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カゾクアイ  作者: 紀章櫻子
第一章
21/61

21話 海①


 ザザーン ザザーン


 寄っては返す白い波。

 じりじりと照りつける太陽。

 キャッキャッと楽しそうな声を上げる人々。


 8月、いよいよ本番を迎える夏。


 私は、海に来ていた。


「しのぶー! つめたくてきもちーよー!」

「忍、お前もこっち来いって! 暑いだろ」


 結と康が、海から手を振っている。

 パラソルの下、手を振り返した私は小さく笑みを浮かべた。


 結と一緒に暮らし始めて、約3か月。

 2人暮らしにもだいぶ慣れて、日々、楽しく生活している。

 特に結は、とにかくいろいろ初めてらしく、何をしてもさせても目を輝かせてくれるから、私もうれしくなるんだよね。


 で、今日は、夏と言えば、ということで海に連れてきてみた。

 最初はちょっと怖がってたけれど、慣れてきたら浮き輪でプカプカ浮きながら康と水のかけっこをして楽しんでいる。


 ちなみに康は、今日は何の用事もないそうで、行きたそうだったから連れてきた。


 ……にしても、やっぱり結はかわいいなぁ。

 3か月経っても見飽きることのない、相変わらずのかわいさだ。


「ん? あれ、忍?」

「え?」


 名前を呼ばれて振り向くと、水着姿の朱音がにひっと笑って立っていた。


「朱音!?」

「やっぱり! 偶然だね、まさかと思ったよ。結ちゃんも一緒?」

「うん。今、康と海に入ってる」


 結たちの方に目を戻すと、ちょうど康が結の浮き輪のひもを引っ張って、一緒に泳いでいるところだった。


「ありゃ、康君、いいお父さんみたいになってるねぇ」


 手をかざして目を細める朱音。


「だよね。康はきっといいお父さんになるよ」


 私も朱音に同調してうんうんとうなずくと、朱音は目を大きく開いて私を見た。


「……忍、本気で言ってる?」

「え? うん」

「……康君もかわいそうだな」

「何が?」

「いや、何でもない」


 朱音が首を振ったそのとき、康達が朱音に気づいたらしい。「おーい」と、手を振っていた。


「あはは、ヤッホー!」


 朱音も大きく手を振り返す。

 そして何かに気づいたように私を見た。


「そういえば……忍は海に入んないの? 荷物があるわけでもないよね? 暑いでしょ」

「うーん……日陰だしあんまり。というか、海なんて久々すぎてどうすればいいのかわかんないんだよね」


 たしか、最後に海に行ったのが小4だったから、えーと……


「朱音」


 私が頭の中で暗算を始めたとき、後ろから声がした。


「あれ、真翔(まなと)。着替えてないの?」


 朱音が振り向き、首をかしげる。

 私も脳内計算をストップし、振り返った。


「あ、真翔さん。こんにちは」

「あ、綿野さんも来てたんですか。こんにちは」


 私に爽やかな挨拶を返してくれたのは、朱音の旦那さん、保月真翔(ほづきまなと)さんだ。


 主に結の服は朱音の店、『CLOVER』で買っているし、用がなくても、買い物帰りとかにちょいちょい顔出してるから、顔見知りになった。


「今日は康君も一緒なんですか?」

「はい。結と遊んでもらってます」

「はは、いいですね」


 康はまぁ、基本誰とでもすぐに仲良くなれるから、朱音はもちろん、たまたま真翔さんと会ったときだって一瞬で仲良くなって、今では一緒にお酒を飲む仲になっている。


「で、真翔、なんでまだ着替えてないの?」

「あぁ、そうそう。なんか今、着替え室すごい混んでて。しばらく並びそうだから、先海入っといて」

「えー」

「着替えたらすぐ行くからさ」


 頬を膨らます朱音を真翔さんが宥める。


 仲いいなぁ……。私、ここいていいのかなぁ……。


 ふわふわとした、何ともこそばゆい気持ちに包まれながら2人を見守っていたら。


「んー……じゃ、忍と入ってるね。さすがに1人は寂しいし。

でも、なるべく早くね!」

「了解」


 ムギュッと腕に抱きつかれて、私は「へ?」と間抜けな声を出す。


「え、ちょ、朱音、せっかく2人で海に来たんだから私はほっといていいんだよ?」

「いーの。ほっといても気になっちゃうし。いいよね、真翔」

「うん。綿野さん、しばらく朱音をお願いしますね」


 真翔さんにまでニッコリ言われて、私は断れないことを悟った。


「りょ、了解です……」


 2人っきりの邪魔を平気でするほど私も野暮ではないんだけどな……。


 思わず小さくため息をついた。 

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

なかなか投稿してませんが、気長に待って頂けると幸いです。

感想などありましたら、ぜひ、教えてください。

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