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カゾクアイ  作者: 紀章櫻子
第一章
50/61

50話 報告


「あ、忍! 結ちゃん! いらっしゃい!」


 ガラス戸につけられた鈴がからんと鳴る。

 ロッジ風のかわいらしい雰囲気の店内に入ると、すみにあるカウンターから身を乗り出してこちらに手を振る1人の女性。


「朱音、おはよう」

「おはよー!」


 私の数少ない友人、保月朱音(ほづきあかね)

 彼女はこの服屋さん『CLOVER』の店長で、ここにおいてある服はみんな手作りしてしまうというほど手芸好き。しかもものすごく上手だしかわいいから、結の服は大体ここでそろえている。


「なんだか久しぶりな感じがするね」

「そうだよお、最近あたし出番少ないんだよぉ!」

「何の話?」


 カウンターから出てきた朱音と他愛のない話をしながら、服が陳列された棚に結と手をつないで歩いていく。


「また服増えた?」

「そー! 季節の変わり目だし、デザインがいっぱい浮かんできちゃってさぁ。時間忘れて打ち込んじゃったよね! 真翔もぜんっぜん帰って来ないし!」


 あははっと笑う朱音の声に若干闇を感じる。

 朱音の旦那さんである真翔さんは、若くして有名企業の社長を務めていて、今は新年度の準備で忙しいらしい。

 この時期はどの職場もバタバタするものなんだなぁ。


 だけど、頬を膨らます朱音を見てクスッと笑みがこぼれてしまった。


 だって、朱音は超がつくほどの鈍感で、真翔さんとの2人の特別な場所らしきところに無邪気に私と康と結を招待し、せっかく真翔さんが1日休みを取れたクリスマスという日に私達を誘ってクリスマス会を開こうとしたこともあるのだ。

 その度に私と康は真翔さんが気の毒で頭を抱えていた。

 真翔さんは朱音を溺愛しているので、その分なおさら。


 でも、朱音もなんだかんだ真翔さんのことが大好きなんだよね。


 膨れたほっぺをつっついて、私は朱音に、今日お店に来た第2の目的を果たすべく声をかけた。


 そう、あんまりかしこまった感じになっちゃうと恥ずかしいから、あくまでもさりげなく。立ち話をするみたいな軽さで……


「ねえ、朱音。今ちょっと時間ある? 話したいことがあって」

「ん? 全然いいよ! 今はお客さんも忍達しかいないし、奥の部屋でお茶でも飲む? 用意してくるね!」

「え、あ、お構いなく……」


 止める間もなく、朱音は風のように去っていった。




「やったね康君……!」

「ついに綿野さんが彼氏持ちかぁ」


 案内された奥の部屋で、テーブル越しに対面に座った朱音がガッツポーズをし、その隣の一条さんが感慨深そうに腕を組んでうなずいた。


 ……なんか、似たような光景を前も見た気がする。


「というか、なんでまた一条さんがいるんですか」

「それはもちろん、綿野さんのかわいい話を聞くためよ。というか、せっかくグループ作ったのに私だけ誘わないってどういうつもりー?」

「わ、ちょ、やめてください!」


 一条さんがうりうりと私に接近しながら頬を引っ張ってくる。


 や、一応一条さんにもちゃんと言おうとは思ってた。

 でも、やっぱり会社の上司にこういう話するとか私にはハードルが高かったんだもの……!


「まあでもとりあえず!」


 パンッと手をたたき合わせて朱音がニッと笑った。


「忍、おめでとう」

「綿野さん、おめでとう」


 一条さんも、私から少し体を離してニッコリ。


 そんな風に改めて言われると、やっぱり恥ずかしくて、でもちょっと嬉しくて。


「……ありがと」


 顔に熱が集まるのを感じながら発した言葉は、自分でもびっくりするくらい幸せが滲んだ声だった。


 瞬間、2人がニマァッと悪く笑った。

 ゾワッと背中に嫌な予感。


 テーブルに肘をついて悪役の女王様みたいな顔でポーズを決めた朱音が口を開く。


「それで? 告白の言葉は何だったの?」

「え、や、」

「そもそも私、綿野さんと幼馴染君がどういう関係だったのかいまだに全部把握してないんだけどぉ」

「あの、ちょっ 一条さん食い込んでる!」

「「洗いざらい、聞かせてもらうよ!」」

「あぁぁぁもぉぉぉぉ!」


 やっぱりこの2人に同時に話すんじゃなかった。

 手を組んだ朱音と一条さんに、本当に洗いざらい話を聞かんと質問攻めにされて、私は後悔した。


 騒がしい休日の午前が流れていく。


 たぶん真っ赤になりながら2人と攻防していた私は、ふと、結がずっと静かなことに気が付いた。


「…………」


 見れば結は、膝の上に置いた手を固く握りしめ、うつむいている。

 心なしか、表情も暗い。


「結、どうかした?」


 食い込みそうなくらい近づいてくる朱音と一条さんを抑えながら、聞いてみる。

 すると結はハッとしたように顔を上げて、


「……ううん! なんでもないよ!」


 そう言って、またニパッと笑ってみせた。


 ……やっぱり。

 この前から、結はたまに、笑顔を作る。

 何かを隠したりごまかしたりするみたいに。


「本当に?」

「うん!」

「本当の本当?」

「ホントのホント!」


 じっと見つめてみても、きょとんとした顔で見つめ返してくる。


「……じゃあ、何かあったら絶対に言うんだよ。どんなに小さなことでもいいから」

「はーい!」


 気づいているのに何もできない自分がもどかしくて腹立たしい。

 「何かあったら言う」なんて、ここまで隠してる子が言う可能性は低いだろうな……。


 何としても聞きだしたい気持ちの代わりに、わしゃわしゃと結の頭を両手で撫でる。

 すると結は楽しそうにキャッキャと笑った。


 守りたいこの笑顔……ううん、守らなきゃ。

 どうしたらいいのかはまだわからないけど、絶対に。


「え、ちょ、」

「おわあ!」


 知らぬ間に全体重を私の手に預けていたらしい一条さんと朱音が支えを失って倒れこみ、テーブルの上が大惨事になったのは、また別のお話。

大変長らくお待たせしました。

康は忍に告白されたその日に真翔さんにメール報告しています。

ここまで読んでくださりありがとうございました。

次回も気長に待っていただけると嬉しいです。

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