8-2
気絶してるダニーとダニーの親父さんとを上に運ぶのは、いくら俺でも無理だった。今度こそ、すっ飛んだ携帯を回収してきて、バッテリーが切れる寸前で911にかけた。
「またあなたですか、マクファーソン神父」
しばらくしてパトカーでやってきたのは、この前教会に来たのと同じ警官だった。ミゲル・ルイスさん、だったかな。
「今日はスミスさんは一緒じゃないの?」
「彼は非番だ。――神父、通報したのはあなたですか? なにがあったのか説明していただけますか」
「ええ、このあいだの大雨の日に貸した服を取りに行くと彼が言うので……」
地下室へ下りていったルイスさんたち警官は、その破壊ぶりにびっくりし、さらに二階の小部屋に置かれたグロテスクな置物やスクラップ記事を、極めつけはバスルームを目にして吐き気をもよおしたみたいだった。おかげで、
「……私たちがダニエル君を探して家の中へ入ったとき、ブラウン氏が襲いかかってきたのです」
というクリスの話も真実味はばっちりだった。クリスってば、ニックに負けず劣らず、やさしい顔してすらすら嘘を――っていうか百パーセントは本当じゃないことを口に出せるんだな。
「しかしですね、もし彼が銃を持っていたら、あなたがたは撃たれていてもおかしくなかったんですよ! なにかおかしいと思ったら、まず警察を呼んでもらわないと!」
ルイス警官は最初っから最後までぷりぷり怒って、説教していた。
そりゃまあたしかに危なかったし、通報しようとしたけど……でも結果的にあの段階でそうしていたら、たぶんあんたがたはあの人を撃ち殺してしまっていたかもしれないし。
「それに、いまどき、本当に悪魔がいて、それが自分の息子にとりついたと思い込むだなんて……」
(ミゲルなんて名前のくせに、信心深くないんだね)俺がこっそりささやくと、
「やめなさい。……こういった事件はたまに起きていると聞いています。精神の病だったり、孤独や逆境からカルトにのめりこんでしまったり……。ブラウンさんがこんなふうになる前に、誰かが気づいてあげられていたら……」
「あなたは神父なのに、現実的なんですね。悪魔なんてものは想像の産物だと?」
感心しているのかどうなのか、ルイス警官はクリスの顔をじっと見た。
クリスがなにか答える前に救急車が到着して警察官が呼ばれたので、その話はそれっきりになった。
ダニーと親父さんは病院に運ばれ、俺たちは結局タクシーで帰るはめになった。
「ニックは薄情だよな、ひとりでさっさと帰っちまうんだから。まあ……だから期待してないけどさ」
タクシーの中で吸血鬼なんて単語を口にしたら、頭のおかしいやつと思われるのがオチなので、俺は小声で言った。
「ミスター・ノーランには彼なりの事情があるんだと思うよ。それに、明らかにあの場に彼は不釣り合いだったし。説明するにも限界があるしね……」
「クリス、俺も病院行ったほうがいいかもしれない」と俺は言った。
「どうした? どこか折ったのか?」
俺は首を横にふった。
「あちこち痛いけど、どこも折れてないと思う。八年生のとき、三階の窓から落ちてもなんともなかったし。……たぶん頭を打ったせいだと思うんだけど、あのとき、あんたのうしろに誰か立ってるのが見えたんだよね」
「……どんな?」
「白い服でさ、髪は黒っぽくて、光ってたせいで顔はよく見えなかったんだけど……」
俺は思い出そうとして首をひねった。
「そうだなあ、なんか、アラブ系みたいに見えたよ、褐色の肌でさ」
突然、クリスの目が潤んで、泣き笑いみたいな顔で、胸の十字架をぎゅっと握った。
「……いや、ディーン、お前はどこも異常はないよ」
「ほんと? ならいいけど。病院は金がかかるもんね。あいつが持ってくれるとは思えないし」




