マリアは思い出した。昨夜、彼女は古びた本棚からひとつの本を見つけ、そのなかに書かれていた呪文を詠唱したことを。そして、そのまま眠りに落ちてしまったことを。
「あの本が原因で、こんなところに来てしまったのか?」
マリアは自問するが、記憶が曖昧で、確かな答えが見つからない。ただ、不安と興奮が入り混じった心境で、彼女は前方に進んでいく。
途中で出会った農夫から得た情報によれば、この世界はリヴェールという名の国であり、魔法が日常的に使われているという。そして、王宮が存在し、王太子として知られる若き君主が治めているということも。
*王宮に行けば、何か分かるかもしれない。*
彼女の内なる声がそう囁くと同時に、彼女は決意を新たにした。
「さて、早く王宮に行かないと。答えがそこにあるはずだ。」
胸の中でひとり言をつぶやきながら、マリアは未知の世界に向かって一歩を踏み出した。