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私?私は………聖女です

 あれから、レオンハルト様が私を訪ねて来るようになった。


 同じ敷地内にいるレオンハルト様は神官長より足を運びやすいようで。


 宰相ってめっちゃ忙しいイメージなんだけど。

 恐らく忙しいはずなんだ。だってキースが困惑してる。


 お忙しい宰相様が仕事をサボる余裕なんてないだろうと。


 パーティーの件もそうだけど、レオンハルト様自らが女性の元に出向くのは本当に珍しい。


 私が好きなことを隠すつもりはないらしく、自分に素直な行動を取っているだけ。


 誠実の二文字が似合うレオンハルト様は、これまでに付き合った女性に、不誠実な態度を取ってしまったことを謝罪してきたそうだ。


 心が広く優しい彼女達は皆、笑って許してくれた。


 元々、レオンハルト様が自分達を好きでないことは知っていて、それでも本気で好きだったから困らせてしまうとわかっていても泣いてしまった。


「好きじゃいのに付き合ってたんですか」

「誤解がないようにお伝えしておきますが、何十人と付き合ったわけではありません。五〜六人ですからね」


 まぁまぁ多いな。


 一夫多妻制なんて文化の違いがあるわけだし、もしかしたらその人数は平均なのかもしれない。


 イケメンで上級貴族。宰相ともなれば周りは放っておかないだろう。


 女の壮絶な戦いの火蓋が切られてしまったわけか。


 面倒事回避のためには誰かと付き合っていたほうが良い。レオンハルト様から好意を抱くことはなく、結果として別れと新たなる付き合いを繰り返す。


 レオンハルト様も相手に失礼だと思いつつ、仕事に専念するためには彼女が必要だったらしい。


 ──それならいっそ、契約結婚をすればいいのに。


 貴族間の政略結婚はよくあること。契約結婚だって珍しくはないはず。


「レオンハルト様は結婚はせず、生涯独身で国に仕えることを選んだお方です」

「キース様。宰相である間、ですよ」

「では今は?」


 キースの問いかけにレオンハルト様は微笑むだけ。


 明確に「しない」と答えが欲しかったキースからしてみれば、その微笑みは否定の証。


 あのレオンハルト様が仕事以外に目を向け、女性に興味を示す。


 気が気じゃないのはレオンハルト様が魅力に溢れた素敵な男性であるとキースも認めているから。


 でもね、キース。レオンハルト様は私の恋愛対象にはならない。


 そりゃさ、素敵な男性ではあるけども。


 私の口から好きになることはないと告げるのは最低だしな。


「大丈夫ですよキース様。コトネ様は私を異性として一欠片も見ていませんから」


 ──それは言い過ぎ!


 カッコ良いと思うのは異性として見てないことになるのかな。


 そこの境界線、難しい。


 でも、芸能人とかにもカッコ良いって使うし、やっぱり思うだけでは意識していないのと同じ。


 無言で肯定してしまい気まずさが漂う。


「私はコトネ様の幸せを願っています。ですので、私自身がコトネ様に選ばれなくても構わないません」


 そりゃモテるわ。こんなに他人のことを気遣ってくれるイケメンなら。


 きっと今までも、付き合っていた彼女にさりげない優しさとか見せてたんだ。


「それよりレオンハルト様は何用でこちらに来られたのですか?まさか雑談のためだけではないですよね」


 それは聞かないほうが良かったと言うように小さく息を吐く。


 困った笑みを浮かべるもすぐに、宰相としての顔付きになった。


「コトネ様に国王陛下夫妻から昼食のお誘いがきております」


 もしも要件を聞かなければ、お誘いを受けることはなかったのだろう。


 キースも数秒前の自分を恨んでいる。


 そうして私はまた、何度目かの王宮に出向くことになった。



 食堂には既に陛下と王妃様がいて、私を待ってくれていた。


 本来であれば私のほうに出向かなければならないのに、足を運んでくれたことに感謝をされてしまう。


 ──いやいや、来ますよ。お呼ばれしたら。


 護衛のキースにも座るように促す。


 ただ食事をするために呼ばれたわけではなさそうだ。


 運ばれてきた料理はどれも美味しそうで、シェイドが毒は入っていないと言えば安心よりも先に不安が押し寄せてきた。


 わざわざ喧嘩売るようなこと言わないで!?


 王宮の料理人が毒を入れるわけないじゃん。残飯は出してくるけど。


「率直にお聞きしたい。もしカイザーが王位を継げば、国はどうなると思いますか」

「すぐに滅ぶと思います」


 悩むことなく即答すると、答えがわかっていたように項垂れた。


 キースが王子として戻らない限り、王太子はカイザー様のまま。


 権力を望まないキースが王子に戻る希望は薄い。


「で、でも。カイザー様には……」


 カイザー様を操ろうとする貴族がいるから、上手くいけば滅ぶ可能性はなくなる。


 と、言いそうになったけどやめた。そういう雰囲気ではなさそうだし。


 あれ?おかしくない?


 王族派の人達はカイザー様が幼少期より操り人形にしようと計画していたはず。その企みが成功する確率ってほとんどゼロじゃん。


 だってカイザー様の婚約者にはミラが選ばれていた。賢いミラが踊らされるわけもない。


「だから婚約を破棄させるように仕向けた……?ミラが邪魔だったから」


 公爵家の娘を殺せばタダでは済まないけど、婚約破棄ならば簡単。


 カイザー様の女癖の悪さは今に始まったことではないし、塵も積もれば情さえ消える。


 バカの一つ覚えみたいに見境なく女性に手を出しまくるのは、さりげなく唆す誰かがいたから。


 元々、カイザー様はミラを嫌っていた。


 優れた能力を持ち、誰からも必要とされるミラの夫となるにはカイザー様では役不足。どんな山より高いプライドを持つカイザー様がミラを疎ましく思うのは当然。


 しかもミラとの婚約破棄を突きつければ、問題があるのは自分だと認めることになり、それもまたプライドが許さない。


 影で実権を握りたいがために女性を利用するなんて。もしかしたら自分達の娘を進んで差し出したかもしれない。


 ──最低!!


 誰かを犠牲にして手にする権力に何の意味があるのか。


 悪事ではなく、王宮勤めが出来るように頭をフル回転させたらいいのに。


「父上!母上!どういうことですか!!?」


 うわ、ビックリした。


 すごい剣幕のカイザーは従者が止めるのも聞かずズカズカ入ってくる。


 席に着く面々を見渡しては驚愕していた。


「なぜ俺に声をかけてくれないんですか」

「お前を誘う理由はないだろう?」


 真面目に、酷い返しをされた。


 カイザー様って私に暴言しか吐かないからね。


 いつまでもシェイドが見逃してくれると思ったら大間違い。いずれ大きなしっぺ返しを食らう。


「食事中ですよ。出て行きなさい」


 王妃様にさえ冷たくあしらわれ、やり場のない怒りは私に飛んでくる。


「卑しい豚が!!父上と母上を洗脳したな!?」


 ──してません。洗脳されてるのは貴方では?


 火に油を注ぐつもりはなく、いつものように聞き流す。


「いい加減にしろ!!お前がユア殿に懸想するのは勝手だが、いちいちコトネ様を巻き込むな!!」

「はぁ……。わかりましたよ」


 カイザー様にしてはしおらしい。


 陛下の言葉が響いた?そんなわけない。絶対、何か企んでるよ。全員が警戒している。


 聞き分けが良かったらそもそも、こんな事態にはなっていない。


「そこの豚を俺の側室にしてやる。それなら文句ないでしょう」


 勝ち誇ったように、上から目線で、意味のわからないことを言った。


 今の話の流れから、なぜ私がカイザー様の愛人に任命されなければならないのか。


「俺の愛を受けるのはユアだけで、寝室を共にするのもユアだけだがな。貴様には特別、豚小屋ではなく人間用の部屋を用意してやる。食事も家畜の餌ではなくちゃんとした物をな。泣いて感謝しろ」


 長々と、私と友愛に差を付けてくるけど私は愛人になることを了承していない。


 しかも妥協してやった感を出してるけど、人として当たり前の配慮ばかり。


 カイザー様が喋れば喋るほど場の空気は重たくなるのに、それでも私に慈悲を与える自分に酔っては口を閉ざす気配はない。


「陛下。よろしいですね?」


 レオンハルト様のドスの利いた声に、陛下は目を閉じてゆっくりと頷く。


「カイザー。本日をもって、お前を王太子から外すことにする」

「…………は?」


 カイザー様の口を閉ざしたのは、予想だにしない陛下の発言。


 驚いているのが私とカイザー様だけなことから、他の皆さんはこうなることを知っていたようだ。


「俺を廃嫡するんですか」

「廃嫡ではない。全てを白紙に戻すだけだ」

「そんな突然……」

「お前の失態は目に余る」

「失態?」

「召喚の儀を勝手に行ったこと。コトネ様への侮辱。王太子教育からの逃げ。王太子の座を利用して貴族令嬢に関係を迫ったそうだな」

「彼女達は俺を受け入れていました!!」

「王太子でなくても、王族からの誘いを断れるとでも?」


 王妃様はもうカイザー様を甘やかすことをやめたように、声は冷たい。


「し、しかし!俺以外の誰が次の王座に座るのですか!?まさかキースが?」

「私はコトネ様の騎士です。お前と違ってその座に興味はない」

「貴方が心配する必要はありません。現時点で王太子にはクラークを任命します」


 クラーク?二人兄弟じゃなかったんだ。


 キースは私と目が合わないように視線を下げる。


 隠し事がバレた子供のように落ち込んでいた。


 言いたくないことを無理に言う必要はない。


 部外者の私に秘密にしておかなければならないことの一つや二つ、あったところで不思議じゃない。むしろ秘密のままにしておくのが正解。


 私だってお母さんのことを話せていない。


「どこの馬ともわからないような奴が王太子!?」

「クラークはお前達の弟だ。話したはずだぞ?」

「弟……?」

「父上。兄上が自分のこと以外を覚えているはずがありませんよ」


 クラーク殿下の詳細を語るつもりはないらしく、カイザー様が返り咲くためには功績を挙げることが必須であると告げる。


 救済処置は用意してくれるなんて、完全には切り捨てられないのが親というもの。


 こんな絵に描いたようなダメ人間になってしまったのは甘やかしが原因でもあるからね。


 クズ人間にしたのは取り巻きの貴族だろうけど。


「父上達が聖女だというこの豚を!俺の側室にしてやるって言ってるんですよ!?おい!豚からもなにか言え!!」

「どうして私が貴方様如きの愛人にならなくてはいけないのですか?」


 話し合いをするため、敵意がないと示すようにニッコリと笑う。これでも立派な社会人として勤めていたわけですよ。


 愛想笑いぐらいお手の物。


「それに、カイザー様よりキースのほうがカッコ良いじゃないですか。おまけに頭も良くて性格も良い。人望も厚い。カイザー様がキースに勝てるとこなんて、無駄に高いプライドだけでは?あ!もう一つ覚えあった。女性からの支持率……嫌われ度」

「なっ……き、貴様!!この俺がここまで譲歩してやったというのに!!何様のつもりだ!!」

「そうですね。そんな偉い立場ではありませんが、かつてこの国に加護を与えた精霊王シェイドから新たなる加護を受けた聖女ですが、なにか?」

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