5-2 Ps40:13‐14
底冷えのする、石造りの教会。薄暗い側廊のすみで中年の女性が泣いていた。隣には彼女の夫が座り、嗚咽する妻の肩を抱いている。
夫婦の前には初老の司教が立っている。痩せて背が高く、厳しい面が猛禽類を思わせるのは……フランチェスキーニ司教……その横にいるのは……私だ。
自分で自分を外から眺めるというのは妙なものだった。私の意識は大聖堂の身廊の柱と柱のあいだに浮かんでいて、そこから彼らを見下ろしていた。
女性がフランチェスキーニ司教になにかを訴える。司教がそれに応える――私にはなにも聞こえない。司教のすぐ隣にいるのに、光も音も届かない宇宙空間にでもひとり放り込まれてしまったような感じがする。
彼女が泣き腫らした顔を上げて、私に向かってひきつったように叫んだ。そのときの彼女の顔ははっきり覚えている――それなのに、声は聞こえない。彼女は再び泣き伏し、夫が彼女にささやきかける。
馬鹿みたいにつっ立っている自分を見たくなくて――目を背けた。
次には自分の体に戻っていた。というより、視点が空中から地表に変わっただけで、教会の、側廊の中にいるのはそのままだった。夫婦の姿も、司教もいなくなっていた。聖堂全体が青白い光に包まれている。
目の前には彼が座っていた。やわらかな黒い巻毛の頭はうつむいている。
思わず嬉し涙が溢れ――次の瞬間には凍りついた。彼が生きているはずはない。自分がふたりいる――また立っている自分自身を外から眺める羽目になっていた――わけもない。
自分が彼に話しかけるのを正面から見せられる格好だった。心配そうな顔つきはしているが、やはり声は聞こえない。
「やめてくれ……」
声が漏れた。
(本当に、覚えていないんだ……)
また、もうひとりの自分がなにか言う。
だが、手を伸ばして彼に触れようとはしない。
やがて、彼が立ち上がって出ていく。私はそれを止めようともしない――
(だめだ……行かないで……)
声になったかどうかもわからなかった。
彼が出ていき、教会の扉が閉まったあと、場面はめまぐるしく変わり、棺に納められた彼の顔、嘆き悲しむ両親の姿、一面が芝生と白い墓標で覆われた郊外の墓地、本棚と大きな机だけが目立つフランチェスキーニ司教の部屋の次に、再び教会に戻った。
司教座聖堂ではない……もっとずっと小さい……うちの教会だ。
私はひざまずいて祈っていた。
肩に手が置かれる。ふりかえると……ああ、そこにいたのはレオーニ神父だった。
小柄な師父は立ち上がった私を見上げた。濃い眉をわざと大げさにしかめて、おどけた調子でなにか言う――神父はいつもそうだった。葬儀のときには旅立つ人のことだけではなく見送る人たちについて語り、子供を喪った親に寄り添った。道を見失った学生には、自分も減量には何度も失敗している意志の弱い男なんだと言いながら、もう一度やりなおせばいいと励まし続けた。
全部覚えている。だから……声が聞こえないのはおかしい。
聖堂がまたあの青白い光に満たされる。レオーニ神父のうしろに誰かが……彼が立っていた。目は髪に隠れて……いや、眼窩が闇に覆われている。レオーニ神父を見ると、師父も死人のように青ざめていた。
闇色の瞳孔がうつろに開いて、ぽっかり開いた口からこぼれるのは――……




