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価値はない【友愛】

 昼時、従者に何かを伝えられたカイザーが部屋を出て行った。


 会議の一件以来、この私が進んで謹慎を申し出てあげたというのに王妃は私を許そうとしない。


 本来であれば向こうからこちらに出向き、膝を付いて「許す」と言わなければならないのに。


 あの女、一体何様のつもり?偉そうにしちゃって。


 レオンハルトの部下……名前何だっけ?まぁ、いいや。あの男はカイザーの手によって追い出された。


 いい金づるだったから良くしてあげていたのに、何を勘違いしたのかこの私を押し倒してきた。


 どんな神経していたのかしら。私はカイザーの婚約者で、未来の王妃。あの程度の男は金だけ出していれば良かったのよ!


 顔だってイケメンじゃなかったし。

 中の下。醜いくせに、この私を襲おうなんて。


 大人しく貢いでいれば職を失うこともなかったのに。


 「いい気味よ」


 男の失態は瞬く間に広がり、次の職は簡単には見つからない。


 ある程度の貯金は全部、慰謝料として私が貰ってあげたから一文無し。


 実家に戻るんだからお金なんてなくても困らない。


「ユア……」


 戻ってきたカイザーの顔色があまりよくない。また叱られてきたのかしら。全く。バカは学習しないから嫌よ。


 元の世界の男だったら、もっと上手くやるのに。


 典型的な甘やかされたバカね。


「王太子じゃなくなった」

「え?何?」


 入り口でボソボソと喋る声が聞こえなくて聞き返した。


「俺を王太子から外すって父上が。代わりに弟のクラークが王太子になるそうだ」


 …………………………は?何言ってんの、この男。


 王太子じゃなくなる?


 初めてこの国に召喚された日、状況が飲み込めない私に颯爽と歩み寄り、プロポーズをしてきた男は二次元から飛び出してきたようなイケメンだった。


 現実には存在しないような存在。


 だから悩むことなく受けたのよ。


 顔立ちだけでなく、身なりも煌びやかで、お金を持っていることもわかったから。


 幸運だったのはその男はこの国の王子だったこと。それだけじゃない。いずれ国のトップに君臨する王太子。


 私の人生は誰にも負けない確固たるものになった。はずだった。


 ──次期国王だから、クズでバカな性格には目を瞑ってやったのよ!?


 王妃になれば好きなだけ好みの男を手元に置ける。お金だって使い放題。


 私に逆らう者は処刑。


 ──幸せな未来を想像していたのに……!!


「カイザー様。クラークって誰ですか?」

「弟、らしいんだ」


 らしい?あんたの兄弟でしょ!どうして何も知らないのよ。


「オリヴァー公爵家に預けていたらしく、すぐにでも王宮に呼び戻すと」

「では!カイザー様はもう王太子ではなくなるのですか?そんなのおかしいです!ずっと頑張ってきたカイザー様を蔑ろにするなんて」

「俺の失態が……と、言っていた」

「失態?もしかして心音ちゃんに対する暴言ですか?あれは!私のためを想ってくれて言ったことなのですよね?それを失態だなんて……!!」

「それだけじゃない。召喚の儀を行ったことも父上は気に食わなかったらしい」

「そんな……。カイザー様が召喚してくれたから、私はカイザー様と出会えたのですよ?それが悪いことなんて、陛下には人の心がないのですか」


 バカはこうしておだてておけば勝手に機嫌が良くなって扱いやすくるなる。


 次第に顔色が良くなってきたカイザーに、いつもの調子が戻ってきた。


「そうだ!きっと嫉妬してるに違いない。息子の俺が、ユアのような天使と結婚することに」


 結婚なんてするわけないでしょ。バーカ。


 王になれないあんたに残るのは女遊びが激しいクズってだけ。顔の良さを足したところでプラスにもならない。


 私の結婚相手に相応しくないのよ。


 今現在の候補はやっぱり、キース、ミハイル、レオンハルト。この三人。


 顔によってはクラークって王子も候補に入れてあげる。


 歳上って一つや二つしか違わない男としか付き合ってこなかったのよね。


 だって私の周りにいる四〜五十代って、ハゲでデブでキモいの三拍子揃った最低ランク。


 ちょっと優しくしてあげたら勘違いして、ホテルに誘ってくるし。ほんっと、キモかった!

 たかが数万で私をどうこう出来ると思っていたその考えも。


 レオンハルトは違う。イケメンでお金もあって地位もある。こういうおじ様なら私と釣り合う。


 経験も豊富そうだし、私のことをきっと満足させてくれる。


 向こうがどうしてもと言うなら付き合ってあげてもいい。


「ユア。その、ほら。最近、俺達……」

「カイザー様。私は謹慎中です。そのような行為が万が一、バレてしまったらカイザー様が怒られてしまいます」


 価値のなくなったあんたと寝るなんて死んでもごめんだわ。


 流石に女遊びが激しいだけあって、満足のいくものではあったけどね。


 時々なら遊んであげてもいいけど、本命にするつもりはない。


「そ、そうか。本当にユアは優しいな。こんなときにも俺の心配をしてくれるなんて。あの豚とは雲泥の差だ」


 はぁぁ?私をあんなのと比べないでよね。そういうとこ、ほんとムカつく。


 私を立てようとしてるんだろうけど、勝負にもならないデブスを引き合いに出されて勝っても嬉しくない。


「ユア!また国民の前で奇跡を見せてはくれないか」


 どんだけ学習しないのよ。


 聖女の派閥が出来た今、不用意に私が奇跡なんて起こせば反感を買うに決まってる。


 そんなことがわからないなんて、脳みそ入ってないでしょ。


 あんたみたいなバカと心中するつもりなんてないわ。


「ダメですよ。私は聖女じゃないから……」

「何を言っている!!?ユアこそが聖女だ!」


 人を外見でしか判断しないクズ中のクズ。


 私からしたら有難い。表立って動けない私の代わりに手足となって動いてくれるんだから。


 感情的になりやすく、救いようのないバカのせいで上手くいったことはないけど。


 ふふ、そうだ。良いこと思いついた。


「ユア!?どうしたんだ!?急に泣くなんて」

「私、キース様や、他の皆様が不憫で」

「どういう意味だ?」

「実は……。いえ、何でもありません」

「何だ!言うんだ!!」

「私も心音ちゃんに聞いたことなんですけど。心音ちゃん……お母さんを……殺してるんです」

「な……なん、だと……!!?」


 私は嘘は言っていない。


 母親の葬儀が終わったあと、自分でそう言っていた。


 詳細も聞いたけど、そんなのはどうでもいい。


 自分が殺した自覚があり、思い込み、そう口にしたのなら、それはもう犯罪者。


 人殺しと陰で囁かれる度に絶望し、死にそうな顔を浮かべていた。


 無神経なカイザーに人殺しと責め立てられたら、心が壊れちゃうかもね。


 ──仕方ないよね?


 だって私の物を盗んだんだもん。


 キースもミハイルもレオンハルトも、そしてシェイド。あれは全部私の物。


 私が欲しいと思った人も物も、全部私が手に入れなければならない。それこそが世界の理。


 奴隷として使えないデブスなんて、存在する価値もない。


 使えそうだったから優しくしてあげたのに、飼い主の手を噛む犬が壊れようがどうでもいいわ。


 奴隷なんでまた作ればいい。

 今度はもっと忠実な、決して逆らわない奴隷をね。


「みんなが心音ちゃんに騙されているのだとしたら、早く洗脳を解いてあげないと」


 カイザーの首に手を回し耳元で囁けば、どうでもいい正義感に動かされる。


 早速、神殿も含めた双方の派閥の人間を招集した。もちろん、主役も忘れずに。


 間違ったまま世界は回ってはいけない。


 私が望み、思い通りになる世界こそが正しいのよ。


 ああ、胸がドキドキしてきた。


 私は天使だから、途中で笑ったりしないように気を付けなくちゃ。

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