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カゾクアイ  作者: 紀章櫻子
第一章
24/61

24話 海④


「いやー、楽しかったなー」

「ゆい、もっとあそびたかった……」


 レンタカーを運転しながら笑う康と、ちょっとしょんぼり気味の結。


 日はもうだいぶ傾いて、空がオレンジに染まっている。


「康、疲れてない? 運転、代ろうか?」


 私は後部座席の結の隣から、バックミラー越しに康を見た。


「大丈夫だよ。さっきちょっと寝たしさ。それより忍こそ少し寝れば? 朝、早く起きたんじゃねーの」

「平気よ。いつもと同じくらいの時間だし」

「だから忍の睡眠時間は毎日足りないんだよ」

「でも、」

「忍」


 落ち着いた、でも、少し強い口調で名前を呼ばれて、言葉を止める。

 鏡に映る康と目が合う。


「忍、お前は人に甘えなさすぎ。これくらいのことで遠慮されてたら、忍の家にただで夕飯食べさせてもらいに行ってる俺はどうなんの」

「いや、それは私が勝手にしてるだけで」

「だったら俺も勝手に運転してるだけだよ。それよりほら、結のほっぺ、ぱんぱんに膨れてるけど?」

「え」


 康に言われて横を見ると、たしかに結がむくれていた。


「ゆい、べつにいいもん。がまんできるもん」

「あああ、ごめん! ほったらかして」


 結のぷくぷくほっぺを両手で挟んでしぼませる。

 だけどまた空気が入って膨らみだす。


「康」

「ん?」


 私は結のほっぺを挟んだまま、今度は鏡越しではなく、運転席の康をのぞき込む。


「安全運転、お願いします」

「任せなさい」


 ごめんね、と言いかけてやめた。

 今、私の中では康に対する申し訳なさでいっぱいだけど、こういう場合、康に言う言葉は「ごめん」じゃない。


「えっと、あ、ありがとう」


 少し小さくなってしまった声。

 康にはちゃんと聞こえたらしい。

 彼はなんだかうれしそうに笑って胸を張った。


 私はまだむすっとしたままの結に目を戻し、あ、とカバンを開ける。


「えーっと、あ、あったあった。結、これ見て」


 中から透明のビニール袋を取り出し、結にかかげて見せる。

 む、と顔を上げた結の目が、途端に輝いた。


「しのぶ、それかいがら!?」

「そうだよ。思い出にというか、記念にね」


 大小さまざまなたくさんのかいがら。

 ピンクっぽいのもあれば、白いものもあるし、渦巻き型のものもある。

 浜辺を歩いているときに集めてみた。

 なんというか、結が喜びそうな気がして。

 私もかいがらを集めるのはわりと好きな方だし。


「みせて、みせて!」

「はいはい、ちょっと待ってね」


 ビニール袋を開けて渡すと、結は宝物にでも触れるみたいにそっとかいがらをすくい上げた。

 もう、目がキラッキラ。

 それだけで、私は拾ってきてよかったと思う。


「あ、そういえば忍」


 結の頭をなでていると、不意に康が口を開いた。


「忍ってお盆、ヒマ?」

「まぁ、仕事はないけど……どうしたの?」

「いや、その、この前母さんから連絡あってさ、俺は毎年実家に帰ってるんだけど、今年は忍も一緒にどうだって」

「私?」


 自分を指さすと、康がこくっとうなずく。


「なんで?」

「俺、ちょいちょい近状報告とかしてるから、母さん、最近俺が忍と会ってること知ってるんだよ。結のこととかも。それで、結ちゃんも一緒においでって。勝手にしゃべったのは悪かったけど」

「別にそれはいいけど……」


 康のお母さんには、私も小さい頃によくお世話になった。父親が仕事で遅くなるときとか。


 ……なんというか、パワフルな人だ。


「でも、家族水入らずのところ、お邪魔じゃない?」

「向こうが呼んでるんだし、その辺は大丈夫だろ。それより、そっちがどうなんだよ。予定とかねえの?」

「今のところは特に何も。でも、そっか、実家かー」


 この夏休み、結と泊りで遠いところに出かけたい気持ちはあった。

 実家。なるほど、のんびり過ごすにはちょうどいいかも。


「康、おばさんにお邪魔じゃなければ行きますって伝えておいてくれる?」

「ん、来るのか?」

「ダメ?」

「ダメじゃないけど……いや、何でもない。伝えとくな」

「? よろしく」


 言葉を濁す康に少し首を傾げつつ、軽く頭を下げる。


 沈んでいく太陽の光が、康や結、そしてたぶん私をオレンジ色に包んでいた。 


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

次回も読んでくださると嬉しいです。

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