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1話.愛しているから、だから、離れて。

「あ、あ、あっ、ぁぁああぁああ!」


口の端にある愛しい者の血を指で触って、

やっと今置かれている状態を理解した。


「待って、待って、ヤ…ヤダ!

 ミリアムッ!」


銀色の髪を肩まで伸ばしたミリアムと言う少女を、ヴァンパイア・エルマは抱きしめる。

エルマは吸血欲を抑えられない。

共に歩いていた、ミリアムの傷から溢れた血を見て、それからエルマと言う長身の女性は、

記憶がない。でも、自分がミリアムの血を吸った事は確かだった。


だから、ミリアムの傷を癒した。溢れる血は止まり、傷は塞がった。だが、血が足りない。

貧血より酷く、助かるかどうかはわからない。


「呪印を刻めば…この状況も!」


エルマは考える。だが、呪印を刻めば、ミリアムの今後の未来が明るいものとは言えなくなる可能性が高い。


「んっ…く…っ…」


ミリアムから呻き声が聞こえる。


「ミリアム…ごめんね」


そう涙を流し、エルマはミリアムと距離を取った場所で自分の足元に、魔法陣を作った。魔法陣は紫色に強く光り、その場全てを光に包んだ。


「さよなら、ミリアム」


その光に飲み込まれ、エルマは消えた。

その場にいるのはミリアムだけ。

光は全てのものを癒す力があった。だが同時にそれを作り出した者の、生きる源を搾り取り、作り出したものをどこでもなく、永遠に辿り着けない場所に葬り去ると言う魔法だった。


「あれぇ?私何してたんだったけ?

 あれ、エルマ〜?」


愛しい女性をミリアムは探す。


「エルマぁあ?」


大きな声でエルマの名前を呼ぶが、エルマの返答はない。なぜなら、エルマはその場にいないから。

代わりに別の女性から、声がかかる。


「あら、エルマの女が、愛でていた、

 金髪の女ではないか、妾は

 貴様の…いや、なんでもない」


にやりと笑ってその場に立つ女の覇気は、

全てを包むかと思うほど、大きかった。


「誰?」


「あの者も馬鹿よな、自分の命を捨てるなど」


「誰、なの?」


「あぁ、妾の名か、貴様そのようなものに興味があるのか?変わっているな、妾の名は、

ヘルメス・メルチャルト」


「あ、の、貴方もヴァンパイアですよね? 

 エルマ、エルマを知りませんか?

 エルマと歩いていた以降の記憶がなくて…

 何があったの、か…」


ミリアムはヘルメスに言い寄る。


「あれの行く場所など一つしかないであろう。

 貴様の血を飲んだ後、貴様を救うためだけに

 魔法陣が送り出す、最悪の都市、

 『グアラルオ』」


「私も知ってます、『グアラルオ』

 でも、エルマはそこに?」


「話を聞いとらん、人間やな

 貴様の血を飲んだのじゃ、あのエルマという

 愚かなヴァンパイアは」


「私の血を?」


「だから、そうじゃと…」


そこまで言って、ヘルメスはミリアムの首に牙を当て、首に牙を刺す。


「んっ…!!」


ミリアムは痛みに目を瞑りながら拳を握る。


「ん、美味いぞ。あれはこれを堪能したというのか。だが、先程に飲み過ぎて、この女を助けるために魔法陣に送り出された。何とも愚かなことよ」


ヘルメスは唇についた血を服の袖で拭う。


「エルマはこんな痛くしなかった!」


ミリアムがそう言うと、ヘルメスはミリアムをじっと見つめ、


「だが、先ほどあの女は貴様の血を飲みすぎ、

 貴様は死の境目に居ただろうに」


「そんなの記憶にない!」


「記憶に干渉するとは何とも愚かな女よな

 それほどまでに貴様を愛していたとは」


ヘルメスはミリアムをみた。


「エルマは?!」


「消えたとそう言ったであろう?」


「どこに?!」


「ぴぃぴぃとうるさいな」


「答えてよ!」


「『グアラルオ』」


「だから、それは知ってるの!

 そこに連れてってよ」


ミリアムはヘルメスに近寄る。


「それなら妾と契約しろ娘」


「契約…?」


「いいか?よく聞け、契約として、

 貴様はもう2度と妾以外に血を飲ませられなくなり、エルマと再会したとしても、元の関係には戻れん。この条件を飲まないと言うならば、妾は、『グアラルオ』に連れて行くことはせん」


「でも、それだと…エルマに…」


「もしこのような発想になったのであれば、 

 断言しよう。1人で向かうと言うのはできない。

 必ずしも、妾の力が必要となる。

 だから、契約か、別れか」


「契約、し…ま、す」


震えた声で応答するミリアム。


「よし」


そう答えて、ヘルメスはミリアムと契約を果たした。



1話目でした!

百合×ヴァンパイアの新しい視点で描く物語!これからもぜひよろしくお願いします!

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