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カゾクアイ  作者: 紀章櫻子
第二章
57/61

55話 関係


 結がすやすやと寝息を立てているのを確認して、私、綿野忍はそっと部屋のドアを閉める。


 はあ……今日も相変わらず寝顔すらかわいい……。


 噛みしめながらリビングに戻る。

 椅子に座ると、今日はやけに部屋の静けさが気になった。

 しんとした空間で、時計が秒針を刻む音や食洗器の音がやたらと大きく聞こえる。


 私は無意識に、ため息をついていた。


 結と暮らし始めて5年が経った。

 新生活にも慣れて、変わらず仲も良好、かなり上手くやっていけていると思う。

 結の学校生活も、結の話を聞く限りはすごく楽しそうで、私の仕事も少し忙しさは増したものの、順調だ。


 だけど、ずっと引っかかってたことがある。

 結を引き取ると決めて、結と一緒に過ごす時間が、思い出が増えていくにつれて、日に日に増していった心残り。


 本当にこのまま、結をここに置いていていいのか。


 もちろん、結を引き取ったことに悔いはないし、むしろ、引き取ると決めたあの時の私を誇りに思う。

 でも、結はどうだろう。

 小さかったあの頃とは違い、結はもうだいぶ自分で色んなことを考えられるようになった。

 もしかすると、今まで育ててもらった恩があるからと言い出せないだけで、本当はやっぱり本当のお母さんの方がいいって思っているかもしれない。

 私がしたことは、いわばただの私のエゴで、結が望んでいたこととは違うのかもしれない。


 最近はずっとそんなことばかりを考えてしまう。


 結が小学校に入学するとき、諸々の手続きをするために、1度結の母親に会いに行ったことがあった。


 彼女もまた相変わらずで、訪ねてきたのが私だとわかると、面倒くさそうに舌打ちをして、


『あたしはもう結とはカンケーないから。勝手にしなよ』


 と、家にあった結関連の物を全部私に渡してきた。

 それでもなんだか納得いかないって気持ちが顔に出ていたのか、彼女はまた舌打ちをして、部屋に落ちていたと思わしきくしゃくしゃの紙に、『結に関する権利は全部忍サンにあげます』という内容を書いて、サインまでして押し付けてきた。

 そして最後、


『もう来んなよ』


 と言い捨て、ドアを閉めた。


 ……いや、もしもあそこで、『やっぱり結を返せ』とか言われたら私もどうしようかと思ってたけどね?

 あんなどうしようもない人だから、私も胸を張って結を引き取って良かった! って言えるわけだし。


 でもなんか、なんか消化不良……!


 そうやってモヤモヤしながら、数年が経った。

 私と結は、まだ養子縁組を結んでいない。


 会社の詳しい人に聞いてみると、結にとっての今の私の関係は、『監護権者』と言うらしい。

 親権は持っていないけど、子どもと一緒に暮らして育てる権利を持っている人のことだそうだ。

 そして、監護権者の交代には手続きも必要なく、本来は父母、私達の場合は私と結の母親との話し合いで決められるものだそうなので、私が結と一緒に暮らしているのは合法とのこと。


 とはいえ、結の意思を聞いていないのは事実。

 そろそろ、結に直接聞いてみてもいい頃なのかもしれない。


 カチカチカチカチと、時計の音がいやに響く。


 ああ、嫌だな。

 もしも、結が、本当の母親と暮らしたいって言いだしたら。

 絶対にあの人じゃ結を幸せにしてくれないってわかっていても、結の幸せが実母の傍にいることなんだって言われたら、私、何も言えない。

 だって私は、結とはもともと何の関係のない、赤の他人なんだから。たまたまの幸運で、結と巡り合えただけなんだから。


 この考えも、一体今日で何回目?

 要するに、私は怖いだけ。

 私の元から結がいなくなっちゃうのが辛いだけ。

 結のいない生活に戻るのが考えられないって自分勝手な理由だけだ。

 そのくせ、今の私と結の関係に、納得できないでいる。


 わかってる。

 わざわざ結の母親に会いに行って、こんな人に結は任せられないって大義名分作って、会社の人にまで聞いて自分は間違えてないって安心して、それでも結局こんなにも不安になるのは、全部結のためじゃなくて自分のための行動だからだ。

 それを解消するためには、結の気持ちを直接確認するしかないってことも。


 ちゃんと、わかってる。けど……


 私は頭を抱えて、本日2度目のため息をついた。

ここまで読んでくださりありがとうございます!

次話も気長に待っていただけるとうれしいです。

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