緊急招集
「え?また王宮に?」
「はい。申し訳ありませんが、どうしてもと……殿下が」
アーサー様も苦労が絶えないな。
呼ばれたら行くからそんな申し訳なさそうな顔しないで。
私が行かないとアーサー様が、暴言を吐かれることは目に見えている。
「それではコトネ様。支度をしましょう」
「支度?緊急なんだし早く行かないと」
「コトネ様。国王陛下夫妻や神殿関係者、宰相閣下を始めとした名だたる貴族が揃う場なのですよ?それなりの恰好をしなければなりません」
いや、私。さっき行ったときはみすぼらしくない外出用の服装でしたけど?
中途半端の恰好だと、またカイザー様に嫌味言われるかもだけど。
「シェイド様。お手数ですが道具を一式、それとドレスも出しておいて下さい」
「それなら魔法でやってもらったほうが早いんじゃ」
「何を仰いますか。手間暇かけるからこそ、女性は美しく輝くのです。殿方もそう思いますよね?」
ラヴィの問いかけには圧が含まれていて、ぎこちなく頷き肯定した。
いつものように男性陣は部屋の外に追い出される。
慣れた手付きで髪をすく。ゆっくりと丁寧に。
緊急って急ぎのことじゃないのかな。
しかも呼び出したのはカイザー様。遅くなったら何を言われるか。
「もしかしたらラヴィ。呼び出したのがカイザー様だから、わざと遅れようとしてる?」
「まさか。身だしなみを整えるのは淑女としての常識ですよ」
昼はそんなに気合い入れなかったじゃん。
絶対、カイザー様に対する嫌がらせ。
髪が終わると次はドレス選び。とは言っても、王妃様から貰った数着しかないんだけどね。
ドレスやアクセサリーのカタログは貰ってあるけど買うつもりはない。なくても困らない物にお金を使う趣味もなく。
私のために予算を割くって言ってくれてるけど、そんなことはしなくていい。
困ってる人達に支給して欲しいと頼めば、更に私の株が上がってしまった。散財してきた友愛と比べている。
お金を直接、支給するのは色々と問題があるため、食料や物資を配ることにした。
国民に配布する案はクラーク殿下が考えたことにしてもらう。存在が隠された王子がいきなり王太子だなんて、反発する勢力は多い。
功績としては小さいけど、積み重ねは大事だ。
クラーク殿下のことをちょっとでも覚えてもらうため、私も手伝おう。
平民は友愛を聖女として崇めているけど、カイザー様が国王になることを望んでいない。
貴族派はこぞってクラーク殿下の味方となってくれるはず。
「コトネ様はどれも似合うので迷いますね」
「青色のシンプルのやつでいいよ」
「こっちの赤も素敵ですよ」
うん。ドレスはね。
私にはちょっと派手すぎる。着こなす自信は全くない。
黒のドレスなんかは胸元も大きく開いてセクシーで、スラッとした長身の、イオナさんのような女性が似合う。
お腹のお肉同様に、胸もそこそこ育ってはいるけども。
似合わないドレスを着る勇気はない。
「爪のお手入れもしましょう」
「もう行かない!?」
時計の針はもう一時間を回る。
絶対に怒り狂って悪口言いふらしてるよ、カイザー様。
「コトネ様の準備が整いました」
不満そうなラヴィは外で待機する男性陣に声をかける。
ドレスに着替えてしまい、馬に乗れないからシェイドに送ってもらうことに。
指定された場所に直接、到着した。
突然、人が目の前に現れると驚くもので、ザワついている。
広い部屋。多分、派閥ごとに座ってる。王族派、多いな。
公爵も呼ばれてるんだ。
友愛はヒラヒラの赤いドレスを着こなしている。あれも実家の子爵家に買ってもらったのかな?
「遅いぞ豚!!この俺がお前みたいな豚にも声をかけてやったんだぞ!!さっさと来るのが筋だろう!!マナーも知らない卑しい豚めが!!」
「殿下。コトネは私の娘です。コトネへの侮辱は我が公爵家への攻撃とみて、よろしいですね?」
「うぐ……お、俺は貴族としてのマナーを教えてやったんだ」
なるほど。流石に公爵家は敵に回したくないのか。
あんな敵意剥き出しの笑顔は誰でも怯む。
「それで。忙しい我々を緊急と称して呼び出したわけですが……。時間を割くに値する議題なのですよね?」
要約すれば、くだらない要件だったら覚悟しておけ。
声も中々に冷たい。
──あれこそ本物の不敬なのでは?
「無礼であるぞレイチェスター公爵!カイザー様に向かって!!」
「私はお前達のように暇ではないだけだ」
「私もですよ。殿下のくだらぬお遊びに付き合うぐらいなら、一つでも仕事を片したほうが効率が良い」
悪友コンビが圧をかけていく。
レオンハルト様は王宮でカイザー様と顔を会わす機会があるのに、そんな態度取って大丈夫?
…………大丈夫か。レオンハルト様のほうが強そうだし。
「今日、集めたのはその豚……」
鋭い無数の視線がカイザー様に突き刺さる。
「口の利き方には気を付けろ。コトネ様はお前が侮辱していいお方ではない」
「先程、貴族のマナーと仰いましたが、人としてのマナーがなってない貴方には言う資格はありません」
甘やかしてくれていた両親から突き放されるのは堪える。
慣れ親しんだ優しい世界の変化を受け入れる様子はない。
体だけは成長し、中身は子供のまま。
王の器でもなければ、資質もない。
「そこの女……」
「カイザー。王子たるお前が女性の名も覚えていないのか?」
「ぐっ、……ぁ…コトネ、が……」
声ちっさ!そんなに呼びたくないんだ。
カイザー様が私の名前を覚えていたことのほうがビックリだけど。友愛が何度も呼ぶから嫌でも覚えちゃったんだろうな。
数人はカイザー様が私の名前を呼んだことに不快を示す。
呼ばなくても怒られる。呼んでも怒られる。理不尽の板挟み。
「聖女だと多くの声が上がっているが、果たしてそうなのか。俺はそれが問いたい」
私は見逃さなかった。友愛の口角が上がったことを。
なんだろう。嫌な感じがする。
胸の奥がザワつく。
「実の母親を殺した者が清き聖女だと、本当に思うのか?」




