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カゾクアイ  作者: 紀章櫻子
第一章
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39話 谷川家再び


「おー、忍ちゃん、結ちゃん、いらっしゃーい。あけおめー」

「あけおめー! 久しぶりー」


 居間に入ると、相変わらずな陽君と燈君が振り向いて陽気に挨拶をしてくれた。


 もう結構お酒を飲んでるらしい。おじさんに関しては、座布団に頭を預けて熟睡している。


「忍ちゃんが来るまでは起きてるって言ってたんだけどねぇ。息子たちが思いっきり飲ませちゃって」

「いやいやー、父さんが弱いだけだろー」

「そーだそーだ! まだ缶ビール2本しか飲ませてないぞー」


 おばさんに抗議する弟2人に対し、康はため息をついて眠っているおじさんの傍に寄り、ズルズルと引きずりながら隣の和室へと運んで行った。


 なんというか……康も大変そうだなぁ……。


「しのぶー、きょう、そうくんいない?」


 くいっと袖を引っ張られて下を見ると、結が上目遣いで私を見上げていた。


 ダメだ、抗う術がないほどにかわいすぎて顔が緩んじゃう。

 ……って、たしかにそうだ。結が来たと知ったら真っ先に玄関に飛んできそうな実は小さい子好きの谷川家末っ子、想君がいない。


 キョロキョロと周りを見回す私に、おじさんを運び終えて戻ってきた康が言った。


「想なら、さっき女子に呼び出されて出かけたよ。2人から駅についたって連絡がくるちょっと前だったかな」

「へぇ、何か用事があったのかな?」


 あ、用事じゃなくて、初詣とか遊びに行くとかのお誘いかな。想君はまだ高校生だし、家族よりも友達と遊ぶ方が楽しいだろうし。康も高校生の時はよく友達と遊びに行ってたし……


「結、想君は学校のお友達と会ってるみたいだから、今はいないんだって。きっと夜までには帰ってくるだろうから、帰ってきたらいっぱい遊んでもらおうね」

「うんっ! なんじくらいにかえってくる?」

「んーと……おばさん、想君って友達と遊びに行ったら帰ってくるのって大体何時ですか?」


 おばさんを振り返って、私は、はた、と動きを止めた。

 気づけば、陽君も燈君も康もおばさんも、ぽかんとした顔で私を見つめている。


 あれ? 私何か変なこと言ってる? もしかして、最近の高校生って、友達と遊びに行ったら朝になるまで帰ってこない?


「し、忍ちゃんって、やっぱ相当鈍いわよねぇ」

「女子から呼び出されたって聞いて、素直に用事とか遊びとかに結びつけられるか?」

「まあ、だからこそ、康兄の気持ちに一切気づくことなく今まで友達という関係を続けてこれ……ぃだっ!」


 燈君の頭に、康のげんこつが落ちた。

 陽君は缶ビールを片手に肘をつき、何やらかっこつけた姿勢でちょいちょいと手招き。


「まあまあ忍ちゃん、とりあえず座んなさいな。ずっと立ちっぱなしも何だしさ。そして語り合おうじゃないか」

「ようくん、きゅうにどうしたのー?」

「さあ……? 酔っぱらってるんじゃないかな?」

「冷静に突っ込むのやめて。恥ずかしいから。とにかく、座って何か飲みなよ。色々大量に買って来ちゃったから」


 その言葉通り、食卓には大量の飲み物が並べられていたので、私と結はお言葉に甘えることにした。

 用意されていた座布団に座って、ジンジャーエールをもらう。結はオレンジジュース。


「……それで? 想君は何しに行ったの? 遊びに行ったり用事とかではないんでしょ?」

「ま、確実だとは言えないけどね。アレはたぶん、オレが思うに、告られに行ったな」

「こくられに?」


 聞き返した私に、大きくうなずく陽君と、「生意気だよなー」と首を振る燈君。

 私と結は顔を見合せた。


 こくられに……? 告られに……? あ、告白されにってことか!


「なるほど」

「あれ? あんまり驚かないね」

「だって想君も谷川兄弟の1人だもの。いや、まあ、新年早々告白はなかなかできないと思うけれどね。おみくじ、恋愛運良かったのかな?」

「おっと? おれたちのせいで忍姉に変な耐性がついちゃってない?」


 谷川兄弟は本当に美形だ。よく考えれば、康も陽君も燈君もよく女の子たちからキャーキャー言われてたし、想君も年が離れてるからあまり意識したことなかったけれど、あのかっこよさなら日常的に告白されても普通だろう。


「それじゃ、想君はその子とお付き合いとかするのかな?」

「あ、いや、想は……」


 ワクワクとした感情が芽生えてきた私が首を傾げると、なぜか燈君は言葉を濁す。


 その時。


「ただいまぁ!」


 玄関から若干キレ気味の声が聞こえてきて、どすどすとこれまた機嫌の悪そうな足音が近づいてきた。

 そして次の瞬間、スパンッと襖が開かれ、見るからにいらだった様子の想君が現れる。


「あーもうマジで新年早々イライラする!」


 部屋に向かってそう叫んだ彼と、目が合った。


「……忍姉ちゃん?」

「……お邪魔してます」


 私がいることに驚いたのだろう。想君は高速で2回瞬きをして、ハッと私の背後……つまり、結に視線を向けた。


 優しいイメージの想君が怖い顔で大きな声を出したからか、結は私の背中に隠れ、様子をうかがうようにちょこっとだけ顔を出している。


「ゆ、結ちゃん!」


 そんな結を見て、想君が「しまった」と青ざめた。

 結はおずおずと口を開く。


「……そうくん、おこってる?」

「お、怒ってない! 怒ってないよ!」

「うそつけ」

「思いっきりキレてたじゃんかよ」

「兄ちゃんたちうるさい!」


 結の問いかけに即答した想君に、すかさずヤジが飛ぶ。

 兄弟喧嘩が始まりそうだったので、私は慌てて想君に声をかけた。


「そ、想君! なんかだいぶ嫌なことがあったっぽいけど、どうしたの?」


 谷川兄弟の中でもそこそこ温和な想君がここまで怒っ……てはいないらしいけど、しかめっ面になるのは珍しい。

 一体呼び出されたときに何があったというのか。


 想君は私の隣に腰を下ろし、「あのさ……」と話し始めた。


「想、話す前に手を洗って来なさい。最近いろんな風邪が流行ってるんだから」


 一言目を発しようとしたその時、おばさんが遠慮なくそれを遮った。

 想君は黙って立ち上がり洗面所へと向かう。しばらく水が流れる音がした後、戻ってきた想君は私の隣に腰を下ろし、「あのさ……」と話し始めた。

大変長らくお待たせしました。

三月ごろから投稿頻度を戻していけたらと思いますが、それまでは投稿しない日が続くと思います。

読んでくださっている皆様、申し訳ございません。

待っていただけると嬉しいです。

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