25話 かき氷
「あっつーい!」
「夏だからねぇ。クーラーつけたから、もうすぐ涼しくなると思うけど……」
溶けそうな勢いで床に転がる結に、私も汗をぬぐいながらうなずく。
セミがうるさく鳴いていることで、よりいっそう暑く感じさせる夏の昼下がり。
普段は窓を開けて過ごす派の私も、今年はあまりの猛暑にクーラーをつけた。
「こんなに暑くなるなら、買い物のときにアイス買っとけばよかったな」
朝のうちはまだ今ほど暑くなかったから、買い物に行ったりもしたけど、今はもう外に出たくない。
「……アイス」
「ごめん結。次からはちゃんと買ってくるから」
とりあえず脱水症状や熱中症にならないように水分を取ろうと冷蔵庫を開け、麦茶を取り出す。
コップに氷を入れようとして、はた、と動きを止めた。
そういえば。
「結、ほら、お茶」
「んー、ありがとぉ」
1度結にコップに注いだ麦茶を手渡し、またキッチンに戻ると、私は棚の中を漁ってみた。
「たしかこの辺に入れた気が……」
1番下の棚の奥を見ると、お目当てのものを発見。
「やっぱりあった」
私は自然と口角が上がるのを感じながら、空っぽのコップをおでこに当てている結を振り返る。
「結、アイスはないけど、かき氷食べない?」
どどん、と私たちの前にあるのは、鮮やかな水色のかき氷機。
1人暮らしを始めたころに福引で当てたものだ。
使う機会がなかったから、棚の奥にしまい込んでいたけれど、残しといてよかった。
「しのぶ、どうやってかきごおりつくるの?」
「えっと、氷をセットし、器を下に置いて上の部分を押すんだって」
説明書を見ながら、その通りに準備する。
氷をセットし、かき氷機の上部の少し出っ張っているところを押し込むと……
ヴィィィィィン!!
「うわ!?」
思ったよりも音と振動が大きくて、思わず手を離す。
「びっくりした……」
結も目をまん丸にして後ろに下がっていた。
……わりと大きな声で叫んじゃって、ちょっと恥ずかしい。
恥ずかしさをごまかすようにかき氷機に近づく。
と。
「あ、結」
私は下がったままの結を手招き。
結は少し恐る恐るといった感じで私のところまでやってきて、パッと顔を輝かせた。
「かきごおり! ちょっとできてる!」
器の中に砕かれた氷が少し入っている。
音が大きかったから壊れてるんじゃないかと一瞬不安だったけど、大丈夫だったみたいだ。
「ゆいもかきごおりつくる!」
結が瞳をキラキラさせて手を伸ばしてきた。
うん。こっちも暑さで溶けちゃうんじゃないかと不安になったけど、安定のかわいさだね。
「じゃ、台を持っておいで。危ないから」
私がそう言うと、結はすぐさま台を持ってきた。
「どこおすの?」
「ここ」
台に乗って、私が指さした場所を結が押す。
ヴィィィィィン!!
かき氷機が作動すると一瞬ビクッとなりつつも、楽しそうにかき氷ができていく様子を覗き込む結がかわいい。
「……結、そろそろいいんじゃない?」
しばらくして私が声をかけると、作動音が止んだ。
器にこんもりと雪山のようにかき氷が盛られている。
「わ、上手に作ったね」
「ゆいがつくったんだよ!」
「うん。結は器用だね」
うれしそうな笑顔の結の頭をなでる。
結は近くに出していたスプーンを持って、できたてのかき氷をすくった。
そしてキラキラと私を振り返る。
「しのぶ、たべてもいい?」
「もちろん。いいよ」
私がうなずくと同時、結はパクッとかき氷を口に入れた。
「……」
「どう? おいしい?」
「……」
なぜか黙ったままなので顔を覗き込んでみると、結は眉根を寄せて、なんだか微妙な表情だ。
「結?」
「つめたいけど、あじしない……」
結の言葉に私はポンと手を打つ。
そうだ。かき氷ってシロップかけないとただの氷だ。忘れてた。
だけど、困ったな。シロップなんかないし……
ぐるっとキッチンを見渡して、代わりになりそうなものを探す。
ふと、よさげなものが目に入った。
「結、メープルシロップかけてみよう」
以前ホットケーキを作ったときに余ったものだ。
これなら甘いし、液体だし、ちょうどいいかも。
茶透明のシロップをかけてやると、氷が少ししぼむ。
おいしそう。
結がまたパクッとひとくち。
「んーーーー!」
今度は満面の笑みだ。
「今度こそ、おいしい?」
「うん! すっごくあまくておいしい! しのぶもたべよ!」
その後、ようやくクーラーがきいてきた部屋で2人、結お手製のメープルかき氷を食べた。
冷たいのに、心は温まる、不思議な甘いかき氷だった。
メープルかき氷、食べたい……
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