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離れにようこそ

「ここがコトネ様のお部屋ですか?」


 翌日。


 神官長様は呆気に取られていた。


「離れと聞いていたのでてっきり離宮かと……」


 陛下と同じこと言っていた。


 王宮や離宮と比べて差がありすぎる。ここに案内されたとき騙されたと不安になったのではないだろうか。


 友愛の元でどんなおもてなしを受けたかはわからないけど、お客様にはそれ相応の対応をしないと。


 グランロッド国で一番人気の高いケーキと紅茶。


 食べ終えるまで私達は外で待機。


 人様の食べる姿を見るのはよくない。だってほら、人によっては第三者がいるのが嫌って言う人もいるわけだし。


 呼ばれたら話し相手にはなるけど、それ以外は極力、リラックスしてくつろいで欲しいため視界に入らないよう努力する。


 色々とややこしくなるからシェイドには一時的に姿を隠してもらう。代わりに妖精達が何がなんでも私を守ろうと意気込む。


 離れから少し離れた場所に大きな木があり、その下でボーっと時間が過ぎるのを待つ。


 この木は元々あったものではなくシェイドの力で作られたもの。


 やっぱりね。ずっと部屋に篭ってるのも体に毒だから、たまには太陽の光を浴びないと。


 直接、日差しが当たることを懸念したシェイドが一瞬で作り、葉が多く生い茂るからとても気持ち良い。風が吹いたときなんて最高。


 おもてなし要因としてラヴィは扉の外で待機。キースも誰が訪ねてきても跳ね除けられるよう離れにいる。


 私の傍には妖精がいるからそこまで神経を尖らせて私を守ろうとしなくても大丈夫。


「あのさ。どうして君達は自分を妖精だって言うの?」


 目の前を飛び回る妖精達に声をかけるとピタっと止まり、互いに顔を見合わせたあと答えた。


【だって~。シェイド様が~】

【精霊より妖精って響きのほうが好きだろうって~】

【コトネは妖精嫌い~?】

【それとも好き~?】


 そんな理由!?


 シェイドの命令であるだろうとは思ってたけど。まさか私のためだったとは。


 確かに精霊より妖精のほうが可愛い感じはする。だからって元の存在を否定させるようなことをしたらダメだよ。


 ここはハッキリとさせておこう。四匹には妖精ではなく精霊だと説明し、今後は妖精だと名乗らないように念を押した。


 ぐで~っと首を傾げながらも私のお願いということもあり了承した。


 というか。歴史書にも精霊って記されているって言ってなかった?


 私のために精霊を妖精に変えたのだとしたら、記録や記憶書き換えたことになる。


 ──え、シェイド。怖っ……。


「コトネ様」

「ふぁい……っっ!!」


 あ、穴があったら入りたい。


 驚いたからってバカ丸出しの返事。


 神官長様が気にしないお方で良かっ……。めっちゃ笑い堪えてる。


 ポーカーフェイス気取っているのに肩が震えてる。


 いっそお腹抱えて大爆笑してくれれば私も救われるんだけど。


 てか、いつからいたんだろ。


 私が妖精……精霊達と喋ってるとこは聞かれてないよね?


 せめて喋り終えたところだったらいいのに。


 笑いが収まったのか咳払いで空気をリセットした神官長は私を散歩に誘った。


 神官長と二人きりか。避けたいシュチュエーションだ。


 私一人だと何かとボロが出そうで怖い。


 精霊達も行くなと袖を引っ張ってくる。


「申し訳ございません神官長。ここは王宮内の敷地ゆえ、私の判断で出歩くことは出来ません」


 断り方これで合ってるよね。


 返事までの時間が異様に長い。ドキドキしながら待ってると、さほど残念ではなさそうに


「それは残念。それではせめてティータイムぐらいはご一緒にお願いしても?」


 まるで断られることを予想していたかのような返し。


「いえ。その……」


 紅茶を飲みたくないとは言えない。

 緑茶のティーパックはシェイドに用意してもらっているけど、神官長の前では使えないし。


 最もらしく且つ不快にさせない理由で断らないと。


 私は頭が良いほうではないから案が浮かばない。


 困っていると颯爽とラヴィが間に入ってくれた。


「無礼を承知で発言致します。コトネ様はこちらの世界に不慣れでございます。神官長とテーブルを共にするのはまだ……」

「王妃殿下の侍女であった貴女のお言葉です。信じます」


 今……何と……?


 ラヴィが王妃様の侍女?


 だってそんなこと一言も……。私はてっきりカイザー様かキースのどちらかに仕えていたとばかり。


 そうか。異性の従者は普通は就かないか。


 カイザー様は……いっぱい傍に置いていそう。自らのプライドを保つため、同性ではなく女性に褒められたほうが気分も上がるのかもしれない。


 私だけがラヴィの元の主をわかっていなかったことを察してくれて、空気が少し気まづくなった。


 二人の言い分としては既に相手が言っているものと思ったとか。聞かなかった私も悪いけど。


 ラヴィの言葉が半分嘘で、半分本当だと見抜いている神官長は小さな笑みを浮かべた。


 離れの暮らしとはいえこの世界には慣れた。だからそれは嘘。


 紅茶を好まない私が神官長と同じテーブルにつくのは無理。だからそれは本当。


 私を困らせたと精霊達はほっぺを膨らませてお怒り中。何かをする前にシェイドにお願いして引き取ってもらった。


「神官長にいくつか質問があるんですけど」

「何でもどうぞ」

「祈りの間って何ですか?」

「聖女様が国を救って欲しいと精霊王様に祈る部屋です」


 まんまだ。驚くほど名前に捻りがない。


 友愛を聖女にするには祈りを捧げるしか方法がなかった。


 そこにたまたま干ばつ被害が収まる奇跡が起きたわけか。


 聖女と祭り上げるには最高のタイミング。


 カイザー様はどうあっても友愛が聖女でなくてはならない。その理由は聞かずともわかる。


 支持率。


 カイザー様が自身の人気のなさを自覚してるとは考えにくく、周りが唆しているはず。


 王妃が聖女の力を持っていれば歴史上で一番の王となれるとか何とか。


 聖女と結婚しただけで一番になれたら世話ないわ。


「あと愛し子ってどういう意味ですか」

「精霊王様の加護を受け、愛される人間のことです」

「ん?えっと……要は加護を受けた人?」

「いいえ。愛される子で愛し子。愛情を注がれ慈しまれる者です」


 ちょっとめんどくさいかも。


 つまり私は加護を受けただけでなく愛まで貰っている?

 悩んでいるとシェイドとのキスを思い出して、ぶわっと顔が熱くなった。


 あれがただの挨拶であったのなら良かった。


 彼氏がいたことのない私が異性に好意を持たれたことがあるわけもない。


 好かれるって何?って感じ。私なんかに惹かれる人なんて……。


 わかってる!シェイドが私を好きだと自覚してるくせに今更照れるがおかしいっていうのは。


 第三者から聞いてしまえば、たった一%でも否定していた考えを消さなくてはいけなくなる。


「コトネ様?顔色が悪いようですが体調が優れないのですか?」


 顔を覗き込んでくる神官長はとても心配そうにしていた。


 いつだって……。その態度や目は友愛だけのもの。


 咳一つで大袈裟に心配されたり、困った素振りを見せればすぐに手を差し伸べてもらえる。


 男女共に愛される天使。


 羨んだことは一度もない。だって友愛は可愛いから。それは当然の権利。


 分不相応にも他者から優しさを求めてはいけない。


 人は見た目こそ全て。平均より劣る私は石のように友愛の隣で当たり前と化した日常を眺めているだけ。


「神官長。コトネ様は聖女でありますが騒がれるのを好んでいません。このままお帰り願いたいのですが」

「カイザー殿下も似たようなことを仰っていました。コトネ様は聖女の名を語る偽物。即刻首をはねよ、と」


 全然内容違いますけど。


 王子の権限で私を殺せないのは、この問題が神殿の管轄だから。


 勝手に罰せられない。


 神殿を怒らせて貴族派につかれる事態は避けたいだろうし。


「申し訳ございませんキース様。見極めるのが私の仕事。昨日はユア様のお部屋に泊めて頂きました。例外もなければ片方の融通を効かせる訳にもいきません。なので今日はコトネ様のお部屋に泊めて頂きます」

 「は?部屋?」


 私よりも先にキースが反応した。

 なぜか殺気を醸し出しながら。


 屈託のない、可愛いとさえ感じてしまうような笑顔を浮かべる神官長とは対照的。


 「ええ。ユア様が仰っていましたよ。お二人がいた世界では、初対面の男女は同じベッドで寝るのが普通なんですよね?」


 ──知りませんけど!?そんな異文化!!


 いつからそんな、ふしだらな文化が出来のか。私が教えて欲しい。


 神官長がイケメンだから一度でも過ちがあれば、手に入れられると思ったのだろうか。


 あまり深く考えたくない。頭が痛くなってくる。


 あからさまな嘘に、この神官長が乗っかるとは思えないけど……。

 そんなことを言うってことはつまり、えと。そういうこと?


 聡明であろう神官長が?と、疑問は浮かぶ。


 「丁寧にお断りしましたよ。ユア様には婚約者がいるので、いくら元いた世界の文化とはいえ殿方を誘うのは些か、淫らではありませんか、と」


 それは丁寧なのかな?


 友愛の嘘を見抜いた上で、その……男好き発言をしてるような。


 その後にどうなったのか、聞かなくてもわかる。


 から、聞かない。


 「神官長。我が国にそのような文化はありません。ですので、一緒に寝るというのは……」

 「そうですか」


 やや残念がっているのは気のせい?


 あとキースが怖い。

 痛いくらいの殺気を飛ばされても尚、笑顔を絶やさない神官長も怖いけどさ。


 そんな相性悪いの?この二人って。


 ──一方的にキースが敵視しているだけではあるけど。



 「しかし困りましたね。見る限りでは、コトネ様のお部屋は一人用ですし」

 「全然!気にしないで下さい!私は外で寝るので!!」

 「そう言われて気にしないようでしたら、人としての人格を疑われてしまいます」

 「大丈夫です!キースもいますし」


 私がいかにキースを頼りにしているかアピールするために、腕にしがみつく。


 硬派なキースはいきなり抱きつかれて戸惑うかのように顔が真っ赤。


 さっきまで殺気立っていたのに、石のように硬直した。


 ──ほんとごめん!この一瞬だけ我慢して!!


 「コトネ様。神官長をお部屋に泊めるのはよろしいですが、いいのですか?」


 スっと出てきたラヴィの言葉に、私は首を傾げるだけ。


 「お部屋にあるのはコトネ様のベッドのみです。同性ならともかく、異性の方に休んでもらうのは」

 「あ……ソウデスネ」


 私のベッドをそのまま使ってもらうつもりはなく、シェイドにお願いして新しい物を出してもらう予定だった。


 シェイドの存在を隠しているため、ベッドを新品と入れ替えたと言っても信用はない。


 私の考えなしの行動をさりげなく教えてくれたラヴィに感謝。


 で、どうしよう。


 今から運んでもらうにしても、時間かかるかな?


 「コトネ様。私が外で寝ますので、どうかお気になさらず」

 「いや……いやいや!!お客様をそんな!だって……!!」


 必死な私を見ては小さく笑う神官長。

 口元を隠し、そっぽ向いて。肩を震わせる。


 案外、失礼な人だな。


 「コトネ様は聖女である以前に女性です。その神域にズカズカと入るつもりはございません」

 「でも……」


 優しく微笑む神官長は折れない。そう直感した。


 「そうだ。それでは、朝までお喋りするというのはどうでしょう?キースとラヴィも含めて四人で」

 「それはそれは。とても楽しそうですね」


 徹夜なんて何年ぶりか。

 今からワクワクと胸が躍る。





 夜になって食事も終えて、テーブルを四人で囲む。


 神官長がやたらと私にばかり質問をしてくるので、キースが間に入ってくれる。


 置いてけぼりの私とラヴィは顔を見合わせて苦笑した。

 話に入れないので席を離し、二人の行方を静かに見守るだけ。


 白熱……しているわけではないけど。立場が違っても男同士の話は盛り上がるようだ。


 その姿を、かつての私と友愛に重ねてしまうのは……。


 もう戻れはしないのだ。あの日々に。


 何も知らない愚かな自分(まま)でいられたら。きっと楽だったのだろう。


 朝日が昇り、陽が差し込む。


 キリのいいところで話は終わり、神官長は一度、神殿に戻るそうだ。


 他の神官に結果を伝えなくてはならないからと。


 またすぐに戻って来ると言われたけど、どうせなら私抜きで事を進めてもらいたい。


 関わってしまった以上、そんなワガママが言える立場ではないと諦めている部分もある。


 「さて。今日の予定はどうなさいますか?」

 「行かなくていいの?王宮」

 「嫌なら無理に行く必要はありません」

 「ラヴィ。そんなわけにはいかないだろう。コトネ様も。悪ノリはやめて下さい」

 「はーい」


 やっぱり行くしかないのか。


 気が重いな。


 招集まで時間はあるため、のんびりと気持ちの整理はつけられる。


 いつの間にか目の前にいたシェイドは、額に口付けを落とした。


 イケメンオーラ全開でそんなことされると心臓が持たない。


 照れを隠すように、わざとらしくいつも通りを装っても体を巡る熱は冷めないまま。

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