4. ご飯
魔法の練習を終えた俺は、自分の部屋に戻った。
「相変わらず、悪趣味な部屋だな」
ゴテゴテの装飾。
天蓋付きの金ピカのベッド。
そして、意味不明な髑髏の置物。
センスがなさ過ぎる。
「今度、部屋の片付けでもするか……」
とそれはさておき。
夕食の時間だ。
俺は夕食を一人で食べている。
というのも、基本的に俺は家族から放置されているからだ。
そもそも、母は家にいない。
生きているかすらもわからず、フランクの記憶には母の姿が残っていないのだ。
父からはずっと干渉されていない。
放置プレイだ。
「放置されていたから、フランクはわがままになったのだろうな」
叱ってくれる人もいなく。
愛情を注いでくれる人もいなく。
フランクはきっと孤独だった。
そうは言っても、フランクのこれまでの所業を正当化する気もなければ、同情する気もない。
自分が辛いからといって、人を傷つけて良い理由にはならない。
と、カッコ良いことを考えてみた。
なんか、こういうセリフって少年漫画にありそうだよな。
現実で言うと、ちょっと厨二臭くなる。
と、どうでも良いことを考えているときだ。
コンコンと扉を叩く音が聞こえてきた。
「フランク様。お食事をお持ち致しました」
「入れ」
尊大な物言いになってしまう。
フランクの体に、俺の精神が引きづられているからだろう。
いまさら口調を変えたところで、怪しまれるだけだし、無理に話し方を直すつもりはない。
扉が開かれると、若い女性の使用人が立っていた。
彼女は「失礼致します」と言ってから、お辞儀をし。
料理を乗せたカートを押しながら部屋に入ってきた。
俺の部屋には食事スペースもある。
一人では退屈に感じてしまうほど、広い部屋なのだ。
食卓の上に料理が置かれていく。
豪勢な食事だ。
前菜から順にスープ、パン、肉などなど。
次々と料理の載せられた皿が置かれていく。
どれも美味しそうだが、量が多くて困る。
これだけ食べていたら太って当然だ
痩せたいと思う俺からすると、辟易するほどの量。
ダイエットは食事制限が大事だ。
これは当たり前のことだけど、意外にもできていない人が多い。
運動しているから大丈夫だ、とか。
ちょっとくらいの間食は大丈夫だ、とか。
今日はお祝いだから食べても大丈夫だ、とか。
そういった一つ一つの積み重ねによって、ダイエットが失敗するんだ。
最後はダイエットすること自体が面倒になってしまい、結局太ったままになる。
俺は今日からダイエットを始めようと思っている。
だから、使用人がデザートの皿を持ち上げたとき。
「今日のデザートはなしにしろ」
と、俺は言った。
すると、その途端、
パリン。
皿が割れる音がした。
使用人がデザートの皿を床に落としたのだ。
「も、申し訳ありません!」
と、彼女は深く頭を下げた。
そして、何度も謝ってきた。
彼女の肩が小刻みに震えている。
彼女が怯える理由が痛いほどわかり、申し訳なくなった。
フランクは気に入らない使用人に暴力を奮って、ストレスを発散していた。
それによって辞めていった使用人は多数。
「謝らなくても良い。それ以上謝られると、却って不愉快だ」
と、俺が言うと、彼女は恐る恐る顔を上げた。
俺は彼女を安心させるように、にっこりと笑って見せる。
だが、しかし。
「ひ、ひいぃぃぃ」
逆効果だった。
使用人は先程以上に怯えた顔をする。
フランクの笑みは、相手に恐怖を与えるものだったらしい。
人の良い笑みを浮かべたつもりなのに……。
ちょっと、ショックだ。
でも、仕方ない。
これまでのフランクの行動に問題があったから。
少しずつ、俺のことをわかっていってもらうしかない。
まずは誠意を行動で示すべきだな。
俺は立ち上がる。
すると、使用人は後ずさりを始めた。
俺はどれだけ嫌われてるんだ?
なんか、悲しくなってきた。
でも、気にしたら負けだ。
部屋に置いてあるゴミ箱を取ってきて、デザートを手で拾う。
そして、ポイッとゴミ箱に入れていく。
割れた皿は危ないから、適当に布でくるむ。
しかし、皿の破片がチクッと指に刺さった。
「いたっ……」
と俺が言うと、ようやく使用人が放心状態から立ち直った。
そして、彼女はぽつりと言葉を吐いた。
「どうして……?」
うん?
それは何に対する疑問だ?
「割れた皿を片付けている。床に落ちたデザートを見ながら、飯など食えんからな」
使用人が口を大きく開けて固まった。
そして、しばらくしてから彼女は再起動した。
「……フランク様であられますよね?」
彼女の敬語がおかしいことになっている。
うん?
再起動の失敗か?
それとも電源が切れたままなのか?
「無論、フランクだ。貴様の目は節穴か?」
と俺はいう。
「本当に、フランク様ですよね?」
使用人が念を押すように聞いてきた。
「何度も言わせるな。貴様は馬鹿なのか?」
おっと、ダメだ。
俺の口から暴言が飛び出してしまった。
「……私は夢を見ているのでしょうか?」
使用人が自身の頬をつねる。
「い、痛い……夢ではないようです」
俺は使用人の行動を見て反応に困った。
だが、俺の意思とは別に口から言葉が出た。
「夢なわけがないだろ。貴様が夢現なのは認めるが」
使用人は「わわわ」とあわて始め、
「た、大変失礼いたしましたー!」
と言ってから部屋から飛び出し、行ってしまった。
「ん……?」
よくわからんけど、逃げられた。
それよりも、
「結局、デザートと割れた皿の処理は俺がするのか?」
まあ、いいんだけどさ。
ということで、床を綺麗にする。
そうして掃除が終わったタイミングで、先程の使用人が駆けつけてきた。
そして、第一声で、
「部屋が綺麗になっている……?」
と呟いた。
「貴様の代わりに、俺が片付けをやっておいた。俺に感謝することだな」
使用人は再びぽかんと口を開けた。
今日のやり取りだけで、何度彼女の驚いた顔をみたことだろう?
しばらくしてから、彼女は顔を真っ赤にさせた。
そして、唐突に真面目な顔になり、
「申し訳ありませんでした」
と言った。
俺は彼女の顔を見ながら、表情の変化が激しい人だなーっと思った。
まあ、その原因は俺にあるんだけどね。
4話から一気に展開を変えることにしました。