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#1限目 自販機の扱いにはご注意!

 これは、結菜ゆいなたちが双葉坂南ふたばざかみなみ学園に入学してから一週間ほど経った登校中の出来事。


「あ、もしかしたら水筒お家に忘れてきちゃったかも」


 内容とは裏腹に困った様子を感じさせない、ふわっと間延びした声でそう呟いた女子生徒がその場に足を止める。


 明るく元気な雰囲気と、栗色のボブカットが子犬のような姿を連想させる少女、唯ただ 結菜ゆいなである。


「結菜のことだから、もしかしなくても忘れてるんじゃない? 全く、おっちょこちょいなんだから」


 すると、結菜の隣を共に歩いていた女子生徒が、やれやれといった風に肩ほどまで伸びた朱色のポニーテールを揺らしてみせた。


 毒づいているようだが、その実ちゃんと心配はしてくれている心優しい結菜の幼馴染、柳柏やなかせ 彩華さいかだ。


「あそこにちょうど自販機あるし、買っていったら?」


「今から取りに帰ってたら間に合わないもんね。うん、そうする!」


 タイミングよく道の隅にあった自動販売機に向かって、彩華が指を差しながら提案をする。まるで、結菜のために用意されていたかのようである。


「えっとえっと、何にしようかなー?」


 足取りも軽やかに、ひょいひょいっと自動販売機の前まで辿り着いた結菜は楽しそうに品定めをする。水筒を忘れてしまったことなど、とうに忘れてしまったようだ。


「何にするってお茶とかじゃないの?」


「うーん、そのつもりだったけど、せっかく買うならジュースがいいなって! なんかもったいない気がしちゃうんだよね」


「確かに、分からなくもないわね」


 飲料のラインナップを物色し終えた結菜は小銭を自動販売機へ入れると、えいっと右上に位置するボタンを押す。その後、ガタンと音を立てたペットボトルが、取り口から出てくる。


 と、その時自動販売機からピピピピといった機械音が二人の前で鳴り始めた。


「これ、当たったらもう一本貰えるやつついてるのね」


「ほんと! 当たるかな? 当たったら彩ちゃんにもあげるね!」


「それはありがとうだけど……これ本当に当たるの?」


 目まぐるしく数字の変わるルーレットに、わくわく盛り上がる結菜。それとは対照的に訝しげな視線を彩華は送る。どうやら、飲み物が当たることを一切信じていないようだ。


「それは実際に見てみるまで分からないよ、彩ちゃん!」


 瞳を輝かせた結菜がルーレットに顔を近づけて凝視する。すると、高速で7の数字がテンポよく3つ並んだ。


「もしかして当たった!?」


「いや、まだよ。4つ揃わないと残念ながら当たりにはならないわ」


 そう、大体の抽選付き自動販売機はリーチがかかるようになっている。つまり、今回みたいに3つまでは揃いやすいのだ。


「ぐぬぬ、中々の強敵……当たれば1億円……!」


「急にスケールが大きくなってない!? 〇ト6もびっくりじゃない」


 カジノでオールベッドした人間さながらの気迫と表情で当選を念じる結菜。そんな幼馴染の姿を見て、先ほどまでは興味を示していなかったようにみえた彩華もつられて行方を見守る。


 すると――


「――たった……当たったよ! 彩ちゃん!!」


「嘘!? こんなことってあるのねっ!」


 ルーレットに映ったのは、横一列にピタリと並び揃った7の数字。どこからどう見ても、何度見ても7777。日常に潜んだ小さな奇跡。なんと、幸運なことに当たったのである。


「自販機の当たりって、都市伝説だと思ってたわぁ……疑ってごめんね、自販機さん」


「どどど、どうしよう! そうだ、写真! 写真撮らないと!!」


 自動販売機の当たりにそれぞれ違った盛り上がりや反応をみせる二人。彩華はこの件を通じて、疑いすぎるのもよくないなと考えを改め。結菜は楽しみすぎて、てんやわんや慌てふためいているご様子だ。



 冗談を言ってみたり、些細なことで笑い合う。これは、双葉坂南学園に入学した結菜たちによる、ごくごく普通の日常を描いた物語。


 また、せっかく当たったはずの飲み物を、時間以内に選らばなかったために貰えなかったのも彼女たちの物語である。

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