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カゾクアイ  作者: 紀章櫻子
第一章
9/60

9話 忍


 忍を初めて認識したのは3歳の時だ。

 母親同士が幼馴染で仲が良く、実際に俺と忍が初めて会ったのは3歳よりも前になる。


 忍は3歳にしてもうほとんど出来上がっていた。


 元々静かな性格だったんだろうが、転んで血が出ても平然と自分で手当てをするし、誰かに甘えたりすることもない。

 表情をあまり変えず、話しかけてもそっけない態度。


 正直、俺は忍が苦手だった。


 小学2年生の時、母親が病気にかかり、入院した。

 今思い返せば特に大した病気でもなかったはずだが、俺はその時なぜか、入院したら死んでしまうと思い込んでいて、怖くて仕方なかったのを覚えている。


 そんな時に声をかけてきたのは忍だった。


『ねえ、どうしてそんな泣きそうなの?』


 俺はクラスの調子乗り的な存在で、いつも通り男友達と騒いでいたはずだ。気を紛らわせていたとも言うが、とにかく、俺の不安に気づくヤツはいなかった。


 なのになぜか、クラスが同じだけで特に関わりのなかった忍が見抜いてきたのだ。


 話しかけられた帰り道、俺は忍から話しかけてきたことと2重で驚いた。


 忍は相変わらずそっけなかったが、『何かはきだしたいことがあるなら聞くけど』と、言ってくれたことに俺は何だか救われるような気がした。


 ブランコに乗りながら、俺は忍に不安を全部吐き出した。

 忍は特に表情を変えることなく、最後まで静かに聞いてくれた。

 気が済むまで話すと、日が沈みかけていて、空が赤くなっていた。

 気づけば、心が軽くなっている気がした。


『……康のお母さん、早く良くなるといいね』

『……うん』


 そんなやり取りをしたのを覚えている。


 忍の母親が他界していることは知っていた。

 父親が仕事で忙しいことも。


 だから誰よりも、誰かに聞いてほしい、吐き出してしまいたいと思うことを抱えているはずの忍が、黙って話を聞いてくれたことに俺は子供ながらに感心した。


 それからも忍は相も変わらずそっけなかったけど、前ほど苦手だとは思わなかった。

 むしろ、その静かさが心地いいと思う時だってあるくらいだ。


 自分がだんだん忍に惹かれていくのもわかった。


 いつか、忍の支えになってやりたい。あの時してもらったように、今度は俺が忍の話を聞いてやりたい。頼ってほしい。


 そんな思いが強くなっていった。


 ずっと見てきたからわかる。

 忍は自分で思ってるよりかなり不器用だ。

 

 大体のことは1人でできてしまうし、あまり表情を動かすこともないから、とっつきにくいと思われやすいが、ふたを外せば忍だって笑いたいときは普通に笑うし、泣きたいときは泣く、普通の女の子だ。

 それどころか、出会って1日で迷子の女の子を引き取る、ちょっと変わったヤツ。


 友達がいないとか嘆いてるくせに、大学を卒業して2年目の今、彼女の電話帳は大手企業のお偉いさんの番号でいっぱいだ。


 ただ、同級生とかになってくると、ほど良い距離感というものがわからなくなるらしい。

 俺はもう慣れたけど、どうしても返事がそっけなくなってしまうし、昔からの習慣で誰かに頼ることもしない。


 だから、さっきの電話は結構驚いた。

 初めて、忍が俺を頼ってくれたから。

 

 ……まあ、友達として、なんだけど。


 でも、その迷子の女の子を引き取ったことがきっかけで、忍がだんだん誰かを(というか俺を)頼れるようになっていくんじゃないかって期待を俺は密かに抱いている。

 

 

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

感想や誤字、脱字等あれば是非教えてください。

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