2. フランク・L・フォークナー
フランク・L・フォークナー。
フォークナー伯爵の息子であり、出来損ないの三男だ。
ゲームにおけるフォークナーは相当な嫌われ者だった。
貴族にあらずんば人にあらず、という考えのもとに平民を虐め、てっかてかに光った脂まみれの顔で、でゅふ、でゅふ、という気持ち悪い笑みを零し、ねちっこい性格でグチグチと嫌味を言う。
これで好きになれという方が無理だ。
平民の主人公を見下し、何度も突っかかり、そのたびに倒される噛ませ犬であった。
嫌いなキャラランキングでも堂々の一位を獲得していたと聞く。
そして俺は等身大を映す鏡で自分の姿をじっくり見ていた。
そこにはゲームの時期よりも幾分幼いフランクが立っていた。
ていうか、今の俺だ。
ペタペタと顔を触ってみる。
「まさか、転生? いや、でもそんなことってあるのか?」
と、思った瞬間、フランクの記憶が一気に頭の中に流れ込んできた。
「うっ……」
激しい頭痛に襲われ、頭を抱える。
そうして、痛みに耐えること約十分。
俺は悟った。
そう、俺はフランク・L・フォークナーに転生してしまったのだ。
「はははっ、アニメでは良く見たけど。まさか自分が転生するとは思わなかった」
それも転生先は悪役の噛ませ犬だ。
普通なら『主人公に倒されるのは嫌だ!』となるところだが……。
あいにく、俺はそんなこと思わなかった。
「そもそも、フランクのような嫌われる行動をしなければ、主人公に倒されることもないもんな」
ただ、一つ大きな問題がある。
それは、
「俺が噛ませ犬役をやらないとゲームが進行しない……。つまり、主人公たちが成長できず、ラスボスに倒されるかもしれん」
だが、そんなこと言われても倒されるのは嫌だ。
というか、主人公なんだから俺という障害なしでも勝手に成長していってくれ。
ということで俺は自由に生きることにした。
そう決めた俺は、将来について考えることにした。
ゲームの世界に転生したと言っても、人生が勝手に進んでいくわけじゃない。
というかゲームのように進んでいったら、主人公たちに倒される未来が待っている。
この世界で自分らしく生きていく必要がある。
ちなみに、貴族社会は長子相続制だ。
伯爵家の三男である俺が爵位を継げる可能性は限りなく低い。
となると、
「騎士になって武功を立てるか……もしくは、魔法を極めて、宮廷魔法士になるかだな」
爵位を継げないとなれば自分で結果を残すしかない。
と言っても、平民と比べると貴族はかなりイージーモードだ。
まず貴族として生まれた時点で魔力持ちがほぼ確定している。
魔力の有無はほとんど遺伝で決まる。
貴族の大半は魔力持ちのため、貴族の子供は当然魔力持ちになるというわけだ。
魔力を持っているだけで、職の幅が広がり、生きやすい人生になる。
そして、当たり前とも言えることだが、貴族は平民と比べて色々と優遇されている。
名門学園に通うのも、騎士団に入団するのも、王宮に勤めるのも、全て貴族のほうが有利に働く。
さらには勤め先でも貴族のほうが出世が早い。
かなりの人生イージーモードだ。
それになんと言っても、
「フランクは才能だけはあるんだよな」
ゲーム内での話だが、フランクは主人公パーティに一人で戦いを挑んでいた。
そして、かなり主人公たちを苦戦させてきたのだ。
フランクが十分優秀だとわかる。
加えて、フランクが真剣に魔法を学んでいるシーンはなく。
フランクは怠惰に過ごしていたにも関わらず、一人で主人公パーティと対等に戦えたことになる。
フランクの潜在能力の高さが伺える。
ここまで考えればフランク・L・フォークナーは性格さえ問題なければ、超絶優秀な人物だったと言える。
「顔だって、痩せていれば悪くなさそうだしな」
今のフランクはまだぽっちゃり体型だ。
ゲームで見た丸々に太ったフランクと比べればだいぶ可愛くも見える。
暗めの茶髪に燃えるような赤い瞳。
少しつり上がった目が悪役っぽくはあるけど、吊り目のイケメンはたくさんいる。
色々と考えてみたところ、フランクに転生できたことは幸運なことだと思えてきた。
「ラスボスとかは主人公たちに任せるとして、俺は俺で自由に生きてみるか」
と、そう決めた。