パーティーでの出来事
ついに、ついに来てしまった。
私なんかが足を踏み入れていいはずがない煌びやかなパーティーが。
こんなにも今日が来て欲しくないと願ったのは、いつぶりだろう。
前日に王妃様が直接、ドレスを持ってきてくれた。アクセサリーも一緒に。
わかっている。こんな大事な日に体調を崩せないことは。でも!体調不良と偽って呑気に離れで過ごしたかったのが本音。
ドレスに着替えさせれているときに聞いた。私は陛下と王妃様と共に入場するのだと。私が聖女だからではなく異世界から召喚されたから。
私一人だけの理由はカイザー様が友愛をエスコートすると先に宣言してしまい、その熱に水を差したくなかったそうだ。
カイザー様か陛下と王妃様。どちらと一緒だと国民の感心を得られるか友愛ならすぐに計算する。言いくるめられてないということは、友愛のエスコートがカイザー様に決定した時点で、何も言っていないのだろう。
【コトネ、綺麗!】
【一番!】
【周りが霞んじゃうね!】
【シェイド様とお似合い!】
顔の周りを嬉しそうに飛び回る。
ドレスが皺になるといけないからシェイドの魔法で直接、会場に送ってもらう。
別室にはパーティーのために着飾った陛下と王妃様が待機していた。
──う……眩しすぎる。
直視出来ないほどの美しさに目が眩む。
美男美女のお洒落は破壊力抜群。目視だけでダメージを食らう。
背景に花とキラキラって効果音が見える。
私は今からこの二人に挟まれて入場するの?嫌なんだけど。今からでも体調不良にならないかな。
全身黒子衣装なら私もそんなには気にしないのに。
時間になると会場に移動する。護衛が数人、後ろからついてくる。キースはいない。
なぜかそのことを寂しいと感じてしまう。いつの間にか傍にいてくれることを当たり前に感じていた。
キースにはキースの仕事があるんだから、傍にいて欲しかったなんて思ったらダメだ。
扉の前に到着すると緊張してきた。この向こうには大勢の人がいる。扉を開けた瞬間に注目は一気に集まってくるんだ。
王妃様が直々に仕立ててくれたドレスは超一級品。私には猫に小判、豚に真珠。
私と一緒にいて二人のセンスが疑われたらどうしよう。今からでも体調不良を訴えて……。
「大丈夫ですよ。コトネ様」
緊張する私の手をそっと掴む。手汗半端ないのに王妃様は気にする様子もなく。
開かれた扉を進むと、さっきまで談笑していた人達の視線が一斉に飛んでくる。
俯きたい。けど……!!
顔を上げなくては。
「あの方が聖女様?」
「噂で聞くイメージと違うのね」
「確か二人、召喚されたと聞いたぞ」
「じゃあ、聖女様じゃないほうか」
「あら。それって変じゃない?だって陛下と王妃様とご入場されているのよ」
「それはそうだな」
あちこちでコソコソと噂されてる。
真打は最後に登場ってことで、友愛とカイザー様はまだいない。
すごいなぁ。国で一番偉い人より目立とうとするんだもん。並の精神力じゃない。
誰にも注意されなかったのであれば、カイザー様の評価が下がることを今更気にするのはやめたのだろう。それとも良いように操りたい周りが、そうするべしだと後押しいたのかも。
バーン!!と派手に入場するタイミングに合わせて花が舞う。そんな演出までするのか。
友愛の登場に男性陣は定番の「可愛い」や「美しい」を口にする。
華やかなピンク色のドレス。会場の令嬢達が見たことのないドレスだと感心しているのを見るに、後継人となってくれた子爵家に強請ったな。
可愛い娘の晴れ舞台に用意した一着。誰にも文句は言われない。
愛想を振りまいていた友愛は私の左右を見て一瞬、笑顔が引きつった。
カイザー様よりこの二人のほうが自分の存在をアピールするにはうってつけ。
陛下からの長々とした挨拶はなく、召喚の儀により私達が異世界よりやって来たことを告げる。どちらが聖女であるかは触れずに。
外見だけなら圧倒的に友愛が聖女。めっちゃ色んな奇跡を起こしそう。
さて、お披露目は終わったことだし、後は存在感を消しながらご飯を食べていればいいんだよね。
「コトネ様」
陛下に呼び止められ振り向くと、何やら手を差し出されている。
──あれ?曲がかかってない?
なぜだろう。すごく嫌な予感がするのは。
一歩下がってやんわり逃げようとする前に
「一曲踊って頂けませんか」
食べてるだけでいいって言ったじゃん!踊るなんて聞いてない!
全く踊れないんですけど。
貴族のダンスって優雅に美しく、私とは縁遠いものでしょ。
見てわかるように、私は貴族ではない。ダンスなんて踊れるわけがないのに。
「無理です。踊れません」
陛下にだけ聞こえるように小声で断った。
「私の足の上に乗ってくれて構わない」
「もっと無理です!足が潰れますよ!?」
「コトネ様はユア殿と違い婚約者がいない。ファーストダンスの相手は注目されてしまう」
陛下が相手の時点でかなり注目浴びてますが?
このザワつき、気付いてますよね。
常識に疎い私でもこれだけはわかる。国王陛下のファーストダンスのお相手は王妃様のみ。
王妃様を差し置いて私と踊ったら威厳も何もあったもんじゃない。
「王妃にもキツく言われているんだ。コトネ様に恥をかかせるなと。私を助けると思って手を取ってもらえないか」
陛下の視線は穏やかな笑みを浮かべる王妃様に。私も辿ってみると王妃様の背後にどす黒いオーラが蔓延している。
何としてでも私と踊れという重圧。
私が陛下と踊らなければ後で怒られるのか。
「本当に踊れませんからね」
これは人助け。私が手を取るだけで陛下が助かる。
「大丈夫だ」
安心したような、無邪気な笑顔。
リードしてくれているとはいえ足は全く追いついていない。このままだと数秒後には仲良く転倒。
友愛は可憐に踊る。レッスン受けてたんだろうな。息ピッタリ。
部屋から出られないんじゃなかったの。
友愛の部屋だし、きっと練習が出来るほどの広さはあるんだろう。
「乗って構わないよ」
私の限界を見抜いて再度、言ってくれた。
気が引けるけど陛下の対面を守るためだ。自分に言い聞かせながら、罪悪感に押し潰されながらも陛下の足に乗せてもらった。
平然としてるけど重いよね!ごめんなさい!!
パーティーが終わったらすぐシェイドに治してもらうので、今だけは勘弁して下さい!!
私が乗っていても何かが変わるわけではなく、ステップは軽やか。王妃様は満足気にうなづいている。
──いいんだ、これで。
曲が終わった。
ふぅ。これで後は静かに料理を食べてればいいわけだ。
内心、まだドキドキしながらも役目を果たせたことに安心する。
「あら、あの方は……」
何やら入り口のほうが騒がしい。
なぜだろう。ものすごーーく嫌な予感がするのは。
人が左右に分かれ、作られた道を歩いてくるのは見慣れた神官服ではなく、髪をセットし貴族の服に身を纏う神官長。
イケメン度が増した。女性達はうっとりと頬を赤く染める。
非道な噂のことなんか忘れているようだ。
こうして見ると、ただのイケメン貴族。
胡散臭い笑顔のまま、なぜかこっち向かって歩いてくる。
逃げたい。全力で。
どうしようかと悩んでいると、別の歓声が聞こえた。それには神官長も足が止まり、騒ぎのほうを向く。
「キース?」
見間違いではない。こちらもまた、いつもと服装は違うけど間違いなくキースだ。
会場の護衛じゃなかったの?
だって、あれではまるで、パーティーに参加している貴族。
目を見開き驚く神官長よりも先に私の前に到着したキースは、純粋な可愛らしい笑顔を向けた。
「コトネ様。一曲踊って頂けませんか?」
──…………そうくるかキースさん!!
言葉の理解に一瞬、頭を悩ませた。
私が踊れないと知って誘ってくるなんて、どんな嫌がらせ。
「コトネ様。是非、私とお願いします」
いつの間にかそこにいた神官長も、胡散臭さのない純粋な笑顔。
どっちか選ばなくてはいけないのだろうか。
違うな。どっちかを選べば、後からもう一人も選ばなくてはならない。つまり、どちらと先に踊るかだ。
──どっちもお断りしたい。
これだけ注目されているのに「ごめんなさい」を言える勇気は私にない。
「すまないが、コトネとは私が先に踊らせてもらうよ」
この世界で私を呼び捨てにするの男性はただ一人。
多くの人が集まる場所には行きたくないと、珍しく自分から留守番を申し出たのに、私のピンチを察してくれたのか。
───え、どちら様?
現れたのはシェイドではない。
シェイドが姿を変えているだけかもしれないのに、絶対に別人だと断言出来た。
凛々しい顔立ち。誰かに似ている。
歳上のイケメンさんが二人をキツく睨むと、譲るように一歩下がった。
キースはともかく神官長を引き下がらせるなんて、この人何者。
厳しい目は私に向けられることはなく、まるで愛しい人を見るような優しい目。
この人が誰かわからないまま手を掴まれ、強制的に踊らされる。
陛下とのダンスで、粗方のステップは覚えたけど、早いペースにはついていけないから、このままゆっくりが好ましい。
「強引ですまない。こうでもしないと君と話せないと思ってね。私は、君の父親と言えばわかるかな」
「レイチェスター公爵様?」
「そんなかしこまらなくていい。とは言っても、会ったばかりの私を父親と思い、まして呼ぶなんて無理だろう?慣れるまでは好きに呼んでくれていい」
「嫌ではないんですか」
「なぜ?」
「なぜって……。だから、私……太ってるから」
「可愛い娘がきてくれて私も妻も大喜びだ。コトネ。父親として私は君を守ると約束しよう」
優しくて温かい人。
他人に寄り添える公爵が治める領民は幸せだろうな。
「コトネ。もしあのクズに何かされたら私に言いなさい。すぐに排除してやる」
声のトーンが一気に下がった。公爵の言う排除が物理的な死を意味することはわかる。
物騒すぎない!?反逆と捉えられてもおかしくないよ。
冗談を言うタイプでもなさそうで、本音なんだろうな。
──クズが誰を指しているのかわかる私もどうなんだろ。
「いつでも我が家に来るといい。私達はもう家族なのだから」
曲が終わり、最後に私の頭を撫でて奥さんであろう人の元に歩いていく。
うわ、美人。
この国、美形多いな。美の神様にでも愛されているのだろうか。
「コトネ様。次は是非、私と一曲」
「神官長。シェイドと約束してませんでした?私の前に姿を現さないって」
「ええ。ですので、この日のために頑張ったのですよ」
何を?と、聞けば答えてくれるかな。
神官長の笑顔はほぼ、脅迫に近い。圧に負けて手を取った。
神官なのに貴族の心得というか、ダンス上手いな。
よくパーティーには出席するのだろうか。
「しませんよ。あくまで私は神官ですから。今日はコトネ様に会いに来ただけです」
歯が浮くような台詞をよくも淡々と言えるものだ。聞くこっちが照れてしまう。
神官長と踊る曲は短く、すぐに終わってしまった。
物足りなさそうな神官長は私の手を離す気配がない。
「同じ女性と二度踊るのはマナー違反ですよ」
「そんなに殺気を飛ばしてこなくても、独占するつもりはありません。今は」
最後、聞き流せないことを言ってキースと交代した。
フリーになった神官長は友愛にダンスを申し込まれるも冷たくあしらう。
陛下と公爵。私が踊った相手を誘うもお断りされていた。
友愛に気がありそうな男性陣からの誘いはあるものの、外見重視の友愛のお眼鏡に適う貴族はいない。
カッコ良いんだよ!普通に。
ただ、あの……なんというか。主役級のイケメンではない。
レベルの高さを知ってしまった友愛からしたら物足りないだろう。
「キースも友愛に誘われてなかった?」
「丁重にお断りしました」
「なんて言ったか、聞いたら困る?」
「いいえ。カイザー様も踊る女性がいないのですから、お二人でずっと踊っていればよろしいのでは、と」
「それは、丁重なの?」
「違いますかね」
わざとか天然か。
かなり煽ってるよ。それ。
王子としての教育を受けてきたキースのダンスはとても上手く、ステップを覚えたての私ではついていくのがやっと。
タイミングを見計らってキースの足に飛び乗ると、小さく驚いた後、さっきよりもスピードを上げてステップを踏む。
私を落とさないようしっかりと手は掴まれ、腰に手が回る。ゼロ距離ではない。超密着。
恥ずかしさからなのか、私の体温は一気に上昇。
キースは緊張することなく柔らかく微笑む。
一曲踊りきったキースは、隅のほうで休憩をしようと勧めてくる。慣れないことに疲れてしまったし、当初の予定通り食べることに専念しよう。
「コトネ様。一曲踊って頂けませんか」
渋い声に振り返ると、初めましての素敵なおじ様が微笑んでいた。
──陛下と同い歳かな?
キースは目を見開きながら言葉を失っている。
役目を終えた陛下と王妃様は用意された椅子に座り、会場を一望していた。
私のことを気にかけてけれている陛下は、私の前に現れた人物を見ては感心したような顔をしていた。ついでに、王妃様にも伝えている。
キースは警戒するように前に出て、騎士のような体勢。
イケおじ様はカイザー様側の人間。友愛を聖女と崇める派閥。
そういうことでいいのだろうか。
「キース様。私のことはご紹介して頂けないのですか」
「キース。こちらの方は?」
素性がわからなければ警戒の仕様もない。
「こちら、宰相のレオンハルト・ルヴェール様です」
宰相ってことは国の重鎮。一回も見たことないな。
まさかカイザー様を操ろうとする王族派のリーダーはこの人では。
その上、友愛を聖女にしたいのなら、私の存在は邪魔で仕方ない。
こんな人の目が多い場所で何かしてくるはずはないだろうけど、友愛のためなら何をしてもいいと思う人がいるのも事実。
そしてその罪は全て、自分一人で被る。
「コトネ様。レオンハルト様は……女泣かせのレオと呼ばれていますので、あまり近づかないほうがよろしいかと」
「はい?」
混乱する私をよそにキースは真面目な顔で説明してくれる。当の本人が聞いているにも関わらず。
えーーっと、つまり。レオンハルト様は、そのルックスで随分とおモテになり、歳を重ねた今は色気も加わり、女性人気は益々高く。
女性と付き合ったことは多々あり、でも、堅物でも有名なレオンハルト様は彼女よりも仕事を優先。
その結果、別れるを何度も繰り返す。そのとき彼女には気持ちは残っているし、本音は別れたくない。
別れると口にするのはいつも彼女達のほうで、レオンハルト様は承諾するだけ。
その瞬間、二人は恋人から他人に戻る。
だから女泣かせ、ね。なるほど。
ちなみに、生涯独身を貫くのではと噂されるほど、最近のレオンハルト様は仕事に没頭していた。
キースの驚きは堅物レオンハルト様がパーティーに現れるだけでなく、女性をダンスに誘うことはこれまで一度もなかったこと。
忙しいを理由に欠席が許されるのはレオンハルト様だけ。よっぽど信頼が厚く、仕事人間なんだ。
神殿と良好な関係が築けているのはレオンハルト様の功績が大きい。
国になくてはならない存在。
──で、そんな人がなぜ私を?
キースの心配そうな表情の訳は他の女性同様、関わりを持ったことにより私が泣かされるのではと危惧している。
大丈夫だよ、キース。
レオンハルト様に泣かされるとしたら、私がレオンハルト様のことを愛していなければならない。
流石に父親ぐらいの年代の男性は恋愛対象にはならないから。
「コトネ様はダンスが苦手です。申し訳ありません他の方とお願いします」
他の方。友愛のことだ。面倒を押し付ける気満々。
同年代のイケメンとしか接してこなかった友愛は、歳上のイケメンをロックオン。
ほんと、イケメンなら何でもいいのか。
確かに包容力はありそうだよ。大人で余裕もありそうだし。
「今日のために溜まりに溜まった仕事を片付けたんです。コトネ様と踊れなければ来た意味がない」
「仰ってる意味が……」
「一曲、私にお付き合い下さい」
「レオンハルト様!!」
「ダンスが不慣れでしたら、キース様にしたように上に乗ってくれて構いませんので」
言うが早いか、腰に手が回りグッと抱き寄せられる。
イケメンのドアップは心臓に悪い。
社交の場にほとんど出ない割に、しっかりリードしてくれる。
夕日のように美しいオレンジ色の瞳は瞬き以外に私を映さないときはない。
レオンハルト様とは話すことが何もなく、無言で踊り続ける。
「つまらないな。これでは」
どんな独り言もこの距離では聞こえてしまう。
何がつまらないのか聞こうとすると突然、レオンハルト様はスピードを上げた。
いきなりすぎて、レオンハルト様が強く手を握ってくれていなければ倒れていた。
──無理無理無理!このスピードは無理!!
「私に寄りかかるといい。そのほうが少しは楽になる」
これ以上、どうやって寄りかかれと?
体の重心をほんの少しレオンハルト様に傾けた。
「あれ?」
不自然なところで曲が終わった。いや、止められた。怒りの炎に身を包む公爵によって。
音楽団の皆さんも怒り狂う公爵に逆らうなんて真似は出来ない。
会ったばかりの私を大切な娘として守ろうとしてくれる公爵の優しさに胸がじんわり温かくなった。
楽しく踊っていた他の人達の足も止まる。
曲が終わればダンスも終わり。で、いいんだよね?
「コトネ様。お付き合い頂き、ありがとうございました」
「こちらこそ……」
レオンハルト様は違和感なく流れるように、私の手の甲に唇を押し当てた。
会場がザワっとしたのは気のせいではない。
これも、普段は絶対しないのか。
「あ、あの。私と踊ってくれませんか?」
出た。必殺の上目遣い。やっぱり可愛いな。
計算されているとはいえ、自分をより可愛く見せる方法を熟知している。
「バカとずっと踊っていればいいのでは?」
心の声がそのまま出ている。カイザー様は友愛から離れた所にいるから聞こえていないとはいえ。
ここにはもう用がないと言わんばかりに退場しようとする。
「宰相閣下」
「レオとお呼び下さい。コトネ様」
クルリと私と向かい合うレオンハルト様は色気たっぷりの笑顔。大人の魅力というやつか。
歳上好きにはたまらないだろうな。私の心には刺さらないけど。
「陛下が呼んでるみたいですけど」
陛下の手招きは見えていたはずなのに無視しようといていた。
無礼講が通じる仲、なのだろう。
渋々、陛下の元に足を運ぶ。
友愛と二人残され気まづい。
どうしよう。話したほうがいいのかな。
当たり障りのない、カイザー様との結婚式はいつやるのか聞いてみよ。
「友愛」
「この卑しい豚が!!ユアに何をするつもりだ!!」
口を開いた瞬間、ものすごい剣幕のカイザー様に力いっぱい突き飛ばされた。
不意打ちすぎて派手に転んでしまう。
「ユアが聖女だから嫉妬か!?姿だけでなく心まで醜いな!!」
カイザー様の目には私が友愛に暴力を振るっていた姿でも映っていたのだろうか。だとしたら随分と調子の良いフィルターがかかっている。
何もしてない女性に手を上げたカイザー様は「正気か」と疑われた。
会場の数ヵ所でカイザー様に対してドス黒い感情を抱いていることを私は知る由もない。
【アイツ!コトネを殴った!!】
【シェイド様に報告〜!!】
【天罰!天誅!!】
【コトネが受けた百倍の痛みを返してやる〜!!】
「アーサー卿。剣を貸して頂けませんか。あの痴れ者を斬ります」
「落ち着けキース!確かにカイザー様はやりすぎだ!だが!今からお前がやろうとしていることはコトネ様に迷惑しかかけん」
「コトネ様が聖女ではなかったとしても、女性に手を上げた時点でアレはもう王子ではありません」
「怒りは最もだが……。仮にも兄だろう」
「兄?お言葉を返すようですが私に兄はいません」
「国王陛下。いつあのバカを廃嫡にするのですか」
「レオンハルト。口を慎め」
「コトネ様に対する無礼を見逃せと?随分と息子に甘いですね。もしや次期国王の存在を心配しているのですか?それならご安心を。キース様を脅してでも、王子に戻してみせますので」
「それはやめてくれ。頼むから。あの子の数少ないワガママを叶えてやりたいのだ。其方、もしやとは思っていたが、コトネ様のことを……?」
「アナタ。殺気を抑えて下さい」
「わかっている。わかっているのだが……!!」
「あら、お母様。遠慮することはないですよ。コトネは私達の家族。家族に暴力を振るわれたのに、黙って見ているだけなんて公爵家の名折れです」
「ミラの言う通りです。彼女はもう私の妹。あのクソ野郎。一発ぶん殴ってやる!!」
「カイザー様。貴方はどうやっても我々神殿を敵に回したいようですね。シェイド様。見ていらっしゃるのでしょう?お力をお貸し下さい。傲慢な王子と勘違い自称聖女の立場をわからせてやる必要があります」




