6話 カレー
「ねえ結、カレー味っていったい……って、何してんの!?」
キッチンに駆け込んでみれば、結がなぜか調理台に身を乗り出して手を伸ばしていた。
「やかん……」
「やかん!? なんでやかん!?」
「ゆい、おてつだい……っおゆわかすの……っ」
「だからなんでお湯!? ちょ、とりあえず下りて! 危ないから!」
慌てて結を調理台からひきはがすと、結はキョロキョロ周りを見渡す。
「そういえばしのぶ、らーめんどこー?」
「ラーメン!?カレーじゃなくて?」
少し考えて、私は気づいた。
「ねえ、結が今作ろうとしているごはんってなあに?」
「えとね、カップにおゆいれてね、3ぷんまてばできるらーめん! たまにおかあさんがつくってくれたの!」
「……その他にはお母さん、何作ってくれた?」
「?」
コテン、と首を傾げる結に私はピシッと固まる。
あんの母親……まさか結に作ってあげた料理がカップラーメンだけなんて……。っていうかそもそもカップラーメンは料理するに入らないし! 引き取って良かった……。
「結、今日はカレー味じゃなくて、本当のカレーを作ろうね?」
「? うん!」
結は満面の笑みでうなずいた。
「しのぶ、なにこれ!? いいにおい!」
「カレーだよ。結、ニンジンの皮むき、ありがとね」
「うん! 楽しかった!」
瞳をキラキラさせる結がかわいくて、思わず笑顔になる。
「それじゃ、食べよっか」
「うん!」
「「いただきます!」」
言うなり1口カレーを食べた結は、顔を輝かせた。
「おいしい!」
「ほんと? 辛くない?」
「ちょっとからいけど、おいしい!」
「そっか。よかった」
それじゃ、私も1口……とカレーを口に運ぼうとして、動きを止める。
…………。
「……結、どうしたの?」
なぜか先ほどから結がじぃぃぃっと私を見つめてくる。
「……えーっと、食べにくいんだけど」
チラッと結を見てみるも、視線が離れることはない。
しかたなく手を動かしてカレーを食べた。
「ん! おいしい!」
カレーを食べるのは久しぶりで、自然と口元がほころぶ。
あとから来るピリッとした辛さがたまらない。
いつもよりおいしいかも……。
ガタッ
結が私を見たまま、テーブルの上に身を乗り出した。
「え、あの、結さん……?」
びっくりして固まる私を食い入るように見つめた結は、突然フニャッと笑った。
「いいねぇ。いっしょにたべるの、うれしいねぇ」
のんびりとうれしそうな声。
たぶん、結は母親と一緒にご飯を食べることがあまりなかったんだろう。
……そういえば、私も誰かと一緒に食卓を囲むのは久々な気がする。さっき、いつもよりカレーがおいしいと感じたのはそのせいだろうか。
「そうだね、うれしいね」
何とも言えない温かな感情があふれてる気がして私もフッと笑顔を浮かべた。
「だけどね、結。テーブルに乗り出すのはちょっとやめようか」
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