22話 海②
みんなで海に来ました。
「さて、忍」
「……何」
仁王立ちで私の前に立つ朱音を見上げる。
朱音はにんまり笑って、私の肩に手を置いた。
「あたしたちも、若者に交じって、海を楽しもうじゃないか」
「えぇ……」
正直、海は嫌いじゃないけれど、水着になるのは嫌だ。
中学生くらいから、プールの授業を嫌いになったのはそのせいだ。
「……朱音はすごいね」
「何言ってんのよ。ほらほら、早くパーカー脱ぎなよ、見てて暑いからさ。下、水着着てるんでしょ」
「わっ、ちょっと」
ほとんど強制的に、パーカーをはぎ取られる。
直に風が肌にあたり、何とも心もとない。
「なんだ、嫌がるわりに、普通に似合ってるしかわいいじゃん」
まじまじと私を見ながら真顔で言う朱音に、パーカーを被せる。
顔が熱い。
「あれー? もしかして照れてるー?」
私はパーカーの下からニヤニヤと笑う朱音の首根っこをむんずと掴み、そのままずるずると海まで引っ張っていった。
「んな……っ」
結と一緒に砂山を作っていた康は、私を見るなりスコップをポロッと落とす。
「……あのさ、康。私、これでも今、精神的にいっぱいいっぱいだから、これ以上心をえぐらないでいただけるとうれしいんだけど」
そりゃ、康だっていい歳した幼馴染の水着姿なんて見たかないだろうけどさ。
「え、いや、そういう意味じゃ」
「しのぶ、かわいー!」
康が何か言いかけたのをさえぎり、結が飛びついてくる。
「ありがとう、結。優しいね」
あぁ、かわいい……! 心の傷を一瞬で癒してくれる海の天使だわ……!
「……康君、ドンマイ」
「……おう」
なぜか康がうなだれており、朱音が励ましているけど、なんだろうか。
「しのぶ、うみ! うみはいろ! つめたくてね、きもちーの! あとね、おさかなさんがね、いるの!」
結が一生懸命私の手を引く。
ちょっと康たちが気になったけれど、結のかわいい姿に、すぐどうでもよくなる。
冷たく、気持ちいい波が足を濡らした。
しばらく進むと結の肩くらいまでの深さになったので、少しひざを曲げて全身水につかる。
「しのぶ、きもちいい?」
「うん、気持ちいいよ。日陰だったとはいえ、ずっとパラソルの下はやっぱり暑かったみたい」
結に笑顔を向けたその時だ。
バシャッ
水しぶきが飛んできて、私にかかった。
振り返ると、「イタズラ大成功!」とでもいうように朱音が笑っている。
「ちょっと、朱音」
「へへーん、気持ちいいでしょ!」
得意げに胸を反らす朱音に、私は小さくため息。
「あ、朱音、こっち来て。これ見てよ」
「ん? なになに?」
私が呼ぶと、朱音はキョトンとしつつ、私の所まで入ってきた。
水面から少し出して軽く握った私の両手を朱音がのぞき込んだ瞬間、海水が朱音の顔に直撃する。
「うわっ、口に入ったんだけど!」
「朱音は素直だね」
してやったりと口の端を持ち上げると、今度は私と朱音に水がかかった。
「やったー! あたったー!」
「お2人さん、俺たちも忘れないでいただきたいな」
ばんざいして無邪気に笑う結と、ちょっと悪い笑顔の康。
私と朱音は顔を見合わせ、うなずいた。
「っあー、疲れた」
「たのしかったー」
さっきまで私がいたパラソルの下のブルーシートに、康と結が寝転がる。
あれからずっと水のかけあいをしてたから、結はともかく私が入る前から結と遊んでいた康は、だいぶ疲れたことだろう。
途中から、着替えてきた真翔さんも参戦してたし。
真翔さんは今康の隣に座って、2人で何か話している。
私はというと、朱音の隣でぼーっと海を眺めていた。
「ねぇ、忍、ジュース買いに行かない?」
朱音に呼ばれて、我に返る。
「うん、そういえば、喉乾いたかも」
「ちょ、脱水症状とかならないでよ? 真翔、あたしたち、ジュース買いに行ってくるね」
朱音が真翔さんに声をかけると、真翔さんはうなずいた。
「わかった。ついでに俺のも適当に買ってきてくれる?」
「はいはーい」
そんなやり取りを聞きながら、私は結の方に目を向ける。
「しー」
それに気づいた康が口に人差し指をあてて、小さく笑った。
結をのぞきこむと、すやすやと寝息を立てている。
あれだけはしゃいだのだから当然だけど。
「康、私たちジュース買いに行くけど、何かいる?」
「んー、おいしそうなやつがあったら買ってきてくれるか?」
「了解」
私は立ち上がり、朱音と一緒に海の家の方まで歩き出した。
しばらくすると。
「ねえねえ、お姉さんたち、今ヒマ?」
「あっちでさぁ、おれ達と一緒に遊ばない?」
突然目の前に現れた若い男の人たちが声をかけてきた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
感想などありましたら、ぜひ教えてください。