ショートホラー第5弾「雨のドライブ」
その日、俺は彼女と夜のドライブデートに出かけた。
ドライブに連れて行って欲しいって連絡があったので俺は彼女を迎えに行きそのままドライブへ。
色々な話をしながらドライブを楽しんでいると雨が降り出した。
雨の予報なんてあったっけと思いつつもワイパーを動かす。
結構な頻度で動かしていないと前が見えなくなるくらい雨足は強かった。
事故を起こさない様、慎重に運転しないといけないな。
そう思っていたら自転車のおじさんとすれ違った。
急な雨だったから雨具なんか用意していないだろうしお気の毒に。
しばらくすると犬の散歩をしている親子とすれ違う。
やはり傘などはさしていないが親子はさして気にする様子もなく呑気に散歩をしている。
ああ、開き直ったんだろうな。帰ったら風呂にでも入ってくれ。
更に走っていておかしなことに気づく。
時々人にすれ違うのだが傘をさしている人はひとりもいなかった。
まるで『雨なんて降っていない』といった感じだ。
窓には相変わらず打ち付けられる強い雨。
彼女の方を見ると押し黙っている。
ああ、やはり彼女もおかしいと思っているんだ。
車内は無言。重苦しい雰囲気に支配されていた。
俺はコンビニを見つけると駐車場に滑り込んだ。
するとさっきまでフロントガラスに打ち付けていた雨が嘘の様にパッとあがったのだ。
車から出て車体を触る。
すると……『車体は濡れていなかった』。
あろうことかフロントガラスでさえ、濡れていないのだ。
そう。雨が降った気配など『微塵も無かった』のだ。
背中に氷を入れられた気分になった。
その日はそのまま彼女を家まで送り、そこで別れた。
後日、カフェでデートしている時にふとその時のこを思い出して話題にあげた。
すると彼女は顔をしかめ、口を尖らせる。
嫌な事を思い出させちゃったかな。
「あのさぁ、凄く言いにくいんだけど……」
彼女はこう告げた。
「あんた、『誰』とドライブに行ったの?だって、あたしその日はバイトだったよ?」
「え……」
そんなバカな。
俺は慌ててドライブデートしたいって連絡して来た時のLINEを見せようとするが……
あの時交わしたはずの会話は『どこにも無かった』。
更にはドライブで行った場所についても『思い出せない』。
それじゃあ……俺は『何』を隣に乗せて『何処へ』ドライブしていたのだろう?