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「わお、クリス見てよ。百ドル札が入ってる」
翌週末の夕方のミサの後、献金皿をのぞいた俺は思わず歓声をあげた。
「気前がいいなあ。誰か宝くじでも当てたのかな?」
「そうかもしれないな。その一部でも、恵まれない人たちのために寄付しようという気持ちになってくれたのなら、神に感謝を」
「でもさあ」俺はちょっと意地悪になって言った。「そういう、キレイなお金じゃないかもしれないぜ。殺し屋の報酬とかでさあ、ザンゲのつもりで献金皿に入れたとしたら、神様は気にするかな?」
「お前はドラマの見すぎだよ。お金はにおわないと言って公衆トイレに課税したローマ皇帝もいるんだから。ディーン、いつまでもお金を数えていないで、そろそろ扉を閉めてくれ」
「へーい」
クリスは俺をからかったんだろうか、と思いながら正面扉を閉めに行った先に、知っている顔が見えた。
「あれ、ダニーだ」
ダニエル・ブラウン――それほど仲がいいわけでもないクラスメイトだ。アフリカ系で、運動神経はいいのに、どのクラブにも――運動系にも文化系にも――所属していないから不思議がられている。まあ俺も人のことはいえないけど。
そんなやつが、教会の敷地の外にじっと立っている。グリーンと黒のチェックのシャツが、黄昏の中で芝生と同化してるみたいだ。前庭から玄関まで少し距離があるから、向こうから俺の顔はわからないだろう。
「入ってくればいいのに。変なやつ」
「知り合いかい?」クリスがこっちにやってきた。
「うん。クラスメイト」
「ディーンに用があるんじゃ?」
「どうかなあ、あんまり話したことないし。バザーにも来たことないだろ。いいよ、俺ちょっと行ってくる」
俺が近づいていくと、ダニエルは驚いたみたいだった。
「……ディーン、だよな?」
「さっきからなんでずっとつっ立ってるんだ? 用があるなら入ってくればいいだろ」
「いや、用ってほどじゃ……ていうかお前こそなんでこんなとこにいるんだよ。ここ、たしか、マクファーソン神父の家だよな?」
「家っていうか、俺、ここに居候させてもらってんの」
ダニエルは白目がはっきり見えるくらい目を丸くした。
「お前、教会から学校に通ってんの?」
「うん」
「なんで」
「なんでって……」俺は少しのあいだ迷って、言った。
「ちょっと……兄貴たちと折り合いが悪くてさ。クリス……マクファーソン神父に相談したら、しばらくここから通えばいいって言ってくれたから」
「お前んちカトリックだったの?」
「いや」
「よく親が許したな」
「うち、親父いないんだ」
ついでに言うと、おふくろは死んだ。
「――いいなあ!」ダニエルは心底うらやましいという感じで叫んだ。「うちの親父なら絶対許してくれないよ。カトリックなんてうさんくさいって思ってるからな。ああ、でももし……」
そのときダニエルの視線が動いて、どぎまぎした表情になったので、俺のうしろにクリスが来たのがわかった――まあ、その前に匂いでわかっていたけど。クリスを目の前にすると、男でもつい赤くなっちまうんだよな。
「ミスター・ブラウン?」ちょっと堅苦しい感じでクリスが声をかけた。
「教会に――それとも私に用かな?」
「神父さん……ええと……その、教会にってわけじゃ……」
ダニーは柄にもなくもじもじしている。その様子を見てクリスが微笑んだ。
「私に用なら、よかったら中に入らないか。コーヒーでも淹れるよ」
とたんに、ダニーの顔がはっきりわかるくらい赤くなった。ジーザス、クリス、それは罪だと思うぜ。
でもやつは、
「あの……この教会って、信者じゃなくても来ていいんですか」
「もちろん。このディーンも、信者というわけじゃないけどここにいる。ボランティアの人たちだっているし、いつでも、誰でも来ていいんだよ」
「ありがとうございます、神父さん。今日は俺……もう帰らないとだけど……また来ます」
「ああ、また学校でね」
バス通りに向かって駆け出したダニエルに、クリスは手を振った。
「なあ、クリス」
「なんだい」
「余計なお世話かもしれないけどさあ、あんまりホイホイ、他人を家にあげないほうがいいと思うぜ。俺とか、ダニーならいいけどさ。あんた、自分の顔がどういう影響を与えてるのか気づいてないだろ」
「顔? 私の顔になにかついているのか?」
真面目くさってクリスが言ったので、俺はため息をついた。
だが本当に、“招かれざる客”が訪ねてくるだなんて、このときは想像もしていなかった。




