56話 大人の半分
ひそひそとおしゃべりの声が聞こえてくる多目的室。
昨日先生が言っていたように、今日の6時間目は学年集会で、チャイムが鳴る5分前にわたしたち4年生は多目的室に集められた。
何の話をされるのかみんな知らなくて、話の内容を予想し合っている。
「ねえねえ結ちゃん、何の話だと思う?」
「んー、最近ちこくが多いとか?」
「えー、おこられるのー? やだー」
「ねー」
わたしもみんなと同じようにとなりの子とこそこそ。
怒られるのはイヤだけど、今までの学年集会は行事のお話か怒られる話のどっちかだったから、大体の行事が終わった今、おこられるとしか思えない。
うーん、でも、怒られるようなことしてる子ってほんのちょっとしかいないのになぁ……
キーンコーンカーンコーン
と、ここでチャイムが鳴った。
さっきまですみっこで何やら話し合ってた先生が1人、わたしたちの前に立つ。
いつも明るくて気さくでかわいくて人気だけど、怒ると怖い女の先生。
怒る時も行事の説明の時も大体この先生がお話をするから、今日のお話がどんなものかはまだわからない。
でも、先生の顔は意外にも明るかった。
「姿勢を正して、礼!」
「お願いします!」
「「「おねがいします」」」
いつものやり取りの後、悪い話ではなさそうな雰囲気
に、みんなが先生が話し出すのをじっと待っている。
先生はわたしたちの顔を見渡して、ニコッと笑った。
「今日は2分の1成人式の話をします!!」
「2分の1成人式かぁ……そういえば行事の予定に書いてたけど、何のことかわかんないし、わたしたちには関係ないことだと思ってたなぁ」
「それなー。ってか、あたしは1年の予定の紙なんか見てないから、最初ホントに何言ってんのかわかんなかった」
今日も今日とてれいちゃんとのかえり道。
今日の話題はさっきの学年集会で聞かされた『2分の1成人式』というもののことだ。
2分の1成人式、というのは、成人式をする20才の半分、10才の時にする行事のことだそうだ。
お父さんやお母さんに、大人になる半分まで来ましたよー、育ててくれてありがとーって伝えるために、歌を歌ったり、将来の夢とかを言ってみたりするんだって。
あと、これはまだおうちの人にはナイショだけど、お手紙をサプライズで書くの!
2分の1成人式をする日は2か月後の土曜日で、明日から色んな準備をしていくらしい。今日は、その告知と、先生からおうちの人に向けて、ぜひ来てくださいねってことが書かれた漢字いっぱいのお手紙が配られた。
……忍、来てくれるかなぁ。
『え、行くよ、絶対行く』
真顔で当たり前のことみたいにうなずく忍の顔がうかんできて、ちょっと笑ってしまった。
「でもさぁ、将来の夢とか言われても、あたしまだ決まってないんだよなぁ」
れいちゃんのつぶやきにハッとする。
「たしかに! わたしもまだ決まってない!」
「だよなー? どんな仕事があるのかもよくわからないし、調べてもあんまりピンと来なかったりするからなぁ」
2人でうーん、と首をかしげる。
将来の夢……大人になったらしたいこと……忍の仕事はたしか、雑貨を作って、それをお店で売ってもらうためにお店に紹介するお仕事だって言ってた気がする。
忍はあまり仕事の話はしないけど、毎朝きれいな白いシャツを着て、背筋を伸ばして家を出ていく姿はカッコいいと思う。
わたしも、忍みたいな大人になりたいな……
「あ!!」
「わっ どうした結」
「れいちゃんっ 別に将来どんな仕事をしたいかを決めるんじゃなくて、どんな大人になりたいかを将来の夢にしたらいいんじゃない!?」
わたしは忍みたいな、カッコよくて優しくて家事も仕事もきちんとできる人になりたい!
それだって、ちゃんとした将来の夢だよ!
れいちゃんはいきなりのわたしの勢いに、目をぱちぱちさせていたけれど、みるみる顔を輝かせてわたしの手を握った。
「いいな、それ! まだはっきりとはしてないけど、そういう、なりたい自分ってやつはあたしにもある!」
「ほんと!? どんなの!?」
「えっと、たとえば~」
『なりたい自分』について思う存分語り合った後、わたしはれいちゃんとバイバイして忍と住む自分の家へと帰る。
10才、大人の半分。
そう考えた時、ふと、わたしは今までの人生の半分を忍と過ごしていることに気が付いた。
大人の半分、人生の半分。
自分でもよくわからないけど、なんだかこの10才という年れいが、わたしにとってすごく大切なもののような気がして、笑顔がこぼれた。
これから先、本当の成人式がある時にも、変わらず忍といられたらいいな。
その時には、人生の半分なんかじゃなくて、もっともっと長い時間を、忍と過ごしたことになるんだろう。
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大変長らくお待たせしました。申し訳ありません。
実は受験生になりまして、今年度の投稿頻度が今まで以上に不定期になると思います。
体調はすこぶる元気ですし、カゾクアイはもう少し続きますので、次の投稿を気長に待っていただけると幸いです。