5話 決意
「ねえ結、私と一緒に暮らさない?」
私がそう言うと、結は『え?』とまばたきを2回。
「ゆいが、しのぶとくらす?」
「うん。絶対に大事にするから。……あ、でも、お母さんの方が良かったら言ってね? ちゃんと結が元の生活に戻れるように謝って話を――」
ふいに、結が私の手首をつかんだ。
「しのぶはゆいのこと、いるの?」
真剣な表情でそう言われてキョトンとする。
だけどすぐに意味が分かって、私は結に笑顔を向けた。
「『いる』とはちょっと違うかな。私は結と『一緒にいたい』。ま、私のわがままだけどね」
少し残っていた涙を拭って言ったその時だ。
突然結が私に飛びついてきた。
「うわっと……」
よろけてしりもちをついて、今度は私がまばたきを2回。
「え、ど、どした?」
「ゆ、ゆいはしのぶといても、いいの? ゆ、ゆいがいたら、しのぶ、うれしい?」
私を見上げた結の顔は涙にぬれていた。
私はそっと結の頭をなでる。
「もちろん、うれしいよ。一緒にいてくれるの?」
「うんっ」
「そっか。……ありがとう」
私は結の頭をなで続け、しばらくして結に言った。
「さぁ、一緒に帰ろう」
この日、私は結の母代わりになることを決めた。
なにがあってもこの子を守ると。
「結、今日からここが結の家だよ」
「たかーい!!」
「言うほど高くはないけどね、3階だし」
玄関のドアを開けるなり窓にすっ飛んでいった結に苦笑する。
「結、いーい? ここはマンションだから、家を出たら静かにすること。他の家の人の迷惑になっちゃうからね」
「わかった!」
「それと、マンションの廊下とかエレベーターで誰かに会ったときはきちんとあいさつをすること」
「わかった!」
「よし。じゃ、何がわかったのか行ってごらん?」
「いえをでたらしずかにする! だれかにあったらきちんとあいさつする!」
「そう! 完璧! 結は賢いね。それじゃ、手を洗っておいで。今日の夕飯は結の好きなものにしてあげるから、結も手伝ってくれる?」
「やったー! 手伝うー!」
頭をなでると、結はうれしそうに洗面所へかけていった。
「しのぶー! とどかなーい!」
「あ、そっか」
結の声に、早足で洗面所へ向かい、結を抱える。
台、買わないとな……。
バシャバシャと手を洗う結を見ながら、私は聞いた。
「結は何が食べたい?」
「えっとね、カレー味!」
「は? 味?」
どういうこと、と聞く前に結は手を拭いて、今度はキッチンへとかけていく。
「え、ちょっと待って」
私はささっと手を洗い、結を追いかけた。
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