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カゾクアイ  作者: 紀章櫻子
第一章
4/60

4話 宣言


 ドクドクと全身の血が激しく脈打っている。


「あなた母親でしょ!? 自分の子供になんてこというんですか!!」

「アンタには関係ないでしょ!? 部外者がいちいち口挟まないでよ!」


 ドロドロとした黒い感情が、私を襲う。

 それはまごうことなき『嫌悪感』だった。

 こぶしを強く握り、唇をかむ。

 

 その手に温かいものが触れた。


「しのぶ?」


 結が固く握られたこぶしを小さな両手で包み、私を見上げている。


 そのぬくもりに、私は少し落ち着きを取り戻し、力を抜いた。


 ……そうだ。今この人と言い争っても仕方がない。だけど、このまま結をほっとくわけにもいかない。


 デパートの前で結を抱き上げたときのことを思い出す。


 あの時触れた結の体はすごく細くて軽かった。そういう体質なのかと思ってたけど、違う気がしてきた……。


「ちょっとアンタ、なんとか言いなさいよ!」


 結の母親が詰め寄ってくる。


「何? だんまり? イライラするんだけど!」


 あーもう、うるさいっ!


「私が結を育てます!!」


 私は1歩、足を踏み出した。


「……は? どういうこと?」

「そのままの意味です。初対面の方に失礼ですが、きっとあなたよりも私の方が結を大事に育てられると思う。少なくとも、『いらない』なんて絶対に言わない!」

「あっそ。だったら勝手にしなさいよ! むしろそうしてくれると助かるわ! あーすっきりした!!」


 バンッと大きな音を立ててドアが閉まる。


「おかあさん……? しのぶ!? どうしたの!?」


 閉められたドアと私を見比べた結は、私の顔を覗き込み、目を見開いた。


 雫が頬を伝って地面をぬらす。


「しのぶ、ないてるの?」

「…………なさい」

「え?」

「ごめんなさい!」


 私は地面に膝をつき、結を抱き寄せた。


 ほっとけなかったとはいえ、結の気持ちも聞かずに母親を引き離してしまった。

 でも、まちがったことをしたなんて思えない。

 それがただの自己満足に思えて、ひどく嫌だ。

 

 ぐちゃぐちゃとした感情が涙となってこぼれていく。


「結、ごめんね! お母さん、結から奪っちゃった……!」


 すると、結が私の首にギュッと腕を回してきた。


「ゆいね、ほんとはしってたよ。」

「……何を?」

「おかあさんがゆいのこと、きらいなの」


 結は少し震えながら、続ける。


「でもね、ゆい、しらないふりしてた。きらいっておもわれてるのしってたけど、ゆいはおかあさんのこと、きらいになれないの」

「ゆ……」

「ねえしのぶ、ゆいはいらないこなの?」


 言葉を失った。


 すぐ近くにある哀しい瞳。

 涙はないのに、泣いているみたいだ。

 胸が締め付けられたように苦しい。


「ゆいがいないほうが、みんなうれしい――」

「そんなことない!」


 私は結の頬を両手で挟み、その瞳を見据えた。


「結がいらない子なんて絶対にない! 少なくとも私は結が大好きだし、いなくなったら悲しい。自分がいらない子だなんて、絶対に言わないで!」

「しのぶ……」


 私は手を放して息をつき、改めて結を見つめる。


「ねえ結、私と……私と一緒に暮らさない?」

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

感想や誤字、脱字等あれば是非教えてください。

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