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シェイドの力

「離宮にいないから探したぞキース」

「私は離れ、と申しました」

「普通に考えてこことは思わんだろ!?元は物置だぞ!?」


 突然の来客、陛下は我を忘れて叫んだ。


 敷地内には王宮とは別に王妃宮と離宮が存在する。


 王妃宮は主に王妃候補の令嬢が色々と学ぶ場所。それ以外の用途としては、夫婦喧嘩をした王妃が心と体を休める場所でもある。


 私には一切何の関係もないから詳しくは聞いてない。


 行く予定もないから。


 離宮は避暑地として使われることが多かったらしく、陛下は私がそこで暮らしているものだと勘違いしていた。


 離れと聞いて本物の離れで暮らしているなんて思わないよね。


 足を運んで無人だった瞬間、肝を冷やしたとか。


 陛下や王妃は信頼のおける人物であるのに何も言わなかったのは、私のためだろう。


 王宮の人間と一括りにするわけではないけど、王宮内で私が受けた仕打ちを考えると、情報が漏れる可能性がある以上、私の居場所を易々と教えられるわけがない。


 一つの敷地に三つの建物が建てられるって広すぎやしませんか?


 異世界だし何でもありと納得したほうが余計なことを考えなくて済む。


「コトネ様が聖女でないとしても、女性をこのような……。いや、まぁ。不便がなさそうなのはいいことだが」


 国王陛下としての威厳がなくなるほど驚きツッコむ。


 快適に過ごせているとわかってもらえたようだ。


 シェイドに椅子を用意してもらい陛下には座ってもらった。息を整えてもらうために冷たい水を出した。


 お茶だと飲んでもらえないかもしれないから。


 護衛も付けていないため、目に見える安全は必要だ。


 一気に飲み干した陛下は空になったグラスを見つめた。


 ただの世間話をするために私の居場所を探していたわけじゃあるまい。


 友愛が何か仕出かしたのだろうか。だとしたら私には関係ないと突き返そう。


 心を鬼にして。


「コトネ様。シェイド様。どうか我がグランロッド国にお力を貸して下さいませ」


 恥を忍ぶどころか土下座された。


 ポカンとアホ面を晒していると、ここ一ヵ月、とある領地で原因不明干ばつ続きで川の水が引き上がってしまったとか。

 このままでは疫病が流行る可能性も出てくる。


 豊かな土地が荒れ地となってしまう。


 かろうじての対策はしているものの、間に合っていなかった。領地を預かる貴族も商人から買い付けた水を配ったりしているらしい。


 人工的に雨を降らせる画期的なアイテムなんてなく、自然の雨を今か今かと待ち続けている。


 ここからでは国民の苦しみはわからない。


 水不足は死活問題。蓄えがあるとは言え、いずれ底がつく。


「シェイド」

「嫌だ」


 食い気味に断られた。


「そこの二人は心音の下僕故に、力を使ってやっているが、国などどうでもいい」

「お願い。都合良く利用してるのはわかってる。でも、シェイドにしか頼めないの。苦しんでる人を助けて欲しい」

「お前の……そういうとこが私は好きなのだ」


 頬に手を添え微笑んだ。


「貴様らはせいぜい心音に感謝することだな」


 指を鳴らすだけで天気まで操れる。


 空は晴れたまま恵みの雨が振る。


 陛下は頭がめり込むぐらい再び強く床に叩きつけた。


 かなりいい音がしたな。


 プライドを捨ててまでも国のトップとしてやるべきことをやる姿はカッコ良い。


 キースの真面目さは父親譲り。カイザー様の残念な性格は誰似?


 突然変異だとしたら恐ろしい。


 キースが陛下を立たせた。いつまでもあの状態でいられるのは心臓に悪い。


「本当にありがとう。コトネ様」

「お礼は私じゃなくてシェイドに」

「いいや。心音にだ。心音に頼まれなければこんな国、私が干からびさせてるところだ」

「またそんな心にもないこと言って」

「本気だ!お前を家畜扱いした報いは受けて当然だ」

「それは国民じゃないよ。シェイドもわかってるでしょ?」


 暴言を吐いたのも不当な扱いをしたのも王宮のごく一部の人間。


 それにシェイドは私が頼まなくても雨を降らせてくれた。


 一度はグランロッド国に加護を授けていた。この国が好きだから。


 千年経ってもその想いは変わらないと信じたい。


 深刻な問題も無事に解決したことだしお祝いでもしよう。


 毎年、テストが終わる度に欠かさず食べていた『まちのケーキやさん』のロールケーキ。


 甘すぎず丸々一本食べられる美味しさ。


 初めて見る物に陛下は困惑している。王妃様の分と二人分を手土産に持たせて、鮮度命のケーキだからシェイドに陛下を王宮に送ってもらった。


 瞬間移動ってやつだ。


「ありがとう、シェイド」

「いちいち礼はいい」

「ううん。私がしたいの」


 頬を薄く染めるシェイドは口元に手を当てたまま顔を逸らした。


 精霊王なんて呼ばれているけど、私達と同じ感情を持った優しい人に思う。


 だってシェイドは私に合わせて人の姿でいてくれる。耳の尖りはなくなりキラキラのオーラも抑え気味。


 二回目に会ったとき、なぜあんなにも輝いていたか聞いてみれば初対面でキースをキラキラしたイケメンと評価したことに根に持ったそうだ。


 些細なことで嫉妬するシェイドは可愛い。


 人の姿でいるのはいいけど初恋だった高校の先輩はやめて欲しいんだけどね。


 他の顔に変えてと頼んでも私の好みにしているから無理だと却下。


 カッコ良くてスポーツ万能で学校中の人気者。全校女子の憧れでもあり、好意の的でもあった。


 ミーハー気分で好きだったわけじゃなく、私なんかにも優しく接してくれるとこが好きになった。


 ──まぁ…………その先輩は友愛と付き合ってたけど。


 今日もいつもと同じ、ぐうたらで小屋から出ない時間を過ごした。


 これから先もずっとそうなるはずだった。




 このとき、私はまだ知る由もない。


 雨を降らせたことにより面倒なことが待ち受けていると。

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