表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カゾクアイ  作者: 紀章櫻子
第一章
7/60

7話 母親


「あら、寝ちゃった」


 すやすやと寝息を立てている結を起こさないように、そっと電気を消す。

 

 今日はいろんなことがあった。

 迷子の女の子と仲良くなって、その母親とけんかして……挙句の果てにひきとることになって。

 いきおいで動いている気がしなくもないけど、まちがったことをしてしまったという感じはない。


 私は結の隣に寝転んだ。


 布団、買いに行かなきゃ。今は結が小さいから2人で1つの布団でも問題ないけど、これからどんどん大きくなっていくだろうし。あと、服とかも。

 明日は土曜日だし、一緒に買い物に行こうかな。幸い、大学ではバイトばっかりしてたし、節約もちゃんとしてたから貯金はある。


 ……それにしてもやっぱり結の母親は許せないな。

 結はあんなこと言われても、嫌いになれないって言ってたのに。

 母親って子供にとってそんなに大きな存在なんだろうか。


 ――母親。


 私は『母親』という存在をあまり知らない。

 私の母は私が物心つく前に他界したらしい。

 

 そもそも、『家族』というものがわからないのだ。

 父は毎日仕事で忙しく、あまりしゃべらなかったし、祖父や祖母にもほとんど会ったことがない。時折親戚の集まりで会うか、年賀状を出すくらいだ。

 

 小学生の時、親子で参加する授業があったけど、私は1人で受けたし、中学生の時に、進路学習で親の仕事について親にインタビューする宿題が出た時も、ネットで調べて提出した。

 宿泊行事でホームシックになる子がいた時も、まったく理解できなかった。


 ……まあ、つまるところ、私はそういう『家族愛』に疎いのだ。

 家族? だから何? みたいな。


 そんな私が、はたして結の母代わりなんてできるのだろうか。

 もちろん大切に育てるつもりだし、やりたいことはできるだけやらせてあげたいと思っている。


 でも、正解がわからない。

 どうすることが正解で、どうしたらまちがいなのか。

 

 『家族』として、私は結のそばにいられるのだろうか。


 ……ヤバい。なんか不安になってきた。

 しっかりしろ、忍! もう後にはひけないんだから。今ここで悩んだって、どうにもならないんだから。

 できるかぎり、思うかぎりのことを、結にしてあげなくちゃ。

 自分が正しいと思ったことを、結にしてあげればいい。

 

 そうやって自分を奮い立たせていると、ふいに携帯が鳴った。

 あまり音量は大きくなかったけど、結を起こしちゃまずいと思って慌てて部屋から出る。

 画面を見ると、会社からの電話だった。


「はい、綿野です」


 電話に出ると、課長の慌てた声が耳に飛び込んできた。


『あ、もしもし綿野さん!? 実は今ちょっとトラブルが起きちゃって! 明日、会社に来てもらえる!?」


「え、何があったんですか?」


『いやぁ、製品の数が全然違ってたみたいで……。取引先の社長が激怒しちゃって』


 えぇ……マジで? そんなことある?


『そんなわけで頼むよ、他のみんなはどうしても来れないみたいで、綿野さんにしか頼めないんだ。休日なのにごめんね』


「あ、ちょっ、私も明日は」


 ツーツーツー


 ……うそでしょ、切れちゃった。


 明日、結のものを色々そろえようと思ってたのに。

 っていうか、明日は結、幼稚園ないって言ってたし、どうすればいいの!?

 さすがに1人で留守番させるのはかわいそうだし……。

 

 悲しいことに私は信頼できる友達が少ない。

 っていうか、ほとんどいないんだよね。


 時間をみれば、まだ9時だ。

 子供の夜って早いんだな。


 ……ちょっと、頼ってみようかな。

 

 私は画面をタップして、電話をかけた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

感想や誤字、脱字等あれば是非教えてください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ