20話 おでかけ⑥ 2人
「はぁー、疲れた……」
買った荷物をドサッと下ろし、ソファーに結を寝かせる。
ついでに、自分もカーペットに倒れ込んだ。
時計を見れば、午後3時。
思ったよりも早く買い物が終わったなぁ。
家具屋さんで2時間くらい家具を見て回った後、私と結はフードコートでご飯を食べた。
そのあと、結の靴やカバン、おもちゃとかを見に行き、大体の買い物は終了。
時間がまだまだあったので、公園に寄って見ると、結は大はしゃぎであっちこっちを駆け回り、しばらくして戻ってきたと思ったら今度は電池切れのように眠ってしまった。
子供って……自由……。
私はそんなことを思いながら、結を背負って家まで帰ってきたわけだけど。
まぁ、おでかけ、楽しかったな。
ちょっと疲れたけど。
誰かと買い物なんて、ほとんど経験なかったから。
気持ちよさそう眠っている結を見上げ、手を伸ばす。
ふわふわとした髪をなでると、結は「うーん」と、もぞもぞ動いて、またすやすや寝息を立て始めた。
私は起き上がり、寝室からタオルケットを持ってきて、そっと結に被せた。
幸せそうな寝顔。
私は笑みをこぼして、気づかないうちに自分も夢の世界に誘い込まれていた。
ピンポーン
インターホンの音に飛び起きる。
しまった。
寝ちゃってた!
今何時!?
時計は4時を指していた。
1時間も寝てたらしい。
ソファーでは、まだ結がぐっすり眠っている。
ピンポーン
またインターホンが鳴った。
おっと、忘れてた。
早くしなくちゃ。
「はーい」
髪を手ぐしで整えながら、玄関のドアを開ける。
「よ、よお」
立っていたのは康。
走ってきたのか、息を切らしていた。
「康、どうしたの? 急ぎの用事?」
「い、いや、そういうわけじゃないけど」
言葉を濁した康は、私を凝視する。
「何よ」
「朝の、現実だったんだ……」
「はぁ?」
「あ、いや、そういう服を忍が着るの、珍しいから」
康の言葉に、私は自分がワンピースを着てることを思い出す。
「あぁ、これね、結の服を見に行った時にペアでどうぞって勧められちゃって。結も私とペアで着たいって言ってくれたから、断り切れず」
私はスカートのすそをちょこっと持ち上げて、康に見せた。
「ね、この刺繍すごくない? 全部朱音の手作りなの」
「あかね?」
「あ、朱音はこの服を売ってたお店の店長。同い年でね、仲良くなったんだ」
「ああ、結が言ってた『あかねちゃん』か。結の友達かと思ってたわ」
はは、と笑う康に、つられて私も笑顔になった。
そのあとちょっと話して、康は帰った。
一応、晩ご飯に誘ったんだけど、今日はやることがあるらしい。
そんなわけで、私は今、2人分のパスタを作っていた。
結も起きてきて、スープを混ぜる手伝いをしてくれている。
届かないから、今日買ってきた台を早速使って。
1人暮らしはたしかに気楽で自由だ。
自分のことだけ考えて、好きにできる。
だけど。
「しのぶ、もーちょっと?」
「うん、もうちょっと混ぜてね……って、ちょ、結、なんか触った!?」
弱火にしてたはずが、いつの間にか強火になってる!
あわてて結を台から下ろし、スイッチを切る。
「結! 危ないから! 危ないからこの辺のスイッチとか勝手に触っちゃダメ! 火傷しちゃうから! あと、スープ焦げちゃうから!」
振り返ると、結はしゅん、とうつむいていた。
「……ごめんなさい」
「うーん、まぁ、気づかなかったのは私だし、次から気をつけようね」
しょんぼりしている結の頭をポンポンとたたくと、結はチラッと私を見上げる。
上目づかいかわいい。
「スープ、おいしくない?」
「え? あー、焦げてるかもってこと? ちょっと待ってね」
私はスプーンと小皿を出して、スープをすくい、食べてみた。
「……うん、おいしい。結がちゃんと混ぜてくれたからだね。焦げてないよ」
グッと親指を立ててみせると、結の顔が明るくなる。
「ゆいもゆいも」と、手を伸ばしてきたので、新しいスプーンでスープをすくい、小皿とともに渡した。
結はふぅふぅ冷ましてスープを飲むと、ものすごくいい笑顔になる。
ほらね、少しハラハラするけど、2人で並んで料理するのも悪くない。
2人で味見して、こうやって、おいしいねって笑いあえるのも。
これから、何が起きるかなんてわからない。
もしかすると、突然結のおばあちゃんとかが出てきて、結を引き取りたいって言いに来るかもしれない。
そのとき、結は「おばあちゃんと住む」って、ここを出ていくかもしれない。
それは全部仕方のないことで。
私には止める権利なんてない。
でも、それまでは。
結がここにいたいと思ってくれている間は。
家族として、この笑顔を守っていきたいと思う。
……そういえば、さっき康は何しにうちに来たんだろうか。
忍、まさか康がただ自分のワンピース姿を確認しに来ただけなんて思わないんだろうなぁ……。
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