26話 帰省①
「あー、やっと着いた……」
改札を出た私は、ググっと体を伸ばす。
しばらく電車に乗ってたから、体が少し固まってしまった。
「しのぶ、ここが、しのぶとこうがすんでたところ?」
結がつないだ私の手を引っ張る。
「そうだよ。ここで私も康も大きくなったの」
「しっかし、昔とあんまり変わらないよなぁ。もうちょっと変化してもいいと思うんだけど」
答える私の隣で、康は苦笑いだ。
と、いうわけで、今日からお盆休み。
私たちは地元へと帰ってきました。
といっても、私は実家に帰らず、康の実家にお邪魔させていただくんですけども。
「しのぶ、しのぶ、なんかいつもよりすずしいし、きもちいいね!」
「ああ、ほぼ山の中だからね。空気がきれいだし、静かでいいよね」
結はこれが初めての旅行らしく、家を出たときからずっとソワソワ落ち着かない様子。
「康の家に着いたら、ちゃんとあいさつするんだよ?」
「うん!」
いい笑顔。
今日も今日とてかわいいです。
「よし、母さんたちには連絡したし、行くか」
今の間に電話をしていた康が戻ってくる。
私たちは、久しぶりに地元の大地を踏んだ。
「あらあらあら! いらっしゃーい! 忍ちゃん、よく来たわね! あっ、この子が結ちゃん!? まぁ、かわいい! 結ちゃんもよく来たわね、疲れたでしょう? アイス買ってきてるからあとで食べていいわよー! あ、あとね、」
「ちょちょちょ、母さんストップ!」
マシンガンのようにしゃべる母親を、康が止める。
「母さん落ち着いて。忍も結も若干ひいてるから」
「あら、わたしったら。ごめんねぇ」
「……いえ」
私は少し苦笑いで首を振る。
玄関が開いた瞬間この連続トーク。
結は驚いたのか、ポカンと口を開けて固まったままだ。
私がツンツン肩をつつくと、結はハッとして、ペコリとお辞儀。
「し、しまだゆいです。5さいです。よろしくおねがいします」
「あら、かわいい。康のお母さんでーす。こちらこそよろしくねぇ」
頭をなでられ、結はくすぐったそうに笑った。
「おばさん、今日から数日お世話になります」
「やだ、お世話になりますなんて、なんだか他人行儀よ。今更なんだし、自分の家だと思ってくつろいでいいからね、忍ちゃん」
「はい。ありがとうございます」
変わらない、優しい笑顔。
その笑顔に、私もつられて笑う。
「忍、荷物運んじゃうから、先に上がってくれ」
「あ、ごめん康。私も運ぶよ。どこに行けばいい?」
康と並んで持ってきた荷物を部屋に運ぶ。
「変わってないだろ、うちの母親」
「うん。でも、なんかちょっと安心」
クスッと笑うと、康は、もうちょっと落ち着いてくれても、と苦笑いだ。
部屋に荷物を運びこむと、おばさんが顔を出した。
「康、忍ちゃん、結ちゃん、お昼ご飯できたから一緒に食べましょ。あ、その前にちゃんと手を洗ってきてね。みんな待ってるわよー」
私たち3人は顔を見合わせた。
そういえば、さっきはおばさんと話してたから気にならなかったけど、たしかにワイワイと盛り上がっている声が聞こえる。
「……急ごうか。待たせちゃうと悪いし」
「だな。結、ご飯だから、手、洗おうな」
「うん!」
急ぎ足で洗面所に向かう。
なんだかもう、すべてが懐かしくて、無意識のうちに笑みがこぼれていた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
帰省編、長くなりそうです……!
どうぞお付き合いください。