3. 魔法の練習
前世の記憶が蘇った翌日。
俺はさっそく屋敷の庭で魔法の練習をすることにした。
魔法を覚えておけば将来困ることはない。
それに、
「魔法はロマンだ」
どちらかと言うと、こちらが本音。
ちなみに人それぞれ得意な属性があり、瞳の色によって得意不得意が決まっているらしい。
フランクは赤い瞳であり、得意なのは火属性。
ゲーム内でも火の魔法を使用していた。
火以外の魔法も使えるが、火魔法と比べるとだいぶ見劣りしてしまう。
そこまでして苦手属性を覚える必要もない。
得意不得意がわかっているなら、得意な属性を伸ばした方が良いに決まっている。
「それに、火の魔法はカッコいい」
火属性のキャラは基本的に強いイメージがある。
フランクだって、それなりの努力をしておけば、噛ませ犬ではなく終盤のボスぐらいの強さにはなっていただろう。
「宝の持ち腐れってやつだろう」
ちなみに、フランクはゲームの序盤、“火柱”という魔法を良く利用していた。
その名の通り、ぼわっと火の柱が立つ魔法である。
序盤の中ではなかなかに強力な魔法であるため、ゲームプレイ中は苦しめられた記憶がある。
さらにゲームのフランクはねちっこい性格をしていた。
火の耐性が弱いキャラを執拗に狙ってくるのだ。
まじでネチネチした奴だぜ。
だから嫌われるんだよ。
と、それはさておき。
「今の俺にもフレイムは使えるのか? そもそも、どうやって魔法を使うのだ?」
ゲームでは呪文を唱えれば勝手に魔力が消費されて、魔法が発動した。
しかし、ゲームが現実となった今、呪文を唱えるだけで魔法が発動するとは思えない。
「それ以前に、ここはステータスがある世界なのか?」
俺が読んでいたWEB小説の中で、ステータス画面を見える設定のものがあった。
もしかすれば、この世界にもステータス画面があるかもしれない。
よし、試しにステータスを確認してみよう。
ということで、例のあの言葉を言ってみた。
「ステータス・オープン!」
……ん?
おかしい。
何も起こらないぞ?
いや、もう一度言ってみよう。
「ステータス・オープン!」
……やはり何も起こらないようだ。
「ダメだな。違う言葉か?」
と、言うことで俺はそれっぽいことをたくさん言ってみた。
『ステータス』『開け、ステータス』『オープン・ザ・ステータス』『ステータスよ、我に力を!』『頼む……開いてくれ、ステータス!』
しかし、
「ダメだ。何を言っても、ぜんぜんステータスを見られる気がしない。そも、この世界にステータスなんてモノは存在しないのか?」
ゲームの世界であっても、ゲームと全てが同じってわけじゃないらしい。
ゲームとは似て非なる世界と思ったほうが良さそうだ。
特にシステム面ではゲームのモノを信用しないほうが良いだろう。
「ステータスを見たかったが……まあ良い。とりあえず魔法を使ってみるか」
そうは言うものの、魔法の使い方がわからない。
と思ったが、
「そういえば……俺って以前、家庭教師がついていたことがある」
フランクの記憶の中に家庭教師から講義を受けていたモノがある。
と言っても、家庭教師がついていたのは一瞬だけ。
というか一日だけだ。
フランクは相手が気に入らないという理由で、すぐに講義を放棄した。
だが、そのときに少しだけだが魔法の使い方を習った気がする。
「あれは、確か……」
当時のフランクの記憶を呼び覚ます。
「そうだ、思い出した。魔法は魔力を消費して発動する。これはゲームと一緒だ。そして肝心の魔力だが……まずは魔力を感じ取るところから始める必要がある」
魔力とは血液と一緒で心臓を中心に流れているらしい。
だから血液の流れを意識するように魔力を探せば良い。
「……とはいうものの、そもそもの血液の流れってなんだ? まったくもってわかん」
と、まあ嘆いても仕方ない。
ひとまず、体内の魔力を探してみた。
すると、
「……おっ! なんとなく、わかった気がするぞ」
ほんのりと温かいモノが体を循環しているようだった。
「きっと、これが魔力だろうな」
こんなに早く魔力を見つけられた俺は天才かもしれない。
「次は……呪文でも唱えてみるとしよう」
家庭教師の話では、魔力をぎゅっと引き締めながら呪文を唱えれば魔法が発動するとのこと。
「ふむふむ、よくわからん」
でも、まずはやってみるか。
ということで、フランクが得意としていた呪文を唱えることにした。
「焼き尽くせ! 火の柱!」
そう言った瞬間、急に体の中の魔力が動き出した。
このままではまずいと思い、魔力をぎゅっとしてみた。
すると、次の瞬間。
俺の目の前でぼおぉっと火の柱が立った。
「おおおおっ! これが本物の魔法か! 凄いモノだな!」
感動した。
男のロマンが目の前にあった。
ゲームでフランクが使用していたモノと比べると、多少威力が低い気がする。
「初めてだから、こんなものか」
火の柱はしばらくすると消えた。
「まずはフレイムを極めるとしよう」
そうして俺は魔法の練習に明け暮れることになった。