5-1
家の窓が暗いのをたしかめてから、ダニエルはポーチの外階段を上がった。ディーンに借りたハーフパンツのポケットを探ってカギを取り出し、静かに鍵穴に差し込み、回す。
家の中は静まりかえっていた。ほっと胸を撫でおろす。父親は帰っていない。おそらく明日の夕方くらいにはなるだろう。隣の州に住む叔母に頼まれて家の修繕に行っているのだ。万一、頼まれごとが予定より早く終わって帰っていたとしても、ランニングに行っていたとごまかすつもりだった。またカトリック教会なんかに行っていたと知れたら、どれだけ罵倒されるかわからない……。
彼は地下へ降りて、丸めて持って帰ってきた濡れた服を洗濯機に放り込んだ。中には父親の汚れた作業着や下着がすでに半ばまで入っていた。月曜までにきれいにしておかないとまた撲たれるだろう。今着ているものも、明日には洗って乾かして、学校でディーンに返さないとならない。マクファーソン神父でもいい。
神父と、教会に居候しているクラスメイトのことを思い出すと、じわりと目頭が熱くなった。
親戚でも信者でもないのに、赤の他人を教会で預かって、衣食住の面倒をみるなんて……。
カトリックの司祭なんてやつらは全員堕落していて、あの若い神父とその弟みたいな年齢のガキはいかがわしい関係だと父親は口汚くののしっていたけれど、そんなふうには見えなかった。ほんの数年前までは、彼と父親も、あんなふうに軽口を言って笑い合える仲だったのだ。ただあの――彼を車で家まで送り届けた、得体の知れない男だけはよくわからないが。それでも、マクファーソン神父が、あの男が彼に危害を加えることはないと約束してくれたから、ひとまずは大丈夫かもしれない。
全身が鉛のように重かった。洗濯は明日の朝にしようと考えて、彼は疲れた足を引きずるようにして地下室を出、二階の自分の部屋へ向かった。
暗い家の中でそこだけは聖域だった。中学校時代の陸上大会のトロフィーや写真が目に入るたびに、失われた幸せに涙が出てくるが、自分にもまともな時代があったのだと思うための救命胴衣みたいなものだ。
それに――彼はベッドに目をやった――マクファーソン神父から“お守り”を貸してもらってから、少なくとも悪夢を見ることはなくなった。今日の体験は悪夢そのものだったけれど。
そもそも今日、神父のところへ行こうとしたのだって、そのことを伝えて、この家全体で起こっている異常をなんとかできないかと相談しようと思ったからだった。急に父親が家を留守にすると言い出したから、“お守り”を身につけるのを忘れて慌てて出てきてしまったが――
彼は枕を持ち上げて、さらにその下、シーツとマットレスのあいだを探った――ない!
冷や汗が噴き出した。シーツをめくってロザリオが挟まっていないか探す。父親が家事をすることはないから、シーツ交換のときに見つかるはずはない。
マットレスの下、さらにはベッドの下まで膝をついてのぞきこんでみたが、ほこりが落ちているだけで光るものはなにもない。
(どうしよう……マクファーソン神父になんて言えば……)
不安で激しくなる動悸をおさえてカーペットをめくりあげる。ここにもない……。
探し物に夢中になるあまり、彼は階段がきしむのに気づかなかった。
カギをかけていなかったドアが開き、冷気が流れ込んできた。うなじから背筋を凍らせるような寒気に彼がふりむいたとき、戸口にデニムのつなぎを着た父親が立っているのが目に入った。
「父さん……」
帰ったの、早かったね……とごまかす言葉は舌の上で凍りついた。
「ダニエル」
気味が悪くなるくらいやさしい声で父親は言った。
「お前がこそ泥みたいな真似をしているのはわかっているぞ。父親と神様の言いつけに逆らうなんて、お前は悪魔か――このクソったれな代物はなんだ?」
父親の手から、青と銀のロザリオがぶらさがっているのを彼は見た。同時に、それをつかんでいる左手から、コンロにかけたやかんが蒸気を噴き上げるように白い煙が上がり、肉の焦げるにおいがしているのも。
「お前は俺の可愛い息子だよ。だが、言うことをきかない息子には罰が必要だ。罪は罰によって清められる――そうだろう?」




