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カゾクアイ  作者: 紀章櫻子
第一章
35/61

35話 紅葉狩り


 11月。

 秋も深まり、色とりどりのニットやカーディガンが街を彩り始めたころ。


「しのぶ、みてみて! まっかっか!」

「うわぁ、きれいなの見つけたね。本に挟んで持って帰ろうか」


 私と結は、近所の山に、紅葉狩りにやってきました。


 紅葉を初めとするたくさんの葉っぱたちがあたり一面赤く色づいて、すごくきれい。

 周りにはあまり人もいないから、美しい景色をゆっくり堪能できる。


「あ、結、これ見て。葉っぱに穴があいて顔みたいに見える」

「わぁ! ちょっとおこってるねぇ」

「結ちゃん! 勝手にどこかに行っちゃダメだゾ!」

「あははは! ゆい、いいこだからしのぶからはなれないもん!」


 キャッキャッと楽しそうに飛びついてくる結。


 よかった。スベッたらどうしようかと思った。


「あのね、ゆい、きょうはいっぱい、はっぱあつめてね、みんなにくばるんだー」

「それはいいね。誰に配る?」

「えっとー、れいちゃんでしょ、こうでしょ、あとあかねとまなと! あ、そうくんにもわたせるかなー?」


 「れいちゃん」というのは、結の幼稚園の友達。2人はすっごく仲が良くて、幼稚園から帰ってきた結は真っ先にれいちゃんの話をする。

 私もれいちゃんには何度か会ったことがあるけど、まっすぐで優しい良い子だ。


 そして、「そうくん」というのは谷川想、康の弟のことだ。この前地元に帰ったときに、想君は結をすごくかわいがってくれて、今では手紙のやり取りをするほど仲がいい。


「それじゃ、しおりにして渡そうか。その方がきれいな状態で渡せるし、使いやすいからね」

「うん!」


 結と手をつないでもう少し歩いていくと、公園のような広場に出た。


 タイミングよく、結のお腹が鳴る。


「しのぶ、おなかすいた」

「あはっ だよねー。もうお昼前だし、結構歩いてきたもんね。お昼にしよっか」


 今日は朝から山の中を歩いてきたし、いつものことながら結のテンションはずっと高かったし、お腹がすくのは当然だ。

 私もお腹すいてきてたし。


 レジャーシートを敷いて、その上に腰掛ける。

 不意に、結が私の脚の間に挟まるように座った。


 ……おっと? ここにすっっごいかわいい生き物がいますが、どういうことでしょうか。

 っていうか、結ってまだちっちゃいから、脚の間にすっぽり入れちゃうんだよっ あーかわいいぃ!


「結、どうしたの?」


 ぎゅっとしたい衝動を抑え、結を見る。


「えへへ」


 結は照れたように笑って、ぽすっと私の胸に背中を預けてきた。


「ゆいね、きょう、しのぶをひとりじめなの」


「!!」


 我慢できずに私は結を抱きしめる。


 ダメだこの子……! かわいすぎて誘拐とかされないかすごく心配。いや、させないけどね?


 っていうか「独り占め」って……そういえば最近、結と2人だけで出かけるのってあまりなかったかも。大体康とか朱音とかが一緒で3人以上で行動することが多かったから。家での時間は多いわけじゃないし。


 寂しい思い、させてたんだろうか。


 私は結に笑顔を向けた。


「それじゃ、私も今日は結を独り占めしちゃおうかなっ」

「うん! いいよ!」

「わっ!?」


 勢いよく、結が飛びついてくる。


 突然のことで押し倒されてしまった私の真上で、結はうれしそうに笑った。


 その、まぶしいくらい明るい笑顔の向こう。


「わ……!」


 視界に飛び込んできた景色に思わず声をあげる。


 真っ赤な紅葉が高く澄みきった青空を彩って、木漏れ日が私たちに降り注いでいた。


「結、見てみて!」

「わわわっ」


 クルッと半回転させられて仰向けに転がされた結は、一瞬ムッとして私を見たものの、私と同じ景色を見たのだろう。


「わぁぁ……っ!」


 目をキラキラまん丸にして、空と紅葉と光の風景に見入っている。


 少し冷たい、秋の風が頬を撫でた。

 もうすぐ、冬が来る。


 ぼんやりと空を見上げていたその時。


 グゥゥゥゥゥッ


「!?」


 ハッとして結の方を見ると、結はお腹を押さえて、恥ずかしそうに私の胸に顔をうずめた。


 ヒクッと口角が震えて、私は耐えれず吹き出してしまった。


「しのぶわらうなー!」

「あはははっ 結ごめんね、お腹空いてたよね。お昼にしよう」


 ダメだ、かわいすぎる。

 顔を赤くしてるところも、お腹空いてるのを我慢してくれてたところも。


「でも、お腹空いてるのを我慢しなくていいからね」


 わしゃわしゃと頭をかきまぜると、結は顔をうずめたまま、コクッとうなずいた。


 レジャーシートの上にお弁当を広げて、お腹いっぱいになるまでたくさん食べる。


 おにぎりをほおばった結の口元についた米粒を私が取って、顔を見合わせ笑い合う。


 こんな穏かで幸せな日々が、ずっと続きますように。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。

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